逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第一章

約束

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 私たちは朝食を食べた後、荷物を取りに部屋に戻った。
 私は忘れ物がないか最終確認し、ジェダイドは反対に着てしまった服を正しく着替えなおした。

「マラカイト。」
「何かしら?」
「お前さ。」
「ん?」

 忘れ物がない事を確認した、私はゆっくりとジェダイドの方を見る。

「地図とか見た事あるのか?」
「何で?」
「いや、なんか色々詳しいからここまで来た事があるのかと思ったんだが、それにしたら少しおかしい気がしてな。」
「だから、地図。」
「ああ。」
「……。」

 私は少し考える、今の私は地図何て見た事がない、でも、「前」の自分は一度だけ地図を見た事があった。
 それに、色んな所を回っていたので、大体の場所を把握している。

「そうね、一度だけ。」
「……。」

 疑うような目をしているジェダイドに私は苦笑する。

「本当よ、地図何て変えるほどの余裕もない上に、こんな子どもが移動できるほど世界は優しくはないわ。」
「……。」

 私の言葉にジェダイドは何となく私の言いたい意味が分かったのか少し表情を変える。

「確かに昨日のギルドの様子を見れば貴重な物を見せられるか、とか言いそうな奴が出てきそうだな。」
「あら、よく分かったわね。」
「……。」

 ジェダイドの言葉に私はまるで見ていたのかと思ってしまった。

「前に言われたわ「お前みたいなクソガキにこの地図の良さが分かる訳ねぇよ、こいつはな、貴重なもんなんだよ、餓鬼は大人しくママのおっぱいでも吸ってやがれ」って言われたわ。」
「……。」

 あら……。
 沈黙するジェダイドの背負う空気が何か不穏なものに変わってしまった。
 何がいけなかったのかしら……。

「えっと、その時にちらりと見えた地図で大体の場所とか把握できたし、近くを通った時の冒険者の言葉とか傭兵の方の会話を聞いていたら大体把握できたのよね。」
「……。」

 ジェダイドの口が動いた。

 殺す。

 物騒な言葉に私は若干顔を引きつらせる。

「何か私拙い事でも言ったのかしら……。」

 自分の言動を振り返るが、ジェダイドの地雷が全く分からなかった。
 そして、ポンと私の肩に白魚のようなほっそりとした手がのった。

「マラカイトちゃん。」
「はい?」
「先ほど言ったギルドの支部と職員の名前とか分かる?」

 ニッコリと微笑むコーラルの母に私は何か恐ろしいものを感じた。

「い、いえ、名前までは……。」
「なら、支部の名前は言えるかしらね?」
「……。」

 これは言ってもいいのだろうか、色々と拙いと思いながらも、私の口はするりとその場所を言ってしまっていた。

「そう、あそこね……。」

 ふふふ、と笑うコーラルの母は美しく、同時に恐ろしかった。

「あの……何を。」
「大丈夫よ、ただ、今度視察をする場所をどこにするか考えていたのだけど、ちょうどよかったわ。」
「……。」

 何がちょうどいいのか私には分からなかったが、それでも、これ以上突っ込むのは拙い気がしたので、口を噤んだ。

「あっ、そうそう、二人とも…ううん、セラフィナイトちゃんを入れれば三人だったわね。」
「ええ。」
「準備が整ったわ。」
「あ、ありがとうございます。」
「いいえ。こちらの方が貴女に不快な思いをさせたし、それに迷惑をかけたわ。」
「そんな事はありません。」
「……。」

 否定をする私にコーラルの母はどこか悲しそうな顔をする。

「どうして、こんなにも優しい子にあんな仕打ちが出来るのかしら。」
「………人は異端を嫌います。」
「マラカイトちゃん?」
「異常な力、異なる見た目、基準に劣る者、基準よりもはるかに高い者、色々な要素で人は自分と違うものを嫌い、恐れます。」

 私は「前」の時に自分の目で見てた光景を思い出す。

 ジェダイドの力は特別だった。

 それを恐れる人。

 それを求める人。

 様々な目で見られていた彼は疲弊していた。

「そんな人ばかりでないのはきっとごく少数、いいえ、きっといないはずです。」
「……。」
「妬み、恨み、人に必ずある感情、それはきっと切り離せないものでしょう。」

 私はそっと目を閉じ、「前」の最期ジェダイドの姿を思います。

「私はどうでもいい、どんな目で見られても平気です、でも、他の人は違います。人はか弱い生き物です。」
「……。」
「どんなに心が強くてもいつか折れてしまいます、だから、もし、貴女が悔いているのなら、今後の対処をしてください。」

 私はずるい。

 彼女の気持ちを利用する。

 でも、そうする事でいずれ、平和になった世界でジェダイドに何かいい形で帰ってくるかもしれない。

 もし、そうなるのならば、私は彼女の気持ちを利用しよう。

「未然に防いでください。」
「……約束は出来かねるわ。」
「ええ。」
「でも、何もしない事はしない。」
「はい。」
「期待はさせられないけど、ここのギルド長として、貴女の気持ちは頂くわ。」
「はい。」
「そして、わたし個人としては全力を持って膿を焼き尽くしておくわ。次に会った時、貴方に対する可笑しな職員がいないよう徹底してやるわ。」
「……。」

 私は目を丸くする、きっと普通ならば無理だと思った、でも、彼女ならばやってくれそうな気がした。

 だから、私は期待した。

「ふふふ、やっぱり、女の子は笑わないとね。」
「えっ?」
「さて、忙しくなるわね。」

 きっと近い将来、このギルドは変わるだろう。

 そして、波紋のように広がっていく。

 そんな気がした。
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