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第一章
嵐の前の一時
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マギーおばさんが使ってもいいと言ってくれた馬小屋の中に入った私たちはようやく緊張を解いた。
「はぁ…。」
溜息を零して、藁の上に横たわるジェダイドに私は苦笑を浮かべる。
「藁がつくよ?」
「疲れているんだよ。」
「うん、慣れない事の連続だったものね。」
「……。」
それだけじゃない、というジェダイドの呟きが聞こえるが何の意味が分からく首を傾げる。
「マラカイトは辛くないのか?」
「このくらいの道のりならたまに来ているから、ジェダイドよりは多分疲れはないと思うよ。」
「……。」
ジェダイドは私の言葉を聞いて顔を顰める。
「日常だから麻痺をしているのか……。」
ジェダイドの言葉の意味がますます分からなかった、私は彼が何に対して辛くないのか、そう考えるが、答えには導く事は出来なかった。
「ジェダイド?」
「……。」
名前を呼ぶと、彼はゆっくりと顔を上げ、何か考えるそぶりを見せ、迷い、そして、意を決したようにその強い目を私に向ける。
「辛かったら答えなくてもいいから。」
「うん。」
「お前はいつもあんな不当な扱いを受けているのか?」
「不当な扱い?」
「……マギーおばさんの娘とかあの馬車で一緒だった男のような対応だよ。」
「普通の事じゃない。」
私がそう言ったら、何故かジェダイドは絶句し、そして、悲しみ、怒り、憎しみの篭った目をする。
ただ、その怒りや憎しみは私に向いていない事だけは分かった。
「仕方のない事、私の生い立ちを考えればね。」
「仕方ない事だと?」
怒りが滲み出る声音に一瞬彼の横に寝ているセラフィナイトが体を強張らせた。
「……。」
私は溜息を零したいのを我慢して、セラフィナイトを守るようにその腕に抱く。
「私はどこの誰の子か分からないの。
義母がとあるところから私を見つけ、そして、育ててくれた。
でも、その時からこの髪は真っ白で、しかも、そのとあるところが、墓場だから、私をアンテッドだと思っている人も少なくなかった。」
「なっ!」
私の言葉にジェダイドは絶句する。
私は何でこんな事を彼に話しているのか分からなかった、でも、口から零れる言葉は止まる事はなかった。
「勿論私はアンテッドなんかじゃない。
聖なる力を受けても、灰になる事も光の粒になる事もない。
むしろ、私の力はそっち向きだから、相手の力を利用して自分の力に変えて扱う事も出来る。
でも、そんな事は他の人は知らないし、教えようとは思わない。
人はね、異常なものを爪弾きに出来るの。」
私はそっと目を閉じ、自分を嫌っていた叔母を思い出す。
「大切な人を守る為に、異物を取り除こうとした人がいた。
でも、その大切な人は異物を受け入れた。
だからなのかな、その人は異物を嫌い何としても排除しようとした、当然の事だよね。
大切な人を守りたいのだから。
………私にも大切な人を守りたい気持ちは分かる、だから、この老人のような真っ白な髪、そして、子どもらしくない私を恐れる人は当然なんだよ。
むしろ、好意を抱く人の方が私にとって不思議。」
そう、始から私を人として受け入れる人の方が不思議だった、「前」もそうだし、今だって普通に考えれば変な人に分類される私。
そんな私を受け入れる亡くなった義母と義父、そして、マギーおばさんをはじめとする数人の人たちの方が異常のように思えるけど、彼らはきっと懐が広いから私でも受け入れてくれるのだと分かり、少しほっとした。
だって、無条件で私を受け入れる人の方が私にとって怖いから。
「前」だって自分を利用するために作られたただの形代、そんな人間でもない人を受け入れるなんて並の人間ではないだろうから。
自分を利用する為に優しくしているのではないのかと、思った時期だった始めはあった、それくらい、私にとって嫌われる方が日常で、安心が出来た。
「――っ!」
突然、ジェダイドに抱きしめられ、私は困惑する。
「どうしたの?」
「馬鹿が変な事を言っているから。」
「……。」
「俺は……お前が好きだから、だから、絶対に……俺はお前の傍に居る。」
「……。」
私はその言葉に二つの言葉が過る。
一つは、ありがとう、と返す。
もう一つはーー。
「無理よ。」
私はいつの間にか、彼に現実を突き付けていた。
「貴方は貴族様、私は平民。
身分差もあるの。
貴方はいつか貴族か「力」の持った人を妻にする、その人の為にも私との縁は切った方がいいの。」
「なっ!」
「それに、好きなんて言葉はたやすく言わない方がいい。
私だから勘違いなんてものは起こさないけど、普通の女の子だったら、勘違いをするよ?」
ジェダイドは何故か私を抱きしめる腕に力を入れた。
「………に……る。」
「えっ?」
耳が良いはずの私の耳にも届かなかった言葉、それは私の中ですぐに忘れてしまう。それは私が薄情とかではなく、この後起こる強烈な事によって忘れてしまう。
「ジェダイド?」
彼は私の肩を掴み、そして、その綺麗な緑色の瞳に私の顔が映る。
ゆっくりと、ゆっくりと、顔が近づく。
刹那、夕闇を切り裂くような悲鳴が私たちの間に割って入った。
「はぁ…。」
溜息を零して、藁の上に横たわるジェダイドに私は苦笑を浮かべる。
「藁がつくよ?」
「疲れているんだよ。」
「うん、慣れない事の連続だったものね。」
「……。」
それだけじゃない、というジェダイドの呟きが聞こえるが何の意味が分からく首を傾げる。
「マラカイトは辛くないのか?」
「このくらいの道のりならたまに来ているから、ジェダイドよりは多分疲れはないと思うよ。」
「……。」
ジェダイドは私の言葉を聞いて顔を顰める。
「日常だから麻痺をしているのか……。」
ジェダイドの言葉の意味がますます分からなかった、私は彼が何に対して辛くないのか、そう考えるが、答えには導く事は出来なかった。
「ジェダイド?」
「……。」
名前を呼ぶと、彼はゆっくりと顔を上げ、何か考えるそぶりを見せ、迷い、そして、意を決したようにその強い目を私に向ける。
「辛かったら答えなくてもいいから。」
「うん。」
「お前はいつもあんな不当な扱いを受けているのか?」
「不当な扱い?」
「……マギーおばさんの娘とかあの馬車で一緒だった男のような対応だよ。」
「普通の事じゃない。」
私がそう言ったら、何故かジェダイドは絶句し、そして、悲しみ、怒り、憎しみの篭った目をする。
ただ、その怒りや憎しみは私に向いていない事だけは分かった。
「仕方のない事、私の生い立ちを考えればね。」
「仕方ない事だと?」
怒りが滲み出る声音に一瞬彼の横に寝ているセラフィナイトが体を強張らせた。
「……。」
私は溜息を零したいのを我慢して、セラフィナイトを守るようにその腕に抱く。
「私はどこの誰の子か分からないの。
義母がとあるところから私を見つけ、そして、育ててくれた。
でも、その時からこの髪は真っ白で、しかも、そのとあるところが、墓場だから、私をアンテッドだと思っている人も少なくなかった。」
「なっ!」
私の言葉にジェダイドは絶句する。
私は何でこんな事を彼に話しているのか分からなかった、でも、口から零れる言葉は止まる事はなかった。
「勿論私はアンテッドなんかじゃない。
聖なる力を受けても、灰になる事も光の粒になる事もない。
むしろ、私の力はそっち向きだから、相手の力を利用して自分の力に変えて扱う事も出来る。
でも、そんな事は他の人は知らないし、教えようとは思わない。
人はね、異常なものを爪弾きに出来るの。」
私はそっと目を閉じ、自分を嫌っていた叔母を思い出す。
「大切な人を守る為に、異物を取り除こうとした人がいた。
でも、その大切な人は異物を受け入れた。
だからなのかな、その人は異物を嫌い何としても排除しようとした、当然の事だよね。
大切な人を守りたいのだから。
………私にも大切な人を守りたい気持ちは分かる、だから、この老人のような真っ白な髪、そして、子どもらしくない私を恐れる人は当然なんだよ。
むしろ、好意を抱く人の方が私にとって不思議。」
そう、始から私を人として受け入れる人の方が不思議だった、「前」もそうだし、今だって普通に考えれば変な人に分類される私。
そんな私を受け入れる亡くなった義母と義父、そして、マギーおばさんをはじめとする数人の人たちの方が異常のように思えるけど、彼らはきっと懐が広いから私でも受け入れてくれるのだと分かり、少しほっとした。
だって、無条件で私を受け入れる人の方が私にとって怖いから。
「前」だって自分を利用するために作られたただの形代、そんな人間でもない人を受け入れるなんて並の人間ではないだろうから。
自分を利用する為に優しくしているのではないのかと、思った時期だった始めはあった、それくらい、私にとって嫌われる方が日常で、安心が出来た。
「――っ!」
突然、ジェダイドに抱きしめられ、私は困惑する。
「どうしたの?」
「馬鹿が変な事を言っているから。」
「……。」
「俺は……お前が好きだから、だから、絶対に……俺はお前の傍に居る。」
「……。」
私はその言葉に二つの言葉が過る。
一つは、ありがとう、と返す。
もう一つはーー。
「無理よ。」
私はいつの間にか、彼に現実を突き付けていた。
「貴方は貴族様、私は平民。
身分差もあるの。
貴方はいつか貴族か「力」の持った人を妻にする、その人の為にも私との縁は切った方がいいの。」
「なっ!」
「それに、好きなんて言葉はたやすく言わない方がいい。
私だから勘違いなんてものは起こさないけど、普通の女の子だったら、勘違いをするよ?」
ジェダイドは何故か私を抱きしめる腕に力を入れた。
「………に……る。」
「えっ?」
耳が良いはずの私の耳にも届かなかった言葉、それは私の中ですぐに忘れてしまう。それは私が薄情とかではなく、この後起こる強烈な事によって忘れてしまう。
「ジェダイド?」
彼は私の肩を掴み、そして、その綺麗な緑色の瞳に私の顔が映る。
ゆっくりと、ゆっくりと、顔が近づく。
刹那、夕闇を切り裂くような悲鳴が私たちの間に割って入った。
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