逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第一章

温もり

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 私が視界の海に沈んでいると、そっと、暖かな手が触れた。

「ジェダイド?」
「大丈夫か?」

 心配そうなジェダイドの瞳にはどこか焦っているような自分の顔が映っていた。

「大丈夫よ。」
「…嘘だろう。」
「……。」

 はっきりと否定の言葉を言われ、私は苦笑する。

「何でそう思うの?」
「お前は気づいていないと思うけど、顔色が悪いぞ。」

 ジェダイドの瞳に映る自分では顔色なんて分からないけれども、彼の心配そうな顔できっと彼の言う通り、私の顔色はあまりよくはないのだろう。

「そうなの?」
「そうだ。」
「……。」
「何かあったのか?」
「……嫌な仮説を思いついてしまっただけ。」
「…聞いてもいいか?」
「……。」

 私は首を横に振った。

「…そうか。」

 彼はそれ以上私に問う事はなく。
 ただ、黙ってそのぬくもりを与えるように、私の傍に居てくれた。



 何も告げる事のない私

 黙って傍に居てくれるジェダイド

 ねぇ、私はどうすればいいの?

 彼に語る事の出来ない不確かな未来

 それを知っている私

 それを知らないジェダイド

 告げるという選択肢はない

 私は卑怯だから

 ああ、気づきたくなかった

 今気づいたという事は、男をどうにか生け捕りにしないといけない

 きっと思い浮かばなければ私は逃していただろう

 いい事もあれば

 悪い事もある

 私はただ、今を逃れるように、彼の温もりに縋り付いていた
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