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第一章
反発
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私は取り敢えず、フォレストウルフとダークウルフを凍らせ、風を操ってそれらを運ぶ事にした。
私はあくまでも雇われている身なので今回のこの戦利品は私の判断で処分してはいけないと思い出したから。
でも、正直持って帰りたくはなかった、だってーー。
「こんな餓鬼がこんな大物を殺れる訳がない。」
そう言うと思っていたからだ。
当然の事だと私は思うのだが、私の実力を知っているマギーおばさんは眉を下げて申し訳なさそうに私を見つめ。
そして、ジェダイドは今にも怒りを爆発させそうな顔で男を睨んでいた。
少し不思議に思う、「前」の彼ならばきっとこの男の人と近い考えを持っていたような気がする。
いつも、寄れば斬る、みたいな空気を発して、私を睨んでいた。
でも…、優しかった。
私が怪我をすれば黙って薬草を渡し。
何かと私を気遣ってくれていた。そして、それに気づいたのは旅の後半で、嫌われていると思っていた私は彼と大分距離を取っていた。
「そうだ、きっと凄腕の冒険者に助けてもらったんだろう。」
「いい加減にーーっ!」
私はそっと手を伸ばしジェダイドの手に触れて彼の言葉を止める。
ジェダイドは信じられないというように目を見張り私を見つめる。
どうせ、言っても無駄なのだ。
男にとって私はただの子ども。
だから、彼の常識にしてはこんな事はありえないのだ。
そして、もし、言ったところで何が変わる?
変わらない、もし、男がそれを真実だと知ってしまった方が私にとっては恐ろしい。
「そうと決まれば、その冒険者に護衛を頼もう、こんな餓鬼を降ろしてさ。」
「……。」
私は目を閉じる。
仕方ない事だ、彼らだって自分の命が大切なはずだ。
私は諦めてしまおうと思った瞬間、ゴン、と物凄く鈍い音がした。
「えっ?」
驚いて顔を上げるとそこには頭を押さえる男の人と、握り拳を作ったまま立っているマギーおばさんの姿があった。
「なにするんだよ。」
「あんたが馬鹿な事を言っているから怒っているんだよ、この馬鹿者がっ!」
「何だよ…事実じゃ。」
「どこがだよ。」
ギロリと睨むマギーおばさんに男の人はたじろいだ。
「こんな幼い子供をこんな何もない所に放っていくなんて正気なのかい。」
「だってさ…。」
「はぁ……。」
男の人の顔を見てマギーおばさんは溜息を零した。
「もしも、ここでこの子たちを置いて行ってこの子たちはどうなるんだい?」
「そりゃ、歩きで。」
「魔物だって出るのに?」
「……。」
「まあ、マラカイトがいるんなら大丈夫かも知れないが、それでも、こんな赤ん坊がいるって言うのに、あんたはそれでも、置いて行けと言うのかい?」
「……。」
黙り込む男にマギーおばさんはあからさまに溜息を吐き、そして、私の頭をその温かい手で撫でてくれた。
「大丈夫だよ、あたしが何とかするからさ。」
「ありがとうございます。」
「いいんだよ、本当は感謝するのはこっちのはずだしね。」
微笑むマギーおばさんに私は申し訳なく思った。
「……それじゃ、少し早いがここらでお昼にしようじゃないか。」
「……。
「マラカイト、手伝ってくれないかい?」
マギーおばさんの言葉に私は彼女の優しさに気づく。
「私でよければ。」
私は笑えていただろうか?
マギーおばさんは嫌な事を忘れさせるために、私に仕事を与えてくれようとしている、だから、私は笑顔で了承したつもりだった。
彼女の少し心配そうな顔を見て私はうまく笑えていないのだと知り、やっぱり自分はダメだと思った。
「それじゃ、スープを頼めるかい?」
「はい。」
私はいくつかの野菜やきのこを切っている、その間にマギーおばさんはパンを切り分けている。
私は黙々と作業をこなしていると、ふっと視線を感じて手を止める。
「ジェダイド?」
視線を辿ると、そこにはむすっとした顔をしてジェダイドがいる。
「どうしたんですか?」
「どうしても、こうしたもないだろう。」
私は彼が言いたい意味が分からず首を傾げる。
「何で、黙っていたんだよ。」
「……。」
彼の言葉に私は手を止める。
「言っても無駄だから……。」
「何で諦めるんだよ。」
「諦めているんじゃない……だって、こんな子どもが上級の冒険者でも苦戦する魔物を狩ったらあの態度で正しいもの。」
「だけどっ!」
まだ、言葉を紡ごうとする彼に私はゆるゆると首を振る。
「もし、認知されたら、排除される。」
「――っ!」
急に黙り込むジェダイドに私は不思議に思いながらも作業を再開する。
「私だけならばいいの。」
そう、排除される対象が自分ならばいい。
でもーー。
「私の傍に居るジェダイドやセラフィナイトまでその対象になるのは絶対に嫌なの。」
「マラカイト…。」
「ごめんね。」
私なんかが貴方の傍に居てしまって。
私はその言葉を飲み込み、鍋に具材を入れる。
「マラカイト。」
固い声音に私は再び手を止めて、ジェダイドを見る。
「謝るなよ。」
「何で?私が悪いのに?」
「何処がだよ、お前は悪くない、何で悪くないお前が謝るんだよ。」
「私の所為で、変な目で見られるだよ。」
「まだ、起こってないのにか?」
「……。」
そう私の力はまだ他の人には知られていない、せいぜい、奇妙な子どもくらいにしか思われていないだろう。
だけど、今はそうでも……、近い未来では。
「ジェダイド……。」
「マラカイト、お前は何に怯えているんだよ。」
「怯えている?」
私に縁遠い言葉に目を見開く。
「そうだ、何で、そんな目で俺たちを見るんだよ。」
分からなかった。
分からない。
私はぐるぐると頭で考え始めるが答えは出ない。
ジェダイドは私をじっと見て、悪かった、余計な事言って、とそう言い残すと寝ているセラフィナイトの元に行った。
私は彼が立ち去ってもぐるぐると考える。
私の怖い事。
ジェダイドが死ぬ事。
私がやらなければいけない事
ジェダイドを生かす事。
私が回避する事。
ジェダイドが不幸せになる事。
私が望む事。
ジェダイドが幸せになる事。
それなのに、私が怯える事はあるのだろうか?
私はあくまでも雇われている身なので今回のこの戦利品は私の判断で処分してはいけないと思い出したから。
でも、正直持って帰りたくはなかった、だってーー。
「こんな餓鬼がこんな大物を殺れる訳がない。」
そう言うと思っていたからだ。
当然の事だと私は思うのだが、私の実力を知っているマギーおばさんは眉を下げて申し訳なさそうに私を見つめ。
そして、ジェダイドは今にも怒りを爆発させそうな顔で男を睨んでいた。
少し不思議に思う、「前」の彼ならばきっとこの男の人と近い考えを持っていたような気がする。
いつも、寄れば斬る、みたいな空気を発して、私を睨んでいた。
でも…、優しかった。
私が怪我をすれば黙って薬草を渡し。
何かと私を気遣ってくれていた。そして、それに気づいたのは旅の後半で、嫌われていると思っていた私は彼と大分距離を取っていた。
「そうだ、きっと凄腕の冒険者に助けてもらったんだろう。」
「いい加減にーーっ!」
私はそっと手を伸ばしジェダイドの手に触れて彼の言葉を止める。
ジェダイドは信じられないというように目を見張り私を見つめる。
どうせ、言っても無駄なのだ。
男にとって私はただの子ども。
だから、彼の常識にしてはこんな事はありえないのだ。
そして、もし、言ったところで何が変わる?
変わらない、もし、男がそれを真実だと知ってしまった方が私にとっては恐ろしい。
「そうと決まれば、その冒険者に護衛を頼もう、こんな餓鬼を降ろしてさ。」
「……。」
私は目を閉じる。
仕方ない事だ、彼らだって自分の命が大切なはずだ。
私は諦めてしまおうと思った瞬間、ゴン、と物凄く鈍い音がした。
「えっ?」
驚いて顔を上げるとそこには頭を押さえる男の人と、握り拳を作ったまま立っているマギーおばさんの姿があった。
「なにするんだよ。」
「あんたが馬鹿な事を言っているから怒っているんだよ、この馬鹿者がっ!」
「何だよ…事実じゃ。」
「どこがだよ。」
ギロリと睨むマギーおばさんに男の人はたじろいだ。
「こんな幼い子供をこんな何もない所に放っていくなんて正気なのかい。」
「だってさ…。」
「はぁ……。」
男の人の顔を見てマギーおばさんは溜息を零した。
「もしも、ここでこの子たちを置いて行ってこの子たちはどうなるんだい?」
「そりゃ、歩きで。」
「魔物だって出るのに?」
「……。」
「まあ、マラカイトがいるんなら大丈夫かも知れないが、それでも、こんな赤ん坊がいるって言うのに、あんたはそれでも、置いて行けと言うのかい?」
「……。」
黙り込む男にマギーおばさんはあからさまに溜息を吐き、そして、私の頭をその温かい手で撫でてくれた。
「大丈夫だよ、あたしが何とかするからさ。」
「ありがとうございます。」
「いいんだよ、本当は感謝するのはこっちのはずだしね。」
微笑むマギーおばさんに私は申し訳なく思った。
「……それじゃ、少し早いがここらでお昼にしようじゃないか。」
「……。
「マラカイト、手伝ってくれないかい?」
マギーおばさんの言葉に私は彼女の優しさに気づく。
「私でよければ。」
私は笑えていただろうか?
マギーおばさんは嫌な事を忘れさせるために、私に仕事を与えてくれようとしている、だから、私は笑顔で了承したつもりだった。
彼女の少し心配そうな顔を見て私はうまく笑えていないのだと知り、やっぱり自分はダメだと思った。
「それじゃ、スープを頼めるかい?」
「はい。」
私はいくつかの野菜やきのこを切っている、その間にマギーおばさんはパンを切り分けている。
私は黙々と作業をこなしていると、ふっと視線を感じて手を止める。
「ジェダイド?」
視線を辿ると、そこにはむすっとした顔をしてジェダイドがいる。
「どうしたんですか?」
「どうしても、こうしたもないだろう。」
私は彼が言いたい意味が分からず首を傾げる。
「何で、黙っていたんだよ。」
「……。」
彼の言葉に私は手を止める。
「言っても無駄だから……。」
「何で諦めるんだよ。」
「諦めているんじゃない……だって、こんな子どもが上級の冒険者でも苦戦する魔物を狩ったらあの態度で正しいもの。」
「だけどっ!」
まだ、言葉を紡ごうとする彼に私はゆるゆると首を振る。
「もし、認知されたら、排除される。」
「――っ!」
急に黙り込むジェダイドに私は不思議に思いながらも作業を再開する。
「私だけならばいいの。」
そう、排除される対象が自分ならばいい。
でもーー。
「私の傍に居るジェダイドやセラフィナイトまでその対象になるのは絶対に嫌なの。」
「マラカイト…。」
「ごめんね。」
私なんかが貴方の傍に居てしまって。
私はその言葉を飲み込み、鍋に具材を入れる。
「マラカイト。」
固い声音に私は再び手を止めて、ジェダイドを見る。
「謝るなよ。」
「何で?私が悪いのに?」
「何処がだよ、お前は悪くない、何で悪くないお前が謝るんだよ。」
「私の所為で、変な目で見られるだよ。」
「まだ、起こってないのにか?」
「……。」
そう私の力はまだ他の人には知られていない、せいぜい、奇妙な子どもくらいにしか思われていないだろう。
だけど、今はそうでも……、近い未来では。
「ジェダイド……。」
「マラカイト、お前は何に怯えているんだよ。」
「怯えている?」
私に縁遠い言葉に目を見開く。
「そうだ、何で、そんな目で俺たちを見るんだよ。」
分からなかった。
分からない。
私はぐるぐると頭で考え始めるが答えは出ない。
ジェダイドは私をじっと見て、悪かった、余計な事言って、とそう言い残すと寝ているセラフィナイトの元に行った。
私は彼が立ち去ってもぐるぐると考える。
私の怖い事。
ジェダイドが死ぬ事。
私がやらなければいけない事
ジェダイドを生かす事。
私が回避する事。
ジェダイドが不幸せになる事。
私が望む事。
ジェダイドが幸せになる事。
それなのに、私が怯える事はあるのだろうか?
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