逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第二章

出立

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「行ってまいります。」
「気を付けて。」
「はい。」

 お母さまの言葉に私は頷く。

「お前ならば大丈夫だとは思うが、無茶はするな。」
「分かっております。」

 私がそう頷くけれども、お父さまは何故か苦い顔をされる。

「マラカイト。」
「ジェダイド。」
「怪我をするなとは言わないけど、痕は残すな。」
「……。」

 どう違うのか分からなかった。

「それも、難しいと思うけど。」
「もし、痕を遺せば、罰を与えるからな。」
「……。」

 ニヤリと笑うジェダイドに私は頬を引きつらせる。
 最近の彼は「前」の彼と違い表情が豊かだと思う。
 それは決して悪い事ではないはずなの、こういう表情を見て間違えてしまったのかとついつい思ってしまう。

「こら、ジェダイド。」
「……。」

 軽くお母さまに小突かれたジェダイドは眉間にしわを寄せていた。

「もっと言い方があるでしょ?」
「……。」
「もう、この子ったら。」

 ため息を零すお母さまに私は苦笑を零す。

「セラフィナイトちゃんもちゃんとご挨拶しましょうね。」
「ははうえ…ひっく、いって…らっしゃい……。」

 笑顔で見送ろうとしていたのだろう、だけど、一言話した途端、せき止められていた思いが涙共に零れ落ちていた。

「セラフィナイト。」
「セラ。」

 ジェダイドは脚に引っ付いているセラフィナイトを抱き上げる。

「大丈夫だ、セラ、こいつはちゃんと俺たちの所に帰って来るからな。」
「うー…。」
「セラフィナイト…。」

 私は柔らかいその頬を優しく撫でる。

「勝手をしてごめんね。」

 セラフィナイトはぶんぶんと首を振る。

「ははうえは、ははうえのしたい、ことを、してくだ…さい。」

 ボロボロと涙を零しながらセラフィナイトは精いっぱいの笑みを浮かべる。

「ありがとう、セラフィナイト。」

 私はそのマシュマロみたいな頬にそっと唇を寄せる。

「大好きよ。」
「セラもははうえがだいすきです。」
「俺も、セラとマラカイトの事が大好きだからな。」

 何を張り合っているのか分からなかったけれども、ジェダイドがそう言うとセラフィナイトは本当に嬉しそうに笑った。

「旦那様、奥様。」

 後ろに控えていた執事がお父さまとお母さまを呼ぶ。

「もう時間のようね。」
「気を付けて行ってこい。」
「はい、それでは、お父さま、お母さま、ジェダイド、セラフィナイト、皆様、行ってまいります。」

 私は自分の荷物を持って、彼の地に向かうために一歩踏み出した。
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