17 / 136
第一章
村
しおりを挟む
いつの間にか天まで上っていた太陽が西に沈みかけて、私たちはマギーおばさんの村までたどり着いた。
「ふう、無事にたどり着いたね。」
「はん、こんな餓鬼を連れなくともよかったんじゃねぇかよ。」
「あんたはまだそんな事を言っているのかい。」
荷下ろしを手伝っていると聞こえてくる会話に私は目線を走らせ、ジェダイドを見る。
幸いにもジェダイドには彼女たちの会話が聞こえない位置にいた。
私はホッとして息を吐く、もし、彼がこの会話を聞いていたら間違いなく男に突っかかっていくだろう。
無駄な争いをしても、ジェダイドに得なんてないのに何で突っかかっていくのか私には分からないけど、それでも、彼の印象を下げるのは嫌だった。
だから、聞こえない事に私は安心した。
「マラカイト。」
「はい。」
マギーおばさんに呼ばれ私は彼女に近づく。
「少ないけど、今回の護衛の報酬だよ。」
マギーおばさんはそう言って掌に五千ルードを握らせた。
「えっ、あの…、ここまで連れてきていただいたのだから、これは受け取れません。」
「いいんだよ、それにあの狼を受け取らないだろう?」
「それは雇い主のものだから。」
「なら、これは特別報酬。」
「……。」
これは絶対に引かないだろう、それを理解した私は握らされたお金に視線を落とし困惑する。
「こんな餓鬼にこんなもんは必要ねぇだろう。」
男はそう言うと私の手から二千ルードを引き抜いた。
「何をするんだい。」
「ふん、こんな餓鬼に五千ルードなんて多いんだよ。」
そう言い残すと、男は逃げるようにして立ち去る。
「あいつは本当に…。」
怒りを押し殺したマギーおばさんに私は同情するように彼女を見る。
「……ごめんね、マラカイト。」
「いいえ、それにしても、中途半端に逃げられましたね。」
「……。」
私は周りを見渡し、明らかに片づけが済んでいない空き箱や、荷物を見て苦笑を浮かべる。
「片づけるまでが仕事なのにあいつはいつまで経っても半人前だよ。」
「……。」
それに関しては何も言えない私は何も言わずに近くにあった空き箱を持つ。
「何処に仕舞えばいいですか?」
「それはあっちの納屋にだね。」
「分かりました。」
「本当に何から何まですまないね。」
「いいんですよ、こちらの方が助かったんですから。」
そう、もし歩いていたのならば一体この村にたどり着くだけでも何日必要になったか分からなかった。
多分、私一人なら三日くらいでたどり着いたかもしれないが、まだ子どものジェダイドと赤ん坊のセラフィナイトの体力を考えると、九日くらい掛かっていても可笑しくないかもしれない。
「……本当にマラカイトはいい子なのに、あいつときたら。」
プリプリと怒るマギーおばさんは慣れている動作で荷物を抱え上げると自宅の納屋に向かって歩き出す。
「マラカイトはこれからどうするのかい?」
「エメーリエに向かおうと思っています。」
「……騎士本部にかい?」
怪訝そうな顔をするマギーおばさんに私は苦笑する。
「目的地はもっと北にある親戚の家に向かうんですけど、馬車とかを考えたらまず、エメーリエに向かおうと思っています。」
「ああ、なるほどね。」
マギーおばさんは納得したのか何度か頷いたと思ったら、何故か悲しそうな顔をした。
「それにしても、彼の親御さんたちはどうしたんだい?」
「……。」
私は誤魔化すように笑う。
私はどうしてジェダイドがあの街に来たのか知らない、知っているのは彼の両親は王都(ルビアン)にいる事だけだった。
別に特別知りたいとは思わないけど、よくよく考えれば子どもが三人、しかも、一人は赤子、そんな三人が保護者もなく旅をしていたら変だろう。
幸いにもそれを聞いてきたのは私が訳ありだと知っているマギーおばさんだから、彼女はこれ以上首を突っ込む事はないだろうが、先の旅には理由が必要になるだろう。
「………ト?」
「………。」
「マラカイト?」
ハッとなり、私は弾かれたように顔を上げる。
「大丈夫かい?」
「えっ?」
「難しい顔をして考え事しているからね。」
「大丈夫です、ただ、目的地まで何日くらいかかるかと考えていたものですから。」
「それならいいけど、無理はするんじゃないよ。」
「大丈夫です。」
マギーおばさんは私の顔を見て、何を思ったのか溜息を吐いて、ジェダイドを見た。
「しっかりとあんたが支えてやりな。」
「分かっている。」
いつの間にかついてきていたジェダイドはしっかりと頷く。
「…………いつの間に仲良くなったの?」
首を傾げて、思い出してみるが、結局マギーおばさんとジェダイドが仲良くなったタイミングが分からなかった。
「まあ、不仲よりはいいか。」
深くは考え込む事なく私は荷物運びに集中するのだった。
「ふう、無事にたどり着いたね。」
「はん、こんな餓鬼を連れなくともよかったんじゃねぇかよ。」
「あんたはまだそんな事を言っているのかい。」
荷下ろしを手伝っていると聞こえてくる会話に私は目線を走らせ、ジェダイドを見る。
幸いにもジェダイドには彼女たちの会話が聞こえない位置にいた。
私はホッとして息を吐く、もし、彼がこの会話を聞いていたら間違いなく男に突っかかっていくだろう。
無駄な争いをしても、ジェダイドに得なんてないのに何で突っかかっていくのか私には分からないけど、それでも、彼の印象を下げるのは嫌だった。
だから、聞こえない事に私は安心した。
「マラカイト。」
「はい。」
マギーおばさんに呼ばれ私は彼女に近づく。
「少ないけど、今回の護衛の報酬だよ。」
マギーおばさんはそう言って掌に五千ルードを握らせた。
「えっ、あの…、ここまで連れてきていただいたのだから、これは受け取れません。」
「いいんだよ、それにあの狼を受け取らないだろう?」
「それは雇い主のものだから。」
「なら、これは特別報酬。」
「……。」
これは絶対に引かないだろう、それを理解した私は握らされたお金に視線を落とし困惑する。
「こんな餓鬼にこんなもんは必要ねぇだろう。」
男はそう言うと私の手から二千ルードを引き抜いた。
「何をするんだい。」
「ふん、こんな餓鬼に五千ルードなんて多いんだよ。」
そう言い残すと、男は逃げるようにして立ち去る。
「あいつは本当に…。」
怒りを押し殺したマギーおばさんに私は同情するように彼女を見る。
「……ごめんね、マラカイト。」
「いいえ、それにしても、中途半端に逃げられましたね。」
「……。」
私は周りを見渡し、明らかに片づけが済んでいない空き箱や、荷物を見て苦笑を浮かべる。
「片づけるまでが仕事なのにあいつはいつまで経っても半人前だよ。」
「……。」
それに関しては何も言えない私は何も言わずに近くにあった空き箱を持つ。
「何処に仕舞えばいいですか?」
「それはあっちの納屋にだね。」
「分かりました。」
「本当に何から何まですまないね。」
「いいんですよ、こちらの方が助かったんですから。」
そう、もし歩いていたのならば一体この村にたどり着くだけでも何日必要になったか分からなかった。
多分、私一人なら三日くらいでたどり着いたかもしれないが、まだ子どものジェダイドと赤ん坊のセラフィナイトの体力を考えると、九日くらい掛かっていても可笑しくないかもしれない。
「……本当にマラカイトはいい子なのに、あいつときたら。」
プリプリと怒るマギーおばさんは慣れている動作で荷物を抱え上げると自宅の納屋に向かって歩き出す。
「マラカイトはこれからどうするのかい?」
「エメーリエに向かおうと思っています。」
「……騎士本部にかい?」
怪訝そうな顔をするマギーおばさんに私は苦笑する。
「目的地はもっと北にある親戚の家に向かうんですけど、馬車とかを考えたらまず、エメーリエに向かおうと思っています。」
「ああ、なるほどね。」
マギーおばさんは納得したのか何度か頷いたと思ったら、何故か悲しそうな顔をした。
「それにしても、彼の親御さんたちはどうしたんだい?」
「……。」
私は誤魔化すように笑う。
私はどうしてジェダイドがあの街に来たのか知らない、知っているのは彼の両親は王都(ルビアン)にいる事だけだった。
別に特別知りたいとは思わないけど、よくよく考えれば子どもが三人、しかも、一人は赤子、そんな三人が保護者もなく旅をしていたら変だろう。
幸いにもそれを聞いてきたのは私が訳ありだと知っているマギーおばさんだから、彼女はこれ以上首を突っ込む事はないだろうが、先の旅には理由が必要になるだろう。
「………ト?」
「………。」
「マラカイト?」
ハッとなり、私は弾かれたように顔を上げる。
「大丈夫かい?」
「えっ?」
「難しい顔をして考え事しているからね。」
「大丈夫です、ただ、目的地まで何日くらいかかるかと考えていたものですから。」
「それならいいけど、無理はするんじゃないよ。」
「大丈夫です。」
マギーおばさんは私の顔を見て、何を思ったのか溜息を吐いて、ジェダイドを見た。
「しっかりとあんたが支えてやりな。」
「分かっている。」
いつの間にかついてきていたジェダイドはしっかりと頷く。
「…………いつの間に仲良くなったの?」
首を傾げて、思い出してみるが、結局マギーおばさんとジェダイドが仲良くなったタイミングが分からなかった。
「まあ、不仲よりはいいか。」
深くは考え込む事なく私は荷物運びに集中するのだった。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。
神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか
佐藤醤油
ファンタジー
主人公を神様が転生させたが上手くいかない。
最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。
「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」
そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。
さあ、この転生は成功するのか?
注:ギャグ小説ではありません。
最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。
なんで?
坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる