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第一章
ダークウルフ
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違和感……領域に何かが侵入した。
私はそっと目を開ける。
「マラカイト?」
私の張りつめた空気を感じ取ったのか、ジェダイドが私の名を呼ぶ。
「西に五……この気配は……狼種。」
「マラカイト…。」
「護衛として雇われていますので。」
心配そうに私を見つめる彼に私は安心して、というように笑いかけるが、何故だかさらに眉間に皺が寄ってしまいました。
「ジェダイド?」
「怪我するな。」
「はい、分かってい……分かっているよ。」
思わず口に出そうになる敬語にジトリとジェダイドに睨まれる。
「行ってきます。」
私は馬車から飛び降り、難なく地面に着地する。
馬車は私が飛び降りた事に気づかずそのまま走り続ける。
私は風の魔素を集め、体に纏う。
「参ります。」
地面を蹴り、こちらに向かってやってくる獣がいる森と道が接している所まで駆ける。
数は…五……違う、七。
狼種のフォレストウルフが五と上級種のダークウルフが二。
私は足を止め、迎え撃つ準備を始める。
地の魔素を操り、落とし穴を一つ、そして、風と近くにある蔦を使い、網を作り上げる。
準備は完了した。
私は左の拳を下げる。
刹那、一体のフォレストウルフが私に襲い掛かる。
「破っ!」
気合と風を纏った拳がフォレストウルフの腹部に命中し、それの骨を何本か逝かせた。
「ぐおおおおおおっ!」
仲間がやられた事に憤っているのか、一体のフォレストウルフが吠えた。
「ごめんなさい。」
私は小さく謝り、容赦のない蹴りで向かってくるウルフと対峙する。
彼らだって食べないと生きてはいけない。
それが自然の摂理だとは知っている、でも、ここを通せばあの人が、ジェダイドが傷つくかもしれない。
エゴなのは知っている。
だけど、私は憂いを断つ為にも彼らを殺す。
「運がなかったね、私も…あなたたちも。」
もしも、私が一人ならば彼らを見逃していた。ただの護衛なら雇い主の安全を守る必要があり、敵が戦意を失っているならばそれ以上追い詰める必要はないだろうから。
もしも、彼らが普通の冒険者を相手にしていたのなら多分六割くらいの確率で彼らは生き残っている。だって、ダークウルフと戦える冒険者なんてこんな辺鄙な場所にいるのはごくわずか。
もしも、の話なんて、きりがない、だけど、そんなどうしようもない考えが私の中で浮かんでは消えていく。
私は気持ちを入れ替える。
もしも、なんて考えても意味がない、そう自分に言い聞かせて。
私も、彼らも選んだ道の先がここに繋がっていただけ。
分岐点何ていくつもある。
「破っ!」
考え事をしている間でも、ウルフは襲い掛かってくる。
私の武器はこの身、それと……。
「疾っ!」
服の中に隠していた小ぶりのナイフ、小ぶりなのだが、私の小さな体にしたら十分大きかった。
それを右手に持ち、先ほどはウルフの喉を掻っ切った。
二体目。
このままちまちま戦っていればこの小さな体だとあっという間に体力がなくなり、食われる。
それに、まだ、ダークウルフが二体も残っている。
普通ならば負けるこの戦い。ここまで粘れれば普通の十歳の子どもなら上出来以上だろう。
でも、私にはまだいくつもの伏線が残っている。
これ以上仲間を呼ぶ様子もない。
私はこのくらいでいいだろう、と判断する。
突然、体の力を適度に抜いた私に対し、ウルフたちが警戒をする。
でも、もう遅い。
「私の名前はマラカイト、全力で参りますっ!」
彼らは森の戦士、その敬意を払い、名乗りを上げる。
一気に膨れ上がる私の魔素にダークウルフはようやく撤退の意味で吠えるが、遅い。
突然、突風が吹き荒れる。
ウルフたちの体はいとも簡単に吹き飛ばされあらかじめ私が用意していた落とし穴にはまる。
一方、ダークウルフは彼らよりも重いのか飛ばされることもなくその場にいる。
漆黒の目が私を射る。
「相手が悪かったね。」
先ほどと同じ言葉を呟き、私は慈悲のない攻撃をダークウルフに放つ。
「冷たき氷の檻よ、彼の者を捕えよ、『氷の監獄』」
先ほどみたいにただ風を吹かせるだけならば別に言霊なんて必要はない、だけど、威力を強めたい時や、今回みたいに少し微調整が必要な時に私は詠唱を使う。
水の魔素を使い、それを瞬時に冷やし、ダークウルフだけを凍らせる。
彼らはなす術もなく氷の檻に閉じ込められる。
血はあまり流れていないから他の獣は現れないだろう。
私はそっと目を閉じ謡う。
暖かい空気に包まれ、そして、この場の空気は先ほどまで争っていたとは思えない程清浄な場となる。
力ある者は強い念を持っている事があり、放置すればアンテッドモンスターとなり、人に害をなす。
場合によっては植物にも大地にも悪影響を及ぼす場合もあり、私は戦闘が終わると謡うようにしている。
「前」の時もそうだが、何故か私には浄化などの力があった。「前」は私と同じように浄化の力を持った彼女がいたからその補佐をしていた。だけど、今はそれを一人でこなしていた。
幸いにも浄化の力は精霊だった時よりも強くなっているので、簡単に扱えるようになっていた。ただ、他の魔術は精霊の時よりは落ちている。
そして、多分、どんなに頑張ってもあの時のような強さは手に入らない、だからと言って努力を怠る事は絶対にない、努力を怠ってあの人に迷惑を掛けたくもないし、力不足で彼を失うなんて事は二度とあってはならないのだから。
私はそっと天を仰ぐ。
「このダークウルフとかどうしたらいいのかな?」
どうしようもない先の話よりもまずは目の前の事に私は目を向ける事にしたのだった。
私はそっと目を開ける。
「マラカイト?」
私の張りつめた空気を感じ取ったのか、ジェダイドが私の名を呼ぶ。
「西に五……この気配は……狼種。」
「マラカイト…。」
「護衛として雇われていますので。」
心配そうに私を見つめる彼に私は安心して、というように笑いかけるが、何故だかさらに眉間に皺が寄ってしまいました。
「ジェダイド?」
「怪我するな。」
「はい、分かってい……分かっているよ。」
思わず口に出そうになる敬語にジトリとジェダイドに睨まれる。
「行ってきます。」
私は馬車から飛び降り、難なく地面に着地する。
馬車は私が飛び降りた事に気づかずそのまま走り続ける。
私は風の魔素を集め、体に纏う。
「参ります。」
地面を蹴り、こちらに向かってやってくる獣がいる森と道が接している所まで駆ける。
数は…五……違う、七。
狼種のフォレストウルフが五と上級種のダークウルフが二。
私は足を止め、迎え撃つ準備を始める。
地の魔素を操り、落とし穴を一つ、そして、風と近くにある蔦を使い、網を作り上げる。
準備は完了した。
私は左の拳を下げる。
刹那、一体のフォレストウルフが私に襲い掛かる。
「破っ!」
気合と風を纏った拳がフォレストウルフの腹部に命中し、それの骨を何本か逝かせた。
「ぐおおおおおおっ!」
仲間がやられた事に憤っているのか、一体のフォレストウルフが吠えた。
「ごめんなさい。」
私は小さく謝り、容赦のない蹴りで向かってくるウルフと対峙する。
彼らだって食べないと生きてはいけない。
それが自然の摂理だとは知っている、でも、ここを通せばあの人が、ジェダイドが傷つくかもしれない。
エゴなのは知っている。
だけど、私は憂いを断つ為にも彼らを殺す。
「運がなかったね、私も…あなたたちも。」
もしも、私が一人ならば彼らを見逃していた。ただの護衛なら雇い主の安全を守る必要があり、敵が戦意を失っているならばそれ以上追い詰める必要はないだろうから。
もしも、彼らが普通の冒険者を相手にしていたのなら多分六割くらいの確率で彼らは生き残っている。だって、ダークウルフと戦える冒険者なんてこんな辺鄙な場所にいるのはごくわずか。
もしも、の話なんて、きりがない、だけど、そんなどうしようもない考えが私の中で浮かんでは消えていく。
私は気持ちを入れ替える。
もしも、なんて考えても意味がない、そう自分に言い聞かせて。
私も、彼らも選んだ道の先がここに繋がっていただけ。
分岐点何ていくつもある。
「破っ!」
考え事をしている間でも、ウルフは襲い掛かってくる。
私の武器はこの身、それと……。
「疾っ!」
服の中に隠していた小ぶりのナイフ、小ぶりなのだが、私の小さな体にしたら十分大きかった。
それを右手に持ち、先ほどはウルフの喉を掻っ切った。
二体目。
このままちまちま戦っていればこの小さな体だとあっという間に体力がなくなり、食われる。
それに、まだ、ダークウルフが二体も残っている。
普通ならば負けるこの戦い。ここまで粘れれば普通の十歳の子どもなら上出来以上だろう。
でも、私にはまだいくつもの伏線が残っている。
これ以上仲間を呼ぶ様子もない。
私はこのくらいでいいだろう、と判断する。
突然、体の力を適度に抜いた私に対し、ウルフたちが警戒をする。
でも、もう遅い。
「私の名前はマラカイト、全力で参りますっ!」
彼らは森の戦士、その敬意を払い、名乗りを上げる。
一気に膨れ上がる私の魔素にダークウルフはようやく撤退の意味で吠えるが、遅い。
突然、突風が吹き荒れる。
ウルフたちの体はいとも簡単に吹き飛ばされあらかじめ私が用意していた落とし穴にはまる。
一方、ダークウルフは彼らよりも重いのか飛ばされることもなくその場にいる。
漆黒の目が私を射る。
「相手が悪かったね。」
先ほどと同じ言葉を呟き、私は慈悲のない攻撃をダークウルフに放つ。
「冷たき氷の檻よ、彼の者を捕えよ、『氷の監獄』」
先ほどみたいにただ風を吹かせるだけならば別に言霊なんて必要はない、だけど、威力を強めたい時や、今回みたいに少し微調整が必要な時に私は詠唱を使う。
水の魔素を使い、それを瞬時に冷やし、ダークウルフだけを凍らせる。
彼らはなす術もなく氷の檻に閉じ込められる。
血はあまり流れていないから他の獣は現れないだろう。
私はそっと目を閉じ謡う。
暖かい空気に包まれ、そして、この場の空気は先ほどまで争っていたとは思えない程清浄な場となる。
力ある者は強い念を持っている事があり、放置すればアンテッドモンスターとなり、人に害をなす。
場合によっては植物にも大地にも悪影響を及ぼす場合もあり、私は戦闘が終わると謡うようにしている。
「前」の時もそうだが、何故か私には浄化などの力があった。「前」は私と同じように浄化の力を持った彼女がいたからその補佐をしていた。だけど、今はそれを一人でこなしていた。
幸いにも浄化の力は精霊だった時よりも強くなっているので、簡単に扱えるようになっていた。ただ、他の魔術は精霊の時よりは落ちている。
そして、多分、どんなに頑張ってもあの時のような強さは手に入らない、だからと言って努力を怠る事は絶対にない、努力を怠ってあの人に迷惑を掛けたくもないし、力不足で彼を失うなんて事は二度とあってはならないのだから。
私はそっと天を仰ぐ。
「このダークウルフとかどうしたらいいのかな?」
どうしようもない先の話よりもまずは目の前の事に私は目を向ける事にしたのだった。
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