逆行したら別人になった

弥生 桜香

文字の大きさ
上 下
107 / 136
第一章

子供の成長

しおりを挟む
「マ~マ…。」

 小さな手を伸ばして私に向かって歩いてくるセラフィナイトに私はしゃがみ込み、両手を広げる。

「セラフィナイト。」
「あ~。」

 嬉しそうにセラフィナイトは私に抱き着いてくる。

「あんよ、上手ね。」

 私はセラフィナイトを抱え上げる。
 あの頃よりも大きくなった体に、私は子どもの成長は早いものだと実感をする。

「マラカイト。」

 少し低くなった馴染みの声に私は振り返る。

「ジェダイド、お帰りなさい。」
「ただいま、お前は今日の授業は?もう終わったのか?」
「今日は歴史の勉強だったわ。今日の分は終わったので、お母さまと一緒にお茶をすることになって、移動中なの。」
「そうか。」

 あれから少し年月が経ち、私はジェダイドの母の事を「お母さま」、父の事を「お父さま」と呼ぶようになった。
 何せ、呼ばないとジェダイドの母はすぐにへそを曲げてしまうので、呼ぶしかなかった。

「ジェダイドは、視察はもういいの?」
「ああ、明日夜会があるから戻ってくるように言われてな。」
「そうなのね。」
「明日、デビューだな。」

 何がおかしいのかニヤリと笑う彼に私は軽く睨む。

「美人が台無しだぞ?」
「もう、ジェダイドは冗談を言うようになったわね。」
「そうか?」
「そうよ、少し前は可愛かったのに。」
「…男に可愛いはないと思うが?」
「そうかしら?」

 私は彼見る。
 出会ってから今日までで身長差がかなり空いてしまった。
 前は少し顔を上げるくらいだったのに、今では上目遣いだ。

「…はぁ、お前はいつもそうだな。」

 ジェダイドはため息をついて、そして、私の髪に触れる。

「ジェダイド?」
「やっぱり、お前には緑がいいな。」

 訝しがりながら髪に触れると何か硬いものが指に当たった。

「外すなよ、似合っているからな。」
「…もう、また無駄遣いをして。」

 あの夜に好きな色を聞いてからこうしてジェダイドは私に贈り物を送るようになった。
 はじめは黒曜石のイヤリング。
 次は緑のバラが掘られたブローチ。
 それから、遠出をするたび彼は色々な物を買ってくるようになり、私の部屋は彼からの贈り物であふれていた。

「無駄じゃねぇよ。」
「……。」

 私は諦めたように首を竦める。

「……今度は手袋に刺繍しましょうか。」
「ああ、頼む。」

 私はもらうだけじゃ申し訳なく思ったので、自分の出来る事、料理や刺繍など思いつく限りをしている。
 そして、明日には間に合わないけど、きっと今後使うと思われる手袋に刺繍をしようと誓う。

「あまり得意じゃないけど。」
「いや、お前のは店を出して可笑しくねぇよ。」
「そんな事はないけど、そう言ってくれると嬉しいわ。」
「……そろそろ、お前を解放しないと母上がうるさいな。」
「ふふふ、そうね。」
「じゃあ、後でな。」
「ええ、後で。」
「セラも後ででな。」
「あ~。」

 嬉しそうな声を上げるセラフィナイトに私たちは顔を見合わせ微笑む。

「じゃあ。」
「ええ。」

 私はお母さまの部屋に、ジェダイドじゃ自室に向かって歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【書籍化進行中】魔法のトランクと異世界暮らし

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化進行中です。  曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。  おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。  それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。  異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。  異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる── ◆◆◆  ほのぼのスローライフなお話です。  のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。 ※カクヨムでも掲載予定です。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

ドラゴン観察日記

早瀬 竜子
ファンタジー
森で拾った子竜を育てるリゼ。ある日、やって来た竜騎士に『竜術士』の才能があると言われて……。 ☆小説家になろうにも投稿しています。

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...