逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第一章

ある日の日常

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「はぁっ!」
「――っ!」

 私は剣を受け止められ、すぐに後退する。

 大の大人には私の力は叶わない。

 私の手札は限られている。

 今は剣術のみの勝負なので、いつものアレらが使えない、だけど、それ以外なら手札は二つ。

 速さと技術。

 しかし、私の技術では現役の騎士の方に勝てるはずもない。

 残る手札は…速さのみ。

 動き回って錯乱させる。

 そして、その眼で追えなくなった時、仕留める。

 色んな方向に回り込み、攻撃を仕掛けては引く、それを繰り返せば、次第に騎士の方がじれてくる。

 大ぶりの攻撃が来る。

 私はそれを避け、そして、一気に距離を詰めて、私の剣の切っ先を相手の首元に突き付ける。

「……参った。」
「……。」

 ホッと息を吐けば、その瞬間に私の体に疲労の波が押し寄せる。

「………はぁ…はぁ……ありが、とう、ございま、した。」

 息を切らせながらお礼を言う。
 額から流れる汗を拭い、私は軽く息を整えて周りを見渡し、次の相手を探す。

「お嬢、そろそろ休憩を入れろ。」
「いえ、まだ、やれます。」
「……。」

 この隊の隊長の方に言われるが、私はまだ戦える。
 今までだってぎりぎりのところで戦っていた。
 今必要なのは体力、腕力、そして、経験。

「……。」

 この時、私は隊長と部下とのやり取りを見落としていた。

「……分かった。」

 了承の言葉なのに含みのあるニュアンスに私は思わず顔をしかめた。
 そして、それを見た隊長さんはにやりと笑う。

「ああ、流石お嬢だな、そう、坊ちゃんの許可が出ればな。」
「マーラーカーイートーっ!」
「……。」

 後ろを振り向かなくてもわかる、彼が激怒している事くらい、その声や後ろから感じる空気で簡単に察せられる。

「お前、何やっているんだ。」
「稽古。」
「どこがだよ、こんなにドロドロになりやがって。」
「……。」

 私はさっと周りを見渡すが、残念ながら私を助けてくれるような人はここにはいなかった。

 にやにや笑う者。

 苦笑する者。

「時は有限です。」
「ああ、確かにな、だけど、そんなになるまでお前が頑張る必要はないだろう。」
「あります。」
「……。」

 彼の言葉に流石に怒りを覚えた私は彼を睨む。
 ジェダイドはまさか私が睨むと思っていなかったのか、虚を突かれた顔をする。

「……。」
「……。」
「お嬢、坊ちゃんの許可がでなかったので、今日はここまでな。」
「なっ!」

 いきなり遮る隊長さんに私は思わず、声を漏らす。

「次はもっと自分の限界を理解すれば、坊ちゃんを呼ぶのだけは勘弁してやろう。」
「……。」

 悔し気に唇をかむが、にやにやとした男の顔はさらに増すばかりだった。
 こうして、私は騎士たちの稽古に混ぜさせてもらうのだけれども、こうして強制的に止められることもしばしばあったりするのだった。
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