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第一章
青き湖
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「ごめんなさい…。」
村人に連行されるように私たちは歩かされる中、逃げ出したと思われる女性が謝った。
「あなたたちを巻き込んでしまったわ。」
「……今さら何を言っているんだ。」
「ジェダイド。」
ジェダイドは女性の言葉にピクリと眉を上げる。
私は彼が何故怒っているのか理解できないがこれ以上彼が何かを言えば、女性が怒り、その矛先が確実にジェダイドに向けられる事は分かった。
「止めるな。」
「駄目よ。」
「……おい、あんた。」
「ジェダイド。」
窘める私の声を無視してジェダイドは射抜くようにして女性を見た。
「あんたは端から他人を巻き込もうとしていたんだよな。」
「そんな事はーー。」
「はっ、無自覚かよ。」
「何が…。」
「あんたはさ、あの馬車に向かっていったよな?「助けてくださいって」それってつまりはさ、誰かを巻き込もうとしたんだよな?」
「――っ!」
ジェダイドの言葉に女性は目を見開く。
「わ、わたしは……。」
「こんな子どもを巻き込んでしまった、ああ、何て可愛そうなんでしょ、とか思っているんだろう、自分が撒いた種なのにさ。」
「そんな…。」
「俺はあんたのような人間は大嫌いさ、でもな、困っている人間を見捨てる奴はもっと大嫌いだ。」
ジェダイドは先ほどまできつかった目つきをやわらげ、何故か私を見た。
「自己満足だと思う、だけど、そんな俺を許す奴がいてくれる。本当に俺にはもったいないくらいの女(やつ)だよ。」
「……。」
「えっと…。」
女性は戸惑いを隠せないでいる。
当然だろ、自分を助けてくれると思った人が子どもで、しかも、その子どもに説教されたと思ったら、いきなり惚気を言われる。
けど…、ジェダイドがここまで言う人は一体誰の事だろう。
今の私はきっと会っていないわね。
彼がここまで褒めるのならきっと素晴らしい人なのでしょうね。
「おい、煩いぞ。」
「……ちっ。」
「……。」
前を進む男から叱られ、ジェダイドは舌打ちをして、女性は恨みがましくジェダイドを見ている。
どうすれば彼をその視線から守れるだろう。
「一つ伺いたいのですか。」
「何だ。」
「この女性が神龍に舞を奉納するとおっしゃっておられましたが、それは誠の事でしょうか?」
「……。」
「……。」
黙り込む男たちと助けを求めた女性。
そして、女性は何かを思いついたのか、こそこそと男に耳打ちをする。
ああ、嫌な予感がする。
私のきっとこの勘は外れないだろう。
面倒な事に首を突っ込んでしまった、きっと、今回もまた私はジェダイドを怒らせてしまうだろう。
だけど、仕方のない事だ。
もうここまで来てしまったのならもう後戻りはできないのだから。
見えて来た青い、青い湖は懐かしく、同時に胸が痛んだ。
そうだ、「前」に私たちはここで……。
村人に連行されるように私たちは歩かされる中、逃げ出したと思われる女性が謝った。
「あなたたちを巻き込んでしまったわ。」
「……今さら何を言っているんだ。」
「ジェダイド。」
ジェダイドは女性の言葉にピクリと眉を上げる。
私は彼が何故怒っているのか理解できないがこれ以上彼が何かを言えば、女性が怒り、その矛先が確実にジェダイドに向けられる事は分かった。
「止めるな。」
「駄目よ。」
「……おい、あんた。」
「ジェダイド。」
窘める私の声を無視してジェダイドは射抜くようにして女性を見た。
「あんたは端から他人を巻き込もうとしていたんだよな。」
「そんな事はーー。」
「はっ、無自覚かよ。」
「何が…。」
「あんたはさ、あの馬車に向かっていったよな?「助けてくださいって」それってつまりはさ、誰かを巻き込もうとしたんだよな?」
「――っ!」
ジェダイドの言葉に女性は目を見開く。
「わ、わたしは……。」
「こんな子どもを巻き込んでしまった、ああ、何て可愛そうなんでしょ、とか思っているんだろう、自分が撒いた種なのにさ。」
「そんな…。」
「俺はあんたのような人間は大嫌いさ、でもな、困っている人間を見捨てる奴はもっと大嫌いだ。」
ジェダイドは先ほどまできつかった目つきをやわらげ、何故か私を見た。
「自己満足だと思う、だけど、そんな俺を許す奴がいてくれる。本当に俺にはもったいないくらいの女(やつ)だよ。」
「……。」
「えっと…。」
女性は戸惑いを隠せないでいる。
当然だろ、自分を助けてくれると思った人が子どもで、しかも、その子どもに説教されたと思ったら、いきなり惚気を言われる。
けど…、ジェダイドがここまで言う人は一体誰の事だろう。
今の私はきっと会っていないわね。
彼がここまで褒めるのならきっと素晴らしい人なのでしょうね。
「おい、煩いぞ。」
「……ちっ。」
「……。」
前を進む男から叱られ、ジェダイドは舌打ちをして、女性は恨みがましくジェダイドを見ている。
どうすれば彼をその視線から守れるだろう。
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「何だ。」
「この女性が神龍に舞を奉納するとおっしゃっておられましたが、それは誠の事でしょうか?」
「……。」
「……。」
黙り込む男たちと助けを求めた女性。
そして、女性は何かを思いついたのか、こそこそと男に耳打ちをする。
ああ、嫌な予感がする。
私のきっとこの勘は外れないだろう。
面倒な事に首を突っ込んでしまった、きっと、今回もまた私はジェダイドを怒らせてしまうだろう。
だけど、仕方のない事だ。
もうここまで来てしまったのならもう後戻りはできないのだから。
見えて来た青い、青い湖は懐かしく、同時に胸が痛んだ。
そうだ、「前」に私たちはここで……。
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