逆行したら別人になった

弥生 桜香

文字の大きさ
上 下
8 / 136
第一章

振り返りはしない

しおりを挟む
 あれから、数日が経ちようやく旅支度ができた私たちは、私にしたら五年、彼らにしたら数日の住処に別れをつげ、そして、森の中を歩く。
 先頭にいるのは私で、ジェダイドにはセラフィナイトを預けている。
 一応、私が威嚇をしているからよほどじゃなければ魔物も動物も襲ってはこないだろうが、それでも、用心にはこしたことはないだろう。

「マラカイト、大丈夫か?」

 時折、そのように聞いてくるジェダイドに私は彼が疲れたのかと思い、始めは休憩をしようかと言えば彼は苦虫を噛み潰したような顔をして首を横に振った。
 数回同じやり取りをして、苛立ちを見せる彼にようやく私は彼が私の身を案じているのだと知った。

「もうすぐです。」

 もうすぐ森を抜けて街に入る。
 私は疲れただろうと思って両手を差し出した。
 ジェダイドは怪訝な顔をして、そして、しばらく私の顔を見つめ、溜息を零しながらセラフィナイトを私に預ける。

「ありがとう。」
「お前は聞かないからな。」

 何の事だと首を傾げる。

「もし、疲れたんなら言え、俺はお前と違って男だ。」
「知っていますよ。」

 当たり前の事を言うジェダイドに私は首を傾げる事しか出来ない。

「マラカイト。」
「何ですか?」
「お前は……。」

 そう何かを言おうとしてジェダイドは口を閉ざし、頭を振る。

「何でもない………まだ、帰路についてすらいないのに…その終わりの事なんて…な。」

 私の耳にそんな言葉が聞こえているとは知らないジェダイドだったが、聞こえたとしてもその意味が分からない私には聞こえていないものと一緒だった。

「フードは被った方がいいですね、日よけにもなりますし。」
「怪しまれないか?」
「この街は外とのつながりが深いですし、それに、この森は安全圏内から外れれば危険ですから、冒険者とかそう言った方の出入りも多いので大丈夫です。」
「……。」

 私の言葉に彼の眉間の皺が刻まれる。

「どうされましたか?」
「そんな危険な場所にお前は一人で。」
「慣れましたから。」

 自分はどこか人と異なる、だから、ここが一番心地よかった。
 人の目を気にしなくともいい、そして、強くなるのだって、この場所が一番都合がよかったのだった。
 いつか、ジェダイドの力になる為に、そして、そのいつかは思ったよりも早かったが、それでも、彼を家に帰すくらいならこの身だって問題はないだろう。
 一歩踏み出せば、私は決して振り返らない。
 ジェダイドを守る為に私は前を向く。それはここ最近特に思っていた事。
 私はセラフィナイトを抱きしめながら街の中に入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

異世界帰りのゲーマー

たまご
ファンタジー
 部屋でゲームをしていたところ異世界へ招かねてしまった男   鈴木一郎 16歳  彼女なし(16+10年)  10年のも月日をかけ邪神を倒し地球へと帰ってきた  それも若返った姿で10年前に  あっ、俺に友達なんていなかったわ  異世界帰りのボッチゲーマーの物語  誤字脱字、文章の矛盾などありましたら申し訳ありません  初投稿の為、改稿などが度々起きるかもしれません  よろしくお願いします

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

処理中です...