逆行したら別人になった

弥生 桜香

文字の大きさ
上 下
10 / 136
第一章

波乱

しおりを挟む
 私はブツブツと文句を言っているジェダイドを見つめながら、泣きぐずっているセラフィナイトをあやす。
 何でこんな事になってしまったかというと、簡単に言えばマギーおばさんの連れの方と衝突してしまったのだ。
 おばさんの連れの方はこんな子どもを連れていく事を渋った。
 当然の事だと思う、でも、こんな幼いというか赤子のセラフィナイトを睨むのは大人げないのではないのかと思う。

「…マラカイトは悔しくないのか?」

 ジェダイドのその言葉で私は我に返る。

「仕方ないかな、と思います。」
「仕方ない…。」

 私の答えが気に喰わないのか眉間に皺を寄せるジェダイドに、私は苦笑する。

「私は見た目も年齢もまだ保護を受けていても可笑しくはない、なのに、用心棒として私が紹介されれば不安にもなりますよね?」
「それは…。」
「それに保護を受けていても可笑しくない、という事は必ず保護者がいる、というものです、ですから、もし、私たちの保護者となる方が文句を言って来たら、どうなるかと考えてしまうのが普通です。」
「……。」
「私も貴方も事情はあります。」

 私はようやく泣きつかれて眠ったセラフィナイトの頬を撫でる。

「私の場合はもう保護者となる方はいません、そして、貴方の場合はこの街には本来の保護者いない、さらに、あの街にいる人間は信用ならない。」
「えっ?」

 予想外の言葉にジェダイドは驚きを見せた。

「だって、貴方があの街にいる事を捕えようとした方々は知っていた。その上、貴方には貴方の身を守る護衛がいたはずなのに、それがいない。」
「それは俺が撒いたから。」

 ジェダイドの言葉に私は静かに首を振った。

「もし、そうだとしても、子どもの浅知恵で簡単に撒けると本当に思いますか?」
「……。」

 そう、ジェダイドがたとえ撒けたと考えたとしても、一人くらいは間違いなく彼を尾行していただろう。
 なのに、その様子はなく彼は簡単に敵に捕まった。
 それが意味しているのは…。

「私が貴方をあの街の方に預けなかった理由はそれです。」
「……。」
「あの街で貴方を探す方にはほんとに申し訳ない事ですが、万が一、貴方がご実家に帰る前にまた捕まれば、何が起こるか分かりません。」
「ああ……。」
「私は貴方に傷ついて欲しくありません。」

 私は空いている左手を伸ばし、ジェダイドの顔に触れる。

「私は貴方を失いたくありません。」

 もう失いたくない、この温もりを。

 徐々に失われる温もりなんてもう感じたくない。

 生きて居て欲しい。

 こんな死にぞこないの命なんかよりもずっとずっと気高い魂を持つこの人の方がーー。

「マラカイト?」

 ジッと見つめる緑色の瞳が不安を見せる。

「いえ、貴方の承諾もなく勝手に判断した事に申し訳なく思ったもので…。」
「……。」

 ジェダイドは溜息を零し、そして、私の手を掴む。

「マラカイト、そろそろ口調をどうにかしたらどうだ?」
「何でですか?」
「はっきり言ってお前みたいな子どもが同じ子どもに丁寧に話していれば奇異な目で見られるだろう。」
「……。」

 確かに、ジェダイドの言う通りのような気がする、今までのように人が少ない空間ならば自分のこの話口調でも問題はなかった。
 でも、二人で旅をするならば間違いなく印象に残ってしまうかもしれない。
 それは拙かった。

「……。」

 本当は変えたくはなかった、でも、彼の危険をさらす可能性があるのならほんの少しの意地など張らない方がいい。

「分かった。」
「ありがとうな。」
「ごめんな…ごめんね、私が気づくべき事で……だったのに。」

 やはり、なれません、でも、彼の為だと思えば努力します。

「マラカイト。」
「はい。」
「お前はどうしてそこまでしてーー。」
「ふぇ……うああああん。」

 ジェダイドが何か言おうとした瞬間、目を覚ましたセラフィナイトが泣き出してしまいました。

「あら……。」

 私はゆすりあやすと徐々に落ち着いてきたセラフィナイトは緑色の目をこちらにキラキラと輝かせながら見つめる。

「どうしたの?」
「あー…。」

 どうやらお腹が空いたようですね。
 私は一応確認するようにジェダイドを見れば、何故か彼は項垂れていた。

「どうしたの?」
「………何で邪魔されるんだ…つーか、邪魔するなよセラ…。」
「……。」

 ええ、放っておきましょう。
 どうしようも出来ないと判断した私は周りを見渡し、見られない事を確認してセラフィナイトに魔素を与える。

「そろそろ、与え方を考えないといけないでしょうね。」

 一応私はジェダイドに言っているつもりでしたが、彼は聞こえていないようで、独り言になってしまいました。

「次からはちょっと変わるけど、フィーもうまく受け取るように頑張ってね。」
「あー。」

 私の言葉に返事するセラフィナイトに私はクスリと笑う。
 まだ、旅は始まったばかりです、休める時に体を休ませないと後が辛くなるだけですので、私は程よく力を抜いて目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか

佐藤醤油
ファンタジー
 主人公を神様が転生させたが上手くいかない。  最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。 「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」  そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。  さあ、この転生は成功するのか?  注:ギャグ小説ではありません。 最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。 なんで?  坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

処理中です...