逆行したら別人になった

弥生 桜香

文字の大きさ
上 下
119 / 136
第二章

敵視されております

しおりを挟む
 突き刺さる視線。

 それには侮蔑、疑惑、好奇心、困惑、様々なものが混じっているが、私を心配するような視線はなかった。

 否、一つだけあるけれども、それはコーラルだけ。

「それじゃ、早速だが、模擬戦を行おうと思う、立候補者はいるか?」

 今回の実技を教える教官役の騎士は生徒たちが発している空気に気づいているのか、気づいていないのか、そんな言葉を言う。

「はいっ!」

 数日前受付で騒いでいた貴族の少女が背筋を伸ばしはっきりとした声を上げた。

「君は…確か。」
「アイアゲート・リリアーヌ――。」

 貴族の少女が家名を名乗ろうとするが、教官は手に持っていた紙を手で打ち彼女の言葉を止める。
 少女は自分の言葉を止めた教官をジトリと睨む。

「ここでは貴族だろうが、平民だろうが一応平等に扱う。」
「……。」
「アイアゲートだったな、対戦相手は誰を選ぶ?」
「あの下民ですわ。」

 貴族の少女はそう言って私に指をさした。

「……。」

 ざわつく周りに対し、私の心だけは変に落ち着いていた。

「……そこの白髪の―――。」
「ペリドットと申します。」

 もし、視線が剣だとしたら私の体から血が噴き出るほどの視線が突き刺さっている事だろう。

「二人とも前に出ろ。」
「はい。」
「分かりました。」

 コーラルだけが心配そうに私を見上げていた。
 大丈夫と言うように私が頷くと、何故か複雑そうな顔をして相手のアイアゲートを気の毒そうに見る。

「貴女のような下民がどうやって取り入ったのか分からないけれども、ここではそんな媚は通用しないわ。」
「媚など売った覚えはありませんが、何を言っても無駄でしょうね。」

 このような少女は自分が正しいと思ったら反対の意見など一切聞かないのだ。
 旅をしていた頃の私はそんな事分からなかったけれども、あの家で過ごし嫌になるほどそういう人たちを見てきた。
 だからこうして敵視されてしまうのも慣れてしまったような気がする。

「……本当に老婆のように真っ白な髪、何と汚らわしいのでしょうね。」

――お前の白雪のような髪は綺麗だな。

「それに能面のような顔、まるで人形のよう。」

――ふふふ、貴女の顔好きよ、まるでお人形さんみたいね。

 彼女の吐きだす言葉の後に大切な人たちの言葉が思い出す。

「自分の力だと思いあがっているようだから、ここでただして見せますわ。」

――君は強い、その心も技も。

「さあ、剣を抜きなさいな。」

――ははうえーっ!がんばってー!

 ええ、セラフィナイト頑張るわ。
 私はすっと剣を抜き構える。
 相手は私の構えを見て鼻で笑う。

「なってませんわね。」

 模範のような構え方をする相手に私は一度目を閉じ、感情を消す。
 シンと不自然に静まり返る。

「始めっ!」

 審判の声と同時にアイアゲートが攻撃を仕掛けてくる。
 だけど、それはどれも単調で私はそれを全て弾く。

 どうやって反撃をしましょうか。

 簡単に下すとプライドの高い彼女がどう爆発するのか分からない。
 かといって負けるのはそれはそれで、彼女を増長させ後々他の人たちにも迷惑がかかるだろう。
 だから、勝たないといけない。
 だけど、その勝ち方も遺恨を遺さないように…。
 焦れたのかアイアゲートの攻撃が大雑把なものになる。
 私は立ち止まり、剣技だけで彼女の剣をしのぐ。
 そして、私が待っていた瞬間が訪れる。
 キーンと金属の独特な高い音が鳴り、アイアゲートの剣が彼女の手元から離れ遠くの地面に突き刺さる。

「勝負あり。」
「なっ!」

 まさか自分が負けるとは思っていなかったのか、アイアゲートは始めこそ虚を突かれたような顔をしたが、すぐに憎々しそうに私を睨む。

 結局私は彼女の恨みを買ってしまったようだ。

 避けられなかった事態に私は心の中で嘆息する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】徒花の王妃

つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。 何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。 「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...