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第一章
相馬車での会話
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エメーリエからダルヤに向かう、徒歩ならば五日くらいはかかっただろうけれども、馬車のお蔭でかなり時間が短縮された。
私はセラフィナイトを抱きしめながら、警戒を怠らない。
「マラカイト。」
「何?」
「寝ないのか?」
「……何で?」
「……質問を質問で返すな。」
ジェダイドの言葉に私は苦笑する。
「まだつかないけど、日が高いし眠らないわよ?」
「……夜もあんま寝てねぇんじゃないか。」
「……。」
やはりばれていたかと私は心の中で呟く。
私が分かりやすいのか、それとも、ジェダイドの観察眼が優れているのか。
「……やっぱりか。」
前髪を掻き上げジェダイドは溜息を零す。
「あんま、頑張りすぎるな。」
「ジェダイドが思っているほど私は頑張っていないよ?」
「無自覚が。」
吐き擦れられるように言われた言葉に私は首を傾げる。
「無自覚?」
「……。」
ジェダイドは何とも言えない表情で私を見て、そして、私の頭を撫でる。
「ジェダイド?」
「眠らないなら、せめて目を閉じとけ。」
「……。」
「あと、楽な姿勢になった方がいいと思うから、セラフィナイトを預かるが。」
「いいえ、セラフィナイトは私が抱きしめておくから大丈夫よ。」
「そうか。」
私が断ることが分かっていたのか、思ったよりもジェダイドはあっさりと引いた。
「マラカイト。」
「はい?」
「もし、しんどくなれば絶対にすぐに言えよ。」
「ええ、そうね。」
私の言葉にジェダイドはジトリと睨み、そして、溜息を一つ零した。
「そう言って、お前は何でも誤魔化すんだろうな。」
「誤魔化すって、どういう意味?」
「……それも無自覚なのか。」
色々言いたい事があるのか、私の頭の上に置かれた手は少し力がこもっている、ただ、私が痛がるような痛さじゃないのはきっと彼の優しさなのだろう。
「ジェダイド?」
「……マラカイト。」
「何?」
私が訪ねたように言ったはずなのに、何故か私は彼に問われたような気がした、だから、私は彼が言いやすいように言葉を促す。
「一つ聞いてもいいか?」
「うん。」
「お前は恨まないのか?」
「恨む?」
「ああ、お前の事を見ていて常に思っていた。お前は理不尽な目に遭いすぎているのじゃないかと。」
ジェダイドの言葉に私はそんな事はないと思う、むしろ恵まれている方だろう。
そうじゃなければ、私はきっと生きていないのだから。
「…その眼じゃ、否定するんだろうな、お前は…。
本当にお人よしというか、何というか。」
「私にはお人よしという言葉が一番似合わないと思うよ?」
「どこがだ、得体のしれない人間と……こいつを守ろうとしている時点でお前は十分にお人よしだろ。」
「……。」
私は無言でホッとしていた。
ジェダイドが眠れないのか?と聞いた時点から何となく会話が続くのではないのかな、とは思ってしまったので、念のために周りに私たちの会話が伝わらないように惑わせる術を使っていたが正解だった。
「ジェダイド。」
「何だ。」
「こんな人の目が、耳がある場所でその会話はよくないわ。」
「――っ。」
彼は決して鈍くはない。
ただ色々な経験が不足な分、こうすればああなるという、という考えに中々至らないのだ。
それに今までは自分の身分を知っているのが当然という立場に遭った為に、こいう場合どうしても、自分の立場を忘れてしまいそうになっている。
だけど、彼は私が全てを言わなくとも気づいてくれる。
今だってきょろきょろと周りを見渡し、そして、誰も自分たちの話に気づいていない事を確認してホッと息を吐いている。
ここで、私が種明かしをしてもいいのだが、それだと、私が常に彼のフォローをしている事がばれ仕舞う。
いや、ばらすこと自体はさほど問題はないのだが、二つほど自分が嫌というか懸念している事がある。
一つはマラカイト(私)が居れば大丈夫だと思ってしまう事、私たちが傍に居るのはこの旅の間くらいだ。
だから、私が居てもいなくても注意を怠らない事を覚えて居て欲しい、それは今後に役立つはずだから。
今は失敗してくれればいい、そうすれば間違いを間違いだと指摘できる。
彼はきっと覚えていてくれるだろう。
優しい人だから、聡い人だからきっとそこは大丈夫だろう。
もう一つは彼が怒る事だ。
こちらの方が正直に言えば堪えます。
このくらい力を使っても、正直今回抜けた森を一時間で駆け抜けるくらいの疲労しかないのに、大げさに言ってくるでしょう。
そして、余計な事をするなとかいいそうです。
勿論彼が私を心配してくださっている事は痛いほど伝わりますけど、それでも、限度というものがあります。
「マラカイト、すまない。」
本当に申し訳なさそうに頭を下げる彼に私の良心がズキリと痛みます。
「……大丈夫ですよ、話を聞かれないように幻惑の術を使っています。」
「はぁ?」
目を丸くさせるジェダイドに私は平然と言います。
「他の人には私たちの話している内容は違って聞こえているはずです、なので、多少の事は口を滑らせても大丈夫ですが、ただ、あくまでも会話のみにしていますので、身バレするようなものは出さないでくださいね。」
「……お前は体調が悪いというのに。」
「体調は悪くありませんよ。」
「だが。」
辛うじてジェダイドは怒っていないようだけども、そろそろ話を逸らさないと危険な事には変わりないだろう。
「このくらい朝飯前です。」
「……。」
私の言葉にジェダイドは大げさなくらい大きな溜息を吐く。
「本当にお前は。」
そうジェダイドが呟くのと同時にガタリと勢いよく馬車が止まった。
これから起きる事は偶然なのか、それとも必然なのか、それとも運命の悪戯なのか、凡人である私には分からない事だった。
私はセラフィナイトを抱きしめながら、警戒を怠らない。
「マラカイト。」
「何?」
「寝ないのか?」
「……何で?」
「……質問を質問で返すな。」
ジェダイドの言葉に私は苦笑する。
「まだつかないけど、日が高いし眠らないわよ?」
「……夜もあんま寝てねぇんじゃないか。」
「……。」
やはりばれていたかと私は心の中で呟く。
私が分かりやすいのか、それとも、ジェダイドの観察眼が優れているのか。
「……やっぱりか。」
前髪を掻き上げジェダイドは溜息を零す。
「あんま、頑張りすぎるな。」
「ジェダイドが思っているほど私は頑張っていないよ?」
「無自覚が。」
吐き擦れられるように言われた言葉に私は首を傾げる。
「無自覚?」
「……。」
ジェダイドは何とも言えない表情で私を見て、そして、私の頭を撫でる。
「ジェダイド?」
「眠らないなら、せめて目を閉じとけ。」
「……。」
「あと、楽な姿勢になった方がいいと思うから、セラフィナイトを預かるが。」
「いいえ、セラフィナイトは私が抱きしめておくから大丈夫よ。」
「そうか。」
私が断ることが分かっていたのか、思ったよりもジェダイドはあっさりと引いた。
「マラカイト。」
「はい?」
「もし、しんどくなれば絶対にすぐに言えよ。」
「ええ、そうね。」
私の言葉にジェダイドはジトリと睨み、そして、溜息を一つ零した。
「そう言って、お前は何でも誤魔化すんだろうな。」
「誤魔化すって、どういう意味?」
「……それも無自覚なのか。」
色々言いたい事があるのか、私の頭の上に置かれた手は少し力がこもっている、ただ、私が痛がるような痛さじゃないのはきっと彼の優しさなのだろう。
「ジェダイド?」
「……マラカイト。」
「何?」
私が訪ねたように言ったはずなのに、何故か私は彼に問われたような気がした、だから、私は彼が言いやすいように言葉を促す。
「一つ聞いてもいいか?」
「うん。」
「お前は恨まないのか?」
「恨む?」
「ああ、お前の事を見ていて常に思っていた。お前は理不尽な目に遭いすぎているのじゃないかと。」
ジェダイドの言葉に私はそんな事はないと思う、むしろ恵まれている方だろう。
そうじゃなければ、私はきっと生きていないのだから。
「…その眼じゃ、否定するんだろうな、お前は…。
本当にお人よしというか、何というか。」
「私にはお人よしという言葉が一番似合わないと思うよ?」
「どこがだ、得体のしれない人間と……こいつを守ろうとしている時点でお前は十分にお人よしだろ。」
「……。」
私は無言でホッとしていた。
ジェダイドが眠れないのか?と聞いた時点から何となく会話が続くのではないのかな、とは思ってしまったので、念のために周りに私たちの会話が伝わらないように惑わせる術を使っていたが正解だった。
「ジェダイド。」
「何だ。」
「こんな人の目が、耳がある場所でその会話はよくないわ。」
「――っ。」
彼は決して鈍くはない。
ただ色々な経験が不足な分、こうすればああなるという、という考えに中々至らないのだ。
それに今までは自分の身分を知っているのが当然という立場に遭った為に、こいう場合どうしても、自分の立場を忘れてしまいそうになっている。
だけど、彼は私が全てを言わなくとも気づいてくれる。
今だってきょろきょろと周りを見渡し、そして、誰も自分たちの話に気づいていない事を確認してホッと息を吐いている。
ここで、私が種明かしをしてもいいのだが、それだと、私が常に彼のフォローをしている事がばれ仕舞う。
いや、ばらすこと自体はさほど問題はないのだが、二つほど自分が嫌というか懸念している事がある。
一つはマラカイト(私)が居れば大丈夫だと思ってしまう事、私たちが傍に居るのはこの旅の間くらいだ。
だから、私が居てもいなくても注意を怠らない事を覚えて居て欲しい、それは今後に役立つはずだから。
今は失敗してくれればいい、そうすれば間違いを間違いだと指摘できる。
彼はきっと覚えていてくれるだろう。
優しい人だから、聡い人だからきっとそこは大丈夫だろう。
もう一つは彼が怒る事だ。
こちらの方が正直に言えば堪えます。
このくらい力を使っても、正直今回抜けた森を一時間で駆け抜けるくらいの疲労しかないのに、大げさに言ってくるでしょう。
そして、余計な事をするなとかいいそうです。
勿論彼が私を心配してくださっている事は痛いほど伝わりますけど、それでも、限度というものがあります。
「マラカイト、すまない。」
本当に申し訳なさそうに頭を下げる彼に私の良心がズキリと痛みます。
「……大丈夫ですよ、話を聞かれないように幻惑の術を使っています。」
「はぁ?」
目を丸くさせるジェダイドに私は平然と言います。
「他の人には私たちの話している内容は違って聞こえているはずです、なので、多少の事は口を滑らせても大丈夫ですが、ただ、あくまでも会話のみにしていますので、身バレするようなものは出さないでくださいね。」
「……お前は体調が悪いというのに。」
「体調は悪くありませんよ。」
「だが。」
辛うじてジェダイドは怒っていないようだけども、そろそろ話を逸らさないと危険な事には変わりないだろう。
「このくらい朝飯前です。」
「……。」
私の言葉にジェダイドは大げさなくらい大きな溜息を吐く。
「本当にお前は。」
そうジェダイドが呟くのと同時にガタリと勢いよく馬車が止まった。
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