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第一章
月夜と共に
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あの後、何とか村人を落ち着かせ、私たちはダルヤに向かうために再度荷物をもった。
ただ、明るいうちに出ていくと盛大な見送りがある為、私たちは闇夜に紛れるように出ていく事を決めていた。
外に出ると思ったよりも月明かりで明るかった。
「疲れてないか?」
ジェダイドは心配そうに私を見てくるが、私は特に疲れてはいなかったので首を横に振った。
しかし、彼は虚勢だとでも思ったのか表情を曇らせる。
「本当に大丈夫よ。」
「だが、今日の立ち回りは…。」
「あれくらい貴方に会う前までは日常茶飯事だったけど。」
「……。」
「……。」
言葉を間違えてしまったようで、ジェダイドの纏う空気がどこか暗く重いものになっている。
「ジェダイド?」
「マラカイト。」
「何かしら?」
全く分からないけれども、ただただ、ジェダイドの纏う空気に私は顔を引きつらせる。
「あの…。」
「出会う前だから仕方ないと言え、お前はどんな無茶をしてきたんだよ。」
「そこまでの事はしてないわ。」
「……。」
じっと見てくるジェダイドに私はどうしたものかと頭を悩ませる。
「ほーんと、無茶よね。」
「ああ…って。」
「えっ?」
聞き覚えのない女性の声にジェダイドは言葉を詰まらせ、私は全く感知していなかったものだから、思わず反応が遅れた。
声のする方を見れば私の白髪とは違い少し青白い色合いの髪をした女性が立っていた。
「こんばんは。」
「……。」
「……。」
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。」
私はジッと彼女を観察する。
彼女の気配はどこかで知っている。
人ではありえない大きな力。
それはまるで、今日会った神龍のよう……な…。
「もしかして、今日お会いした、あの神龍?」
「当たり。」
私の言葉に彼女はニッコリと笑い、ジェダイドは驚愕している。
「どうして。」
「お礼を言いたかったの。」
「お礼ですか。」
「ええ、貴女のお蔭でこの湖は穢れなかった。」
この湖のように澄んだ蒼い眼が私をじっと見つめる。
「感謝してもしたりないわ。」
「……お子さんはお元気ですか?」
唐突な私の質問に彼女は虚を突かれたような顔をして、そして、すぐに上品に笑い出した。
「貴女は不思議な人ですね。」
「そうですか。」
「ええ。」
「ええ、息子も夫も元気よ。」
「そうですか。」
「それも、これも貴女のお蔭よ。」
彼女はそっと私の手を取り、そして、こっそりと私の腕にそれを嵌める。
「えっ?」
「貴女ならばきっと正しく扱ってくれると信じているわ。」
「これはーーっ!」
彼女はそっと私の唇に指をあてる。
「今回の一件でわたしたちは思ったの、人はこれを狙っている、いつか、息子を人質にし、それを手に入れようとするものが現れるかもしれないと。」
「……。」
「それに貴女は別の方に風の加護を分けているのでしょ。」
「……。」
「聡い貴女なら違和感を覚えているはずですよね、それを補うためにもそれを使ってちょうだい。」
「いいんですね。」
「勿論よ、もし、他の奴らが文句をいうようだったら遠慮なくわたしたちの名を出しなさい。」
彼女は凛とした面持ちでジェダイドを見る。
「貴女と彼が出会ったのはきっと必然よ。」
「分かっているわ。」
「貴女は力を欲している。」
「……。」
「受け取りなさい。」
私は目を閉じ、そして、小さく頷く。
「ありがとうございます、いずれ必要になるもの、その必要になる時まで私が命に代えてもお守りします。」
「ええ。」
そして、彼女は天を見上げる。
「あら、来てしまったの?」
すっと彼女が手を天にあげると、青銀の鱗を持つ小さな龍が彼女の腕に収まる。
「その子は?」
「わたしたちの息子よ。」
「可愛いですね。」
「ふふふ、そうね。」
愛おしそうに目を細める彼女だったが、腕の龍はジェダイドの腕に抱かれているセラフィナイトに興味津々だった。
「……マラカイト、大丈夫なのか?」
セラフィナイトを守るように龍から守るジェダイドに私は思わず笑ってしまう。
「大丈夫よ。」
「……。」
大丈夫だと私が言ったのにもかかわらず、ジェダイドは未だに警戒するように龍を見ている。
「もう、噛まれないのに。」
「ふふふ、どちらかといえば、愛娘を守る父親に見えるわね。」
彼女の言葉に私は驚き、マジマジと見れば確かにそのように見えた。
「セラフィナイトには性別がないけど、確かに娘だとしたらそのように見えるわね、でも、父親にしては若いけど。」
「お母さん役の貴女は呑気に見ているけどいいの?」
「あら、息子さんの応援をしなくてもいいんですか?」
「わたしとしては可愛い娘はいつでもお嫁に来てくださいって感じよ。」
「……種族の溝があると思いますけど。」
「そんなものは愛の前では無に等しいわ。」
「おい、マラカイト、何呑気に話をしているんだ、つーか、セラフィナイトはどこの馬の骨とも分からん奴には嫁にやらん。」
「「…………ぷっ。」」
ジェダイドの父親みたいな発言に私たちは思わず吹き出してしまった。
「ふふふ……そんなにも、その子が可愛いのね。」
「ジェダイド、本当にセラフィナイトのお父さんみたいね。」
「……。」
私たちに笑われたジェダイドはどこか不機嫌そうな顔をするが、その口から漏れた言葉は確実に開き直っていた。
「こんなにマラカイトに似ているのに、嫁に出せる訳ないだろう。」
「本当に親バカね。」
「……。」
クスクスと笑う私の横で彼女は唖然としている。
「あら……冗談で夫婦などと思っていたけど、冗談じゃないようね。」
「何がですか?」
「……まあ、壊せしモノの一方通行のようね。」
「……。」
「何の事ですか?」
ジェダイドはどこか諦めたような顔をし、訳の分からない私は首を傾げる。
「いえ、何でもないわ、ふふふ。」
何が可笑しいのか笑っている彼女に私は怪訝な顔をする。
「あら、もう朝明けも近いわ、さあ、行きなさい、新たな時代を築きし者たちよ、どうかあなたたちの未来に幸多からん事を。」
彼女はそう言うと龍の姿に転じて、宙を舞う。
“我らのそれを頼んだぞ 若き癒しのモノよ”
そう言い残すと幼き龍と共に住処へと彼女たちは帰っていった。
「本当に神龍だったんだな。」
どうやら半信半疑だった彼は驚いたような顔で彼女らを見送っていた。
さあ、私たちも目的地まで行くとしましょう。
ただ、明るいうちに出ていくと盛大な見送りがある為、私たちは闇夜に紛れるように出ていく事を決めていた。
外に出ると思ったよりも月明かりで明るかった。
「疲れてないか?」
ジェダイドは心配そうに私を見てくるが、私は特に疲れてはいなかったので首を横に振った。
しかし、彼は虚勢だとでも思ったのか表情を曇らせる。
「本当に大丈夫よ。」
「だが、今日の立ち回りは…。」
「あれくらい貴方に会う前までは日常茶飯事だったけど。」
「……。」
「……。」
言葉を間違えてしまったようで、ジェダイドの纏う空気がどこか暗く重いものになっている。
「ジェダイド?」
「マラカイト。」
「何かしら?」
全く分からないけれども、ただただ、ジェダイドの纏う空気に私は顔を引きつらせる。
「あの…。」
「出会う前だから仕方ないと言え、お前はどんな無茶をしてきたんだよ。」
「そこまでの事はしてないわ。」
「……。」
じっと見てくるジェダイドに私はどうしたものかと頭を悩ませる。
「ほーんと、無茶よね。」
「ああ…って。」
「えっ?」
聞き覚えのない女性の声にジェダイドは言葉を詰まらせ、私は全く感知していなかったものだから、思わず反応が遅れた。
声のする方を見れば私の白髪とは違い少し青白い色合いの髪をした女性が立っていた。
「こんばんは。」
「……。」
「……。」
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。」
私はジッと彼女を観察する。
彼女の気配はどこかで知っている。
人ではありえない大きな力。
それはまるで、今日会った神龍のよう……な…。
「もしかして、今日お会いした、あの神龍?」
「当たり。」
私の言葉に彼女はニッコリと笑い、ジェダイドは驚愕している。
「どうして。」
「お礼を言いたかったの。」
「お礼ですか。」
「ええ、貴女のお蔭でこの湖は穢れなかった。」
この湖のように澄んだ蒼い眼が私をじっと見つめる。
「感謝してもしたりないわ。」
「……お子さんはお元気ですか?」
唐突な私の質問に彼女は虚を突かれたような顔をして、そして、すぐに上品に笑い出した。
「貴女は不思議な人ですね。」
「そうですか。」
「ええ。」
「ええ、息子も夫も元気よ。」
「そうですか。」
「それも、これも貴女のお蔭よ。」
彼女はそっと私の手を取り、そして、こっそりと私の腕にそれを嵌める。
「えっ?」
「貴女ならばきっと正しく扱ってくれると信じているわ。」
「これはーーっ!」
彼女はそっと私の唇に指をあてる。
「今回の一件でわたしたちは思ったの、人はこれを狙っている、いつか、息子を人質にし、それを手に入れようとするものが現れるかもしれないと。」
「……。」
「それに貴女は別の方に風の加護を分けているのでしょ。」
「……。」
「聡い貴女なら違和感を覚えているはずですよね、それを補うためにもそれを使ってちょうだい。」
「いいんですね。」
「勿論よ、もし、他の奴らが文句をいうようだったら遠慮なくわたしたちの名を出しなさい。」
彼女は凛とした面持ちでジェダイドを見る。
「貴女と彼が出会ったのはきっと必然よ。」
「分かっているわ。」
「貴女は力を欲している。」
「……。」
「受け取りなさい。」
私は目を閉じ、そして、小さく頷く。
「ありがとうございます、いずれ必要になるもの、その必要になる時まで私が命に代えてもお守りします。」
「ええ。」
そして、彼女は天を見上げる。
「あら、来てしまったの?」
すっと彼女が手を天にあげると、青銀の鱗を持つ小さな龍が彼女の腕に収まる。
「その子は?」
「わたしたちの息子よ。」
「可愛いですね。」
「ふふふ、そうね。」
愛おしそうに目を細める彼女だったが、腕の龍はジェダイドの腕に抱かれているセラフィナイトに興味津々だった。
「……マラカイト、大丈夫なのか?」
セラフィナイトを守るように龍から守るジェダイドに私は思わず笑ってしまう。
「大丈夫よ。」
「……。」
大丈夫だと私が言ったのにもかかわらず、ジェダイドは未だに警戒するように龍を見ている。
「もう、噛まれないのに。」
「ふふふ、どちらかといえば、愛娘を守る父親に見えるわね。」
彼女の言葉に私は驚き、マジマジと見れば確かにそのように見えた。
「セラフィナイトには性別がないけど、確かに娘だとしたらそのように見えるわね、でも、父親にしては若いけど。」
「お母さん役の貴女は呑気に見ているけどいいの?」
「あら、息子さんの応援をしなくてもいいんですか?」
「わたしとしては可愛い娘はいつでもお嫁に来てくださいって感じよ。」
「……種族の溝があると思いますけど。」
「そんなものは愛の前では無に等しいわ。」
「おい、マラカイト、何呑気に話をしているんだ、つーか、セラフィナイトはどこの馬の骨とも分からん奴には嫁にやらん。」
「「…………ぷっ。」」
ジェダイドの父親みたいな発言に私たちは思わず吹き出してしまった。
「ふふふ……そんなにも、その子が可愛いのね。」
「ジェダイド、本当にセラフィナイトのお父さんみたいね。」
「……。」
私たちに笑われたジェダイドはどこか不機嫌そうな顔をするが、その口から漏れた言葉は確実に開き直っていた。
「こんなにマラカイトに似ているのに、嫁に出せる訳ないだろう。」
「本当に親バカね。」
「……。」
クスクスと笑う私の横で彼女は唖然としている。
「あら……冗談で夫婦などと思っていたけど、冗談じゃないようね。」
「何がですか?」
「……まあ、壊せしモノの一方通行のようね。」
「……。」
「何の事ですか?」
ジェダイドはどこか諦めたような顔をし、訳の分からない私は首を傾げる。
「いえ、何でもないわ、ふふふ。」
何が可笑しいのか笑っている彼女に私は怪訝な顔をする。
「あら、もう朝明けも近いわ、さあ、行きなさい、新たな時代を築きし者たちよ、どうかあなたたちの未来に幸多からん事を。」
彼女はそう言うと龍の姿に転じて、宙を舞う。
“我らのそれを頼んだぞ 若き癒しのモノよ”
そう言い残すと幼き龍と共に住処へと彼女たちは帰っていった。
「本当に神龍だったんだな。」
どうやら半信半疑だった彼は驚いたような顔で彼女らを見送っていた。
さあ、私たちも目的地まで行くとしましょう。
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