逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第一章

漆黒の中の光

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 私はセラフィナイトをあやしながら、空を見上げる。
 日が落ちる前に食事を済ませ、マギーおばさんやあの男の人、ジェダイドたちは馬車の中で眠っている。
 私は火を焚いて、夜が明けるのを待つ。

「あー、うー……。」

 空に手を伸ばし、セラフィナイトは星を掴むようなしぐさをする。

「あの星はね、旅人の道標となる星なのよ。」

 北にずっとある星。
 旅人はそれを目印にして東西南北を知る。
 私たちも「前」の時にはその星を頼りに色々な場所に向かった。
 無知過ぎた私はその旅で色々な事を知った。

 でも、無知は今でも変わらない。
 もっと知識が欲しかった。
 でも、あの場所には限られた本しかないし、情報も聖都や王都、騎士団本部くらいしか私が求める知識はないだろう。そして、情報も。

「大地が衰える時
 二人の神子が姿を現す
 破壊と癒しを司りし二人の神子
 破壊の神子は「破壊」により膿を消し
 癒しの神子は「癒し」により大地を癒す
 彼の者らは大地を蘇らせるべく
 祭壇にて力を振るわん」

 この伝承により、破壊の神子として生まれたジェダイドは「前」の時、命を狙われた。
 そして、私は生まれた。
 破壊の神子の力を持った傀儡という名の精霊を操り、自分たちの望む世界を作ろうとしたものがいた。
 この伝承がある限りジェダイドは解放される事はない。
 それに、この伝承にいるもう一人の神子はいないのだ。

「前」の時はジェダイドに対となる女性は生まれる前に死んだ。それにより、ジェダイド一人に重しが圧し掛かった。
 多分、この世界の癒しの神子も死んでいると考えていいだろう。
 最悪な状況を考えて動かなければならない。
 最悪なのは私みたいなイレギュラーがいて、もうすでに終焉へ向かっている事。
 それを知る為に私がする事は……。

 一つ、聖都に行き、上級の聖職者になり、上部の情報を得る事。

 一つ、騎士本部に行き、将軍の位を得る事。

 どちらも簡単な道ではない、それでも、私は有力なのはこの二つだと思っている。
 ただ、問題があるとするとすれば、セラフィナイトをどうするか、と、どちらの道も平民でなるには厳しい事。
 平民で聖職者になるのも騎士となるのも出来る。

 でも、問題は上の位に行くには困難……否、完全に潰される。
 上位職を得るためには実力だけじゃなく、コネが必要だった。

「あああっ!」

 突然泣き出したセラフィナイトに私は我に返る。

「セラフィナイト?ごめんね、考え事して、どうしたの?」

 あやしながら私はセラフィナイトを見る。

「う……あー。」
「えっ?」

 セラフィナイトはジッとある一点を見つめている。
 そして、私は振り返る。

「ジェダイド。」
「寝ないのか?」
「ええ。」

 ゆっくりと近づく彼は私の横に来て、セラフィナイトの頭を撫でる。

「あんまり騒ぐなよ、起きるからな。」
「あーうー。」
「偉いな。」

 ニッコリと笑うセラフィナイトにジェダイドは微笑みかける。

「何で?」
「お前こそ何で、一人で起きているんだよ。」
「見張りが必要だから……。」
「はぁ……、何で交代をしなんだ。」
「私が雇われたので。」
「……。」

 本気で呆れたような顔をするジェダイドに私はどことなく居心地が悪かった。

「馬鹿。」

 呟かれた言葉に私は何も言えなくなる。

「本当にお前は何やっているんだよ。」
「私は私の仕事を。」
「はぁ…。」

 ジェダイドは溜息を零し、そして、私に向かって手を出しだす。

「何?」
「セラをかせ。」
「貸せって…。」
「少しでも体を休ませろ。」

 私は渋っていても仕方ないと悟り、大人しくセラフィナイトを彼に預ける。
 セラフィナイトは暴れる事もなく大人しくジェダイドに抱っこされる。

「セラフィナイトもジェダイドもだいぶ慣れて来たわね。」
「はじめは酷かったけどな。」

 機嫌がよかったセラフィナイトをジェダイドが抱き上げたとたんに泣き出すという事が何度もあり、彼はそのたびに顔には出さなかったが落ち込んでいるのを知っている。
 そして、だんだんセラフィナイトはジェダイドに慣れたのか彼に抱っこされてもよほど機嫌が悪い場合じゃなければぐずる事はなくなった。

「いつも、こうなのか?」
「えっ?」
「一人で見張りをしたり、魔物を狩ったり。」

 ジェダイドの言葉に私は苦笑する。

「それはほとんどないよ。」
「本当に?」
「ええ、誰かの護衛とかは十回もなかったと思うし、魔物なんて自分から会いに行こうとは思わないわ。」
「そうか。」
「基本、私の場合は薬草を買って貰ったり、偶に狩った小動物を買って貰って稼いでいたから。」
「……。」
「そうね、年に一度くらいワイバーンを狩るくらいね。」

 ホッとしていたジェダイドに私は安心してもらう為に、それを言えば何故か彼は固まった。

「ワイバーン……だと?」
「ええ、年に一度十体くらいのワイバーンがあの街の付近に来るから先に潰しておいたの、そうじゃないと、危ないものね。」

 ドラゴンの中でも下に位置する魔物は素材としては値打ちものだが、残念ながら食用には向かないので仕方なく駆除として退治していたな、とついこの間の事なのにだいぶ前のように思ってしまった。
 それだけ、ジェダイドたちとの出会いは強烈だったのだろうな、と私は呑気に考えていてジェダイドの表情を読んでいなかった。

「危ない事十分してるじゃないかっ!」
「えっ?」

 行き成り怒鳴るジェダイドに私はキョトンとなる。

「どこが?」
「ワイバーンだと、下手すれば死ぬだろうが。」
「確かに空中にいるから厄介な敵だけど、重力を操って飛べないようにすれば、攻撃は直接攻撃とエアスラッシュに気をつければ大丈夫よ。」

 頭が痛いのか額を押さえるジェダイドに私は回復を使おうか申し出るが、彼は首を横に振った。

「大丈夫?」
「……お前は本当に規格外だな。」
「そうなの……かな?」

 生まれ育ちは特殊だと思うけど、能力的にはまだまだと思っているのだが、と私は思っていると、ジェダイドはそんな私の考えを読んだかのように溜息を零す。

「何の為にそんな無茶をするんだ。」

 貴方を生かす為、私はそう言う事が出来ない、否、思うだけで十分なので口にはしない、代わりに誤魔化すように笑う。

「………………頼むから、死に急ぐなよ。」
「役目を終えるまでは死なないよ。」
「役目?」

 うっかりと口を滑らす私はこれ以上彼に答える事はしない。
 「前」にジェダイドを失い、真っ黒な闇に突き落とされた自分、そして、過去に戻ったと知り、彼を生かすという僅かな光を見つけた。
 だから、私の役目は彼を生かす事、その為にこの命はギリギリまでは使わない、時間は刻々とあの日に近づく。
 足らない時間の中で私はどこまで準備ができるのだろうか。


 私は気づいていない二対の瞳が私を心配そうに見ている事に、私は再び訪れるあの日までその二対の瞳に気づく事はなかった。

 もし、気づいていたら……、失わなかったのだろうか、この未来(さき)に訪れる別れに…。変えられたのだろうか?
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