逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第二章

ひと悶着は必ずあるよう

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「凄い人です。」
「ええ。」

 人、人、人の海に私たちは唖然とする。

「えっと、どこに行けばいいのでしょうか…。」

 おろおろとするコーラルに私は観察する。
 よく見れば人の流れは二パターンあった。

 一つは行列に並ぶ人。

 もう一つは受付が常に開いていて、そこには着飾った明らかに貴族と思われる人たちだった。

「私たちはきっと、こちらの列ね。」
「え、でも…。」
「あっちは決して言ってはいけないわ。」
「よく分かりませんけど、マラカ――。」
「ペリドット。」
「ペリドットさんがそう言うのならきっと、そうねんですね。」

 私たちは最後尾に並び、そして、ようやく折り返しの所に言った時、罵声が響き渡る。

「下民が何でこっちにくるのっ!」
「えっ、そっちは空いているじゃないか。」
「まあ、ご自分の立場が分からないのですか?」
「……。」

 巻き毛の高飛車そうな少女と私たちと同じように少しすり切れた服を着ている少年が睨みあっていた。

「これだから…お貴族様は…。」
「何かおっしゃって。」
「何でもねぇよ、こっちに行けばいいんだろう。」
「まあ、これだから、下民は。」
「……。」
「お謝りなさい。」
「はあ?」
「神聖な貴族の場を乱したのです、お謝りなさい。」
「……。」
「マラカイトさん、だ、大丈夫でしょうか。」
「……。」

 大丈夫じゃないだろう、かといって自分が出たところで何もできないだろう。
 私は唇を噛み、成り行きを見守る。

「ヤダね。」
「まあ。」
「絶対にあんたのような奴には頭を下げたくないね。」
「……でしたら、仕方ありませんね。」

 少女は腰に佩いていた剣の柄に手をかける。
 それは、少年も同じだった。
 不味い、そう思った瞬間、私は飛び出し、二人の剣を素手で受け止めていた。

「そこまでになさってください。」
「なっ!」
「……。」

 少女は突然現れた私に驚きを隠せないでいたが、少年は睨めつけるように私を見ている。

「どこから湧いて出たのですかっ!」
「ここで剣を抜くなんて短慮じゃありませんか。」
「下民が…。」
「……。」

 私は先ほどまで完全に迷っていたが、こうして剣を受け止めてしまった時点で私は自分の立場を悪くしてしまったのだ。

 諦めるしかない。

 持っていた書状を少女に見せる。

「何ですの…………っ!」
「私に手を出す事は、彼の者たちを敵に回しますよ?」
「何故貴女のような下民がそのようなものを。」
「あの方たちは貴女のように私を見下す事はありませんから。」
「………。」

 少女は顔を歪ませる。

「その書状に免じて大人しく下がってあげますが、せいぜい、その大きな名前に潰れないように努力をなさりなさい。」
「言われなくともそうします。」
「……。」

 少女はかつかつとブーツを鳴らしてこの場を去る。

「……君は大丈夫?」
「何故、助けた。」
「見てられなかったから。」
「……。」
「君も災難だね。」
「お前も貴族か?」
「平民だよ。」
「……嘘だろう。」
「本当、でも、貴族の後ろ盾があるだけ。」
「……だったら、慣れ合う気はない。」

 少年はそう言うと私を見る事無く、最後尾に並ぶ。

「ペリドットさーん、大丈夫ですかーっ!」

 心配そうな顔をするコーラルに私は手を振る。

「もうすぐ、呼ばれますよー。だから、戻ってきてくださーい。」
「ええ。」

 先ほどの空気をぶち壊してくれるコーラルに少し救われながらも、私は先ほどまでいた場所に戻る。
 本当は最後尾に並びなおした方がいいだろうが、誰も文句は言わなかったのでそのまま甘えさせてもらう。
 多分、誰もこんな問題児にかかわりたくないから、文句言わないのだろう。
 本当に自分がしでかしたとはいえ、面倒な立場に身を置いてしまったようだ。
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