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第一章
指輪の秘密
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私は老女からお湯と綺麗な布を借りて、ジェダイドのいる部屋に向かっていた。
「少しいいかな?」
部屋にたどり着く数歩前で私は老人に声を掛けられ、思わず、首を横に振ってしまった。
ご老人は固まり、私は思わず、首を傾げた。
「……そ、そうか。」
哀愁を漂わせて立ち去ろうとするご老人を見て、私はようやく返事の仕方が悪かったのだと悟る。
「あ、あの、これを置いてからだったら大丈夫なので、待っていてくださりますか?」
「ああ。」
ご老人の方も私の手に持っているそれに気づき、頷いた。
「気づかなかったよ、冷めたらまずいからさっさといってやりなさい。」
「はい。」
私は桶を一度扉の前に置き扉を開ける。
「マラカイト。」
「ただいま。」
中を見ればジェダイドはセラフィナイトに果物を与えていた。
「ジェダイド、それだけにしてね。」
「だけど。」
私の言葉にセラフィナイトは不満そうな声を上げ、ジェダイドは私とセラフィナイトを交互に見つめる。
「駄目よ。」
「うー…。」
「……………。」
ジェダイドは二対の瞳に見つめられ、ダラダラと汗を流す。
「ほら、セラフィナイト、これ以上食べると、おデブさんになっちゃうわよ。」
「あう…。」
「大きくなるのはいいけど、必要以上に重くなったらジェダイドだって大変なんだから。」
唇を尖らせるセラフィナイトに私が言うとセラフィナイトは渋々と承諾をするような声を出す。
「いや、俺は平気だけど。」
「駄目よ、まだ、旅は長いんだし、それに食べ過ぎたら困るのはセラフィナイトなんだし。」
「……。」
「だから、ジェダイドも上げすぎには気を付けて。」
「わ、分かった。」
「うん。」
私は満足げに頷き、そして、持ってきた桶の存在を思い出す。
「あっ、そうだ、お湯を貰って来たから、拭いちゃって。」
「いや、お前が先に。」
「私はまだ用事があるから、さて、セラフィナイト、行きましょうか。」
「えっ、別にセラフィナイトは。」
「落ち着いて出来ないでしょ?」
「……。」
セラフィナイトを抱き上げて出て行こうとする私にジェダイドは引き留めようとするが、私は首を振る。
「大丈夫よ、ちゃんと時間を見て戻ってくるわ。」
「……悪い。」
罰が悪そうな顔をするジェダイドに私は目を細める。
「何にも悪い事なんてしてないわよ。」
そう言い残し、扉を閉めようとした瞬間、何故かジェダイドが盛大な溜息を零したのだが、私はその理由を問う暇もなく扉が閉まってしまった。
「……。」
再び扉を開けて、溜息の理由を聞くわけにもいかなかった上に、ご老人を待たせているので私は腑に落ちないけれども、セラフィナイトを抱え直して扉から離れるのだった。
「……えっと、お待たせしました。」
私が桶を持って遭遇した時と同じ格好のままご老人は待っていた。
「おお、来たか。」
「はい。」
「ここで立ち話もなんだ。こっちに来たまえ。」
そう言い、ご老人は私を彼の書斎に案内する。
たくさんの本に囲まれたその部屋に思わず、私の口から感嘆の声が漏れる。
「凄いですね。」
「そうじゃろう、だけど、家内はこの良さを分かってくれはしないんだよ。」
「……。」
ご老人の言葉に私は苦笑しか出来ない。
どっちの言い分も分かる。
ご老人にとってこれは宝物、でも、奥さんにしたらこれはただの本、下手をすればガラクタにも近いのかもしれない。
「前」にも近いやり取りを聞いた、その時は武器だったり、他の物だったりしたけど、やり取り自体はそう変わらないだろう。
「ああ、すまない、話を戻そうとするか。」
「はい。」
「その指輪をもう一度見せてくれないかな?」
「はい。」
私はご老人に指輪渡して見せる。
ご老人は拡大鏡を持ち出し、指輪の中を見始める。
「うむ……。」
私も中を見た事があったが、細かい細工が彫られているだけで、物珍しいものはなかったはずだった。
「…………まいった。」
本当に困っているような声を出したご老人に私は首を傾げる。
「どうかなさいましたか?」
「……ペリドット。」
それが本当の君の名だよ。
唐突にそう告げられ、私の頭は真っ白になる。
「少しいいかな?」
部屋にたどり着く数歩前で私は老人に声を掛けられ、思わず、首を横に振ってしまった。
ご老人は固まり、私は思わず、首を傾げた。
「……そ、そうか。」
哀愁を漂わせて立ち去ろうとするご老人を見て、私はようやく返事の仕方が悪かったのだと悟る。
「あ、あの、これを置いてからだったら大丈夫なので、待っていてくださりますか?」
「ああ。」
ご老人の方も私の手に持っているそれに気づき、頷いた。
「気づかなかったよ、冷めたらまずいからさっさといってやりなさい。」
「はい。」
私は桶を一度扉の前に置き扉を開ける。
「マラカイト。」
「ただいま。」
中を見ればジェダイドはセラフィナイトに果物を与えていた。
「ジェダイド、それだけにしてね。」
「だけど。」
私の言葉にセラフィナイトは不満そうな声を上げ、ジェダイドは私とセラフィナイトを交互に見つめる。
「駄目よ。」
「うー…。」
「……………。」
ジェダイドは二対の瞳に見つめられ、ダラダラと汗を流す。
「ほら、セラフィナイト、これ以上食べると、おデブさんになっちゃうわよ。」
「あう…。」
「大きくなるのはいいけど、必要以上に重くなったらジェダイドだって大変なんだから。」
唇を尖らせるセラフィナイトに私が言うとセラフィナイトは渋々と承諾をするような声を出す。
「いや、俺は平気だけど。」
「駄目よ、まだ、旅は長いんだし、それに食べ過ぎたら困るのはセラフィナイトなんだし。」
「……。」
「だから、ジェダイドも上げすぎには気を付けて。」
「わ、分かった。」
「うん。」
私は満足げに頷き、そして、持ってきた桶の存在を思い出す。
「あっ、そうだ、お湯を貰って来たから、拭いちゃって。」
「いや、お前が先に。」
「私はまだ用事があるから、さて、セラフィナイト、行きましょうか。」
「えっ、別にセラフィナイトは。」
「落ち着いて出来ないでしょ?」
「……。」
セラフィナイトを抱き上げて出て行こうとする私にジェダイドは引き留めようとするが、私は首を振る。
「大丈夫よ、ちゃんと時間を見て戻ってくるわ。」
「……悪い。」
罰が悪そうな顔をするジェダイドに私は目を細める。
「何にも悪い事なんてしてないわよ。」
そう言い残し、扉を閉めようとした瞬間、何故かジェダイドが盛大な溜息を零したのだが、私はその理由を問う暇もなく扉が閉まってしまった。
「……。」
再び扉を開けて、溜息の理由を聞くわけにもいかなかった上に、ご老人を待たせているので私は腑に落ちないけれども、セラフィナイトを抱え直して扉から離れるのだった。
「……えっと、お待たせしました。」
私が桶を持って遭遇した時と同じ格好のままご老人は待っていた。
「おお、来たか。」
「はい。」
「ここで立ち話もなんだ。こっちに来たまえ。」
そう言い、ご老人は私を彼の書斎に案内する。
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「凄いですね。」
「そうじゃろう、だけど、家内はこの良さを分かってくれはしないんだよ。」
「……。」
ご老人の言葉に私は苦笑しか出来ない。
どっちの言い分も分かる。
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「ああ、すまない、話を戻そうとするか。」
「はい。」
「その指輪をもう一度見せてくれないかな?」
「はい。」
私はご老人に指輪渡して見せる。
ご老人は拡大鏡を持ち出し、指輪の中を見始める。
「うむ……。」
私も中を見た事があったが、細かい細工が彫られているだけで、物珍しいものはなかったはずだった。
「…………まいった。」
本当に困っているような声を出したご老人に私は首を傾げる。
「どうかなさいましたか?」
「……ペリドット。」
それが本当の君の名だよ。
唐突にそう告げられ、私の頭は真っ白になる。
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