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第一章
気持ちに蓋をする
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私は徐々に明るくなり始めた空を見上げ、自分に寄り添うように眠る人と、自分の腕の中で眠る赤子を見下ろす。
日をまたぐ頃にジェダイドに眠るように言ったが、彼は結局それを受け入れず、ぎりぎりまで起きていてくれたが、睡魔に負けて私に凭れ掛かりながら眠りについた。
そして、セラフィナイトも馬車の中で寝かせようと何度かしたが、その度にぐずるので、流石に中の二人を起こすのは拙いと思い、結局は私の方が折れてしまった。
「おやおや、もう起きてたのかい?」
「あ、おはようございます。」
馬車から出て来たマギーおばさんに私は頭を下げる。
「……マラカイト。」
「はい。」
私の顔を見たマギーおばさんは何となく怖いかをする。
「寝てないだろう?」
マギーおばさんの疑問で聞いているはずなのに、断定的な言葉に私は苦笑を浮かべる。
「……子どもは遊ぶのと寝るのが仕事なんだよ。」
「私の今の仕事は護衛なので。」
「……。」
私の言葉にマギーおばさんは大きな溜息を零した。
「マラカイト。」
「はい。」
真剣なマギーおばさんの言葉に私はセラフィナイトの髪を一度撫でて、彼女に顔を向ける。
「お前さんが優秀なのは重々に知っているが、お前さんはまだ十歳なのだろう?」
「この仕事に老いも若きもありません、雇い主の安全を守るのが護衛の役目です。」
「お前さんの仕事に見合うようなお給金は出せないよ。」
「私たちは目的地に向かうまで歩いていくつもりでしたので、むしろ乗せてもらえるだけで、十分どころか私たちの方が支払いをしたいくらいです。」
「……。」
マギーおばさんは額に手を当て、息を吐く。
「お前さんのような子どもはまだまだ親の庇護で護られていて当然なのに……、本当にこの世はうまくできていないのだろうね。」
「私は十分に守られています。」
「……。」
憐れむような目に私は一瞬驚くが、私は本心だった。
こうやって見ず知らずの怪しい子どもの心配をしてくれる数人の大人がいてくれた、そのお陰で私はここまでやって来られた。
それ以上を望んでどうなるのだろう、と私は考える。
「もっと子どもだと自覚してくれればいいのだけどね。」
「色々未熟ですけど?」
「………本当にこの子は。」
私の言葉に呆れたような顔をするマギーおばさんに私は首を傾げる。
「本当にな。」
呆れた声音に私は彼が起きていた事を少し前から気づいていたが、気づいていなかったマギーおばさんは少し驚いたような顔をする。
「おや、起きていたのか。」
「はい、おはようございます。」
礼儀正しいジェダイドに私はやっぱり、彼は彼なのだと懐かしく思う。
「前」の出会った頃の彼は口数が少なかったが、それでも、ちゃんとお礼の言葉も謝罪の言葉も言える人だった。
真っ直ぐにでも、どこか寂しそうな彼に自分は傍に居たいと思った、それは作られたからではなかったと思う、名もない自分がそう願っていたのだと、今ならそう口にできると思う。
でも、当時の自分はそれが作られた気持ちなのか、自分が生み出している気持ちなのか分からなくって、彼に言う事が出来なかった、その為彼は作られた気持ちだと思っていたのか、自分と距離を置いていたように思う。
そんな事を考えてたら、いつの間にか心配そうにのぞき込むジェイドの顔があり、わずかに驚く。
「な、何?」
「ボーとしているが、大丈夫なのか?」
「ちょっと考え事をしていたから。」
「……。」
ジッと見つめられ、何となく気恥ずかしくなり、私は思わず逃げるように顔を背ける。
そして、そこでようやく、マギーおばさんがいなくなっている事に気づく。
「マギーおばさんは?」
「朝食の支度だと言って離れて行った。」
「そうなんだ。」
手伝いに行かないと、と思っている私にジェダイドが話しかけてくる。
「考え事って、何だ。」
「マギーおばさんの村の後どうやって行こうかと。」
「真っ直ぐは無理なのか?」
「無理とは言えないけど、その代り、屋根のない所で寝る事になるし、ずっと歩きっぱなしになるから、それなら、町の移動の馬車に乗ってからの方が早いと思うの。」
「……そうなのか。」
「ええ、地図だったら、確かにまっすぐに行けば早く思うけど、それだと、すぐに無理が来ると思うの。」
「そうだな、セラがいるしな。」
「……。」
ジェダイドの言葉に私は思わず苦笑いを浮かべる。
言えない、セラフィナイトは精霊なので、人と違い、自然の気を取り込む事が出来れば回復が早い、そして、私はある程度鍛えているので、一週間くらいなら不眠不休でもガタが来ないだろう。
でも、良い所のお坊ちゃんのジェダイドはそうもいかない、こうやって馬車に乗っているからある程度の疲労で済んでいるが、多分歩いていれば口もきけない程になっているだろう。
「何だ?」
「ううん、何でもない。」
想像以上の事態に私は口で適当に言った事を真剣に検討しなくてはならないだろうと思う。
「朝ごはんの準備を手伝わないと。」
「おい、休めよ。」
「好きでしているの、セラフィナイトをよろしくね。」
私はジェダイドにセラフィナイトを預け、朝食の支度をしているマギーおばさんの方まで向かう。
「マラカイト。」
呼び止められ、私は足を止める。
「少しでも不調があるのなら絶対に言え。」
心配しているのだと理解し、私は初めての感情に戸惑う。
暖かいような、気恥ずかしいような、でも悪くない感情、前からわずかに確かにあった感情だったが、ここまで明らかになったのは初めてで、私は戸惑う。
「だ、大丈夫――。」
「大丈夫かも知れないがそれも、言え。」
頷いた方がいいと思った、でも、私は何故か頷けなった。
彼は守る存在。
彼を支えるのは私。
でも、私は誰にも支える訳にはいかない。
だって私は「 」だから。
ハッとなり、私は表情を消す。
「マラカイト?」
私の纏う空気が変わった事に気づいたのか、ジェダイドは心配そうにのぞき込む。
「私は大丈夫、強いから。」
そう言い残し、私は先ほど感じた感情に蓋をする。
私は「 」それは前も今も変わらない。
彼は「 」が触れていい人ではない、だから、私は一人で立たなければならない。
もっと、力が欲しい。
もっと、知識が欲しい。
一人で立って居られて、それでもって彼を守れる自分になりたい。
目に見えない傷を負った少女は周りの負の目にしか目を向けない。
温かいものに気づいていても、彼女は自分を「 」だと信じて疑わないので、受け入れられない。
もどかしいものを感じる少年は彼女の華奢で小さな背を見る事しか出来ない。
拒絶の意思を見せる背に、縋りつきたい、でも、縋りつけば、彼女は母のような母性で自分を受け入れるのだと本能で悟っているのか、彼はそうはしない。
彼が望んでいるのは彼女の隣なのだ。
険しくこんな道に少女と少年は互いを思ってながらもすれ違う事しか出来ないでいた。
日をまたぐ頃にジェダイドに眠るように言ったが、彼は結局それを受け入れず、ぎりぎりまで起きていてくれたが、睡魔に負けて私に凭れ掛かりながら眠りについた。
そして、セラフィナイトも馬車の中で寝かせようと何度かしたが、その度にぐずるので、流石に中の二人を起こすのは拙いと思い、結局は私の方が折れてしまった。
「おやおや、もう起きてたのかい?」
「あ、おはようございます。」
馬車から出て来たマギーおばさんに私は頭を下げる。
「……マラカイト。」
「はい。」
私の顔を見たマギーおばさんは何となく怖いかをする。
「寝てないだろう?」
マギーおばさんの疑問で聞いているはずなのに、断定的な言葉に私は苦笑を浮かべる。
「……子どもは遊ぶのと寝るのが仕事なんだよ。」
「私の今の仕事は護衛なので。」
「……。」
私の言葉にマギーおばさんは大きな溜息を零した。
「マラカイト。」
「はい。」
真剣なマギーおばさんの言葉に私はセラフィナイトの髪を一度撫でて、彼女に顔を向ける。
「お前さんが優秀なのは重々に知っているが、お前さんはまだ十歳なのだろう?」
「この仕事に老いも若きもありません、雇い主の安全を守るのが護衛の役目です。」
「お前さんの仕事に見合うようなお給金は出せないよ。」
「私たちは目的地に向かうまで歩いていくつもりでしたので、むしろ乗せてもらえるだけで、十分どころか私たちの方が支払いをしたいくらいです。」
「……。」
マギーおばさんは額に手を当て、息を吐く。
「お前さんのような子どもはまだまだ親の庇護で護られていて当然なのに……、本当にこの世はうまくできていないのだろうね。」
「私は十分に守られています。」
「……。」
憐れむような目に私は一瞬驚くが、私は本心だった。
こうやって見ず知らずの怪しい子どもの心配をしてくれる数人の大人がいてくれた、そのお陰で私はここまでやって来られた。
それ以上を望んでどうなるのだろう、と私は考える。
「もっと子どもだと自覚してくれればいいのだけどね。」
「色々未熟ですけど?」
「………本当にこの子は。」
私の言葉に呆れたような顔をするマギーおばさんに私は首を傾げる。
「本当にな。」
呆れた声音に私は彼が起きていた事を少し前から気づいていたが、気づいていなかったマギーおばさんは少し驚いたような顔をする。
「おや、起きていたのか。」
「はい、おはようございます。」
礼儀正しいジェダイドに私はやっぱり、彼は彼なのだと懐かしく思う。
「前」の出会った頃の彼は口数が少なかったが、それでも、ちゃんとお礼の言葉も謝罪の言葉も言える人だった。
真っ直ぐにでも、どこか寂しそうな彼に自分は傍に居たいと思った、それは作られたからではなかったと思う、名もない自分がそう願っていたのだと、今ならそう口にできると思う。
でも、当時の自分はそれが作られた気持ちなのか、自分が生み出している気持ちなのか分からなくって、彼に言う事が出来なかった、その為彼は作られた気持ちだと思っていたのか、自分と距離を置いていたように思う。
そんな事を考えてたら、いつの間にか心配そうにのぞき込むジェイドの顔があり、わずかに驚く。
「な、何?」
「ボーとしているが、大丈夫なのか?」
「ちょっと考え事をしていたから。」
「……。」
ジッと見つめられ、何となく気恥ずかしくなり、私は思わず逃げるように顔を背ける。
そして、そこでようやく、マギーおばさんがいなくなっている事に気づく。
「マギーおばさんは?」
「朝食の支度だと言って離れて行った。」
「そうなんだ。」
手伝いに行かないと、と思っている私にジェダイドが話しかけてくる。
「考え事って、何だ。」
「マギーおばさんの村の後どうやって行こうかと。」
「真っ直ぐは無理なのか?」
「無理とは言えないけど、その代り、屋根のない所で寝る事になるし、ずっと歩きっぱなしになるから、それなら、町の移動の馬車に乗ってからの方が早いと思うの。」
「……そうなのか。」
「ええ、地図だったら、確かにまっすぐに行けば早く思うけど、それだと、すぐに無理が来ると思うの。」
「そうだな、セラがいるしな。」
「……。」
ジェダイドの言葉に私は思わず苦笑いを浮かべる。
言えない、セラフィナイトは精霊なので、人と違い、自然の気を取り込む事が出来れば回復が早い、そして、私はある程度鍛えているので、一週間くらいなら不眠不休でもガタが来ないだろう。
でも、良い所のお坊ちゃんのジェダイドはそうもいかない、こうやって馬車に乗っているからある程度の疲労で済んでいるが、多分歩いていれば口もきけない程になっているだろう。
「何だ?」
「ううん、何でもない。」
想像以上の事態に私は口で適当に言った事を真剣に検討しなくてはならないだろうと思う。
「朝ごはんの準備を手伝わないと。」
「おい、休めよ。」
「好きでしているの、セラフィナイトをよろしくね。」
私はジェダイドにセラフィナイトを預け、朝食の支度をしているマギーおばさんの方まで向かう。
「マラカイト。」
呼び止められ、私は足を止める。
「少しでも不調があるのなら絶対に言え。」
心配しているのだと理解し、私は初めての感情に戸惑う。
暖かいような、気恥ずかしいような、でも悪くない感情、前からわずかに確かにあった感情だったが、ここまで明らかになったのは初めてで、私は戸惑う。
「だ、大丈夫――。」
「大丈夫かも知れないがそれも、言え。」
頷いた方がいいと思った、でも、私は何故か頷けなった。
彼は守る存在。
彼を支えるのは私。
でも、私は誰にも支える訳にはいかない。
だって私は「 」だから。
ハッとなり、私は表情を消す。
「マラカイト?」
私の纏う空気が変わった事に気づいたのか、ジェダイドは心配そうにのぞき込む。
「私は大丈夫、強いから。」
そう言い残し、私は先ほど感じた感情に蓋をする。
私は「 」それは前も今も変わらない。
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温かいものに気づいていても、彼女は自分を「 」だと信じて疑わないので、受け入れられない。
もどかしいものを感じる少年は彼女の華奢で小さな背を見る事しか出来ない。
拒絶の意思を見せる背に、縋りつきたい、でも、縋りつけば、彼女は母のような母性で自分を受け入れるのだと本能で悟っているのか、彼はそうはしない。
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