逆行したら別人になった

弥生 桜香

文字の大きさ
上 下
9 / 136
第一章

小さな用心棒

しおりを挟む
 街に入った私たちは私が先を歩き、その一歩後をジェダイドが追うような形で進んでいく。
 人ごみを縫うように歩く私の後を少し苦戦しながらジェダイドは後を追ってくる。私は後ろの気配をしっかりと感知しながら北の門に向かって歩く。
 そんな私たちに向かって声を掛けて来た人物がいた。

「おや、マラカイトじゃないか。」
「あっ。」

 振り返ると恰幅のいいおばさんがそこにいた。

「マギーおばさん。」

 おばさん、マギーおばさんはにこやかに笑い私たちに近づく。

「よかったよ、持ってきたものもなくなったし、村に帰ろうと支度が丁度終わった所だったからね。」
「村…。」

 私の脳裏に「前」の時に見た地図を思い出す。
 彼女の住んでいる村はジェダイドが帰る先の丁度途中にある村だ。

「……あの、マギーおばさん。」
「なんだい?」
「よければで、いいんですが、おばさんの村まで一緒に行くことは出来ないんですか?」
「……。」

 おばさんは目を見開き、私、私の腕に眠るセラフィナイト、そして、ジェダイドを見つめ、そして、何か言いたそうな顔をするが、何も言う事もなく小さく頷いた。

「構わないよ、マラカイトにはいつもお世話になっているからね。」
「ありがとうございます。」

 私は深く頭を下げ、それを見たジェダイドもつられるように頭を下げる。

「おやおや。」

 私たちを見て穏やかに笑うマギーおばさんはそっと口を開く。

「まあ、ただで乗せてやりたいと言いたいところなんだけどね、ただ、今回の同行人でちょいと口やかましいのがいるから、悪いけど、マラカイト頼めるかい?」
「はい。」

 私はアレだと気づいたので、二つ返事をするが、何の約束なのか分からないジェダイドは眉間に皺を寄せて、私の服を掴む。

「ジェダイド?」
「大丈夫なのか?」

 私は微かに目を見開き、マジマジとジェダイドを見つめる。

「えっ?」
「お前が信用している人間だとは分かるが、大丈夫なのか、安請け合いをして。」
「大丈夫、ジェダイドには何もないから。」
「――っ!」

 私の言葉を聞いたジェダイドは何故か強く私の腕を掴み、何かを言いたそうに口を開くがすぐに閉ざす。

「………俺は別に自分の心配をしているじゃない…俺が心配しているのは、お前なんだ。」
「……。」
「ははは。」

 無言でマジマジとジェダイドを見ていた私だったが、笑い声が聞こえ、そちらに顔を向けるとおばさんが口に手を当てて笑っていた。

「おばさん?」
「いやいや、大丈夫、それにしても、マラカイト、いい男を捕まえたんじゃないかい。」
「えっ?」

 訳が分からない私は意味を知りたかったが、おばさんは私には何も言わず、ジェダイドに向かって話し始める。

「マラカイトにはほんの少し村に行くまでの用心棒になって欲しいんだよ。」
「用心棒って。」

 苦い顔をするジェダイドにマギーおばさんは苦笑する。

「本当はこんな子にお願いするのはよくはないんだけどね、まあ、こんな農家のおばさんは冒険者を雇うような事も出来ないし、まあ、この子の場合は並みの腕前をしていないのは知っているんだけどね。」
「……。」
「それにしても、もしかして、マラカイトの腕に抱いているのはマラカイトとお前さんの子かい?」
「なっ!」

 何故か顔を真っ赤にさせるジェダイドに、おばさんはクスクスと笑い出し、私は訳が分からず首を傾げる。

「この子は見ての通り一筋縄にはいかないが、すごくいい子だからね。大切にしてやっておくれ。」
「……はい。」

 神妙に頷くジェイドに私は何度目か分からないが首を傾げるのだった。

「さあ、時間もない事だしこっちだよ。」

 マギーおばさんの案内で私たちを馬車まで並んで進んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

処理中です...