61 / 136
第一章
約束
しおりを挟む
私たちは朝食を食べた後、荷物を取りに部屋に戻った。
私は忘れ物がないか最終確認し、ジェダイドは反対に着てしまった服を正しく着替えなおした。
「マラカイト。」
「何かしら?」
「お前さ。」
「ん?」
忘れ物がない事を確認した、私はゆっくりとジェダイドの方を見る。
「地図とか見た事あるのか?」
「何で?」
「いや、なんか色々詳しいからここまで来た事があるのかと思ったんだが、それにしたら少しおかしい気がしてな。」
「だから、地図。」
「ああ。」
「……。」
私は少し考える、今の私は地図何て見た事がない、でも、「前」の自分は一度だけ地図を見た事があった。
それに、色んな所を回っていたので、大体の場所を把握している。
「そうね、一度だけ。」
「……。」
疑うような目をしているジェダイドに私は苦笑する。
「本当よ、地図何て変えるほどの余裕もない上に、こんな子どもが移動できるほど世界は優しくはないわ。」
「……。」
私の言葉にジェダイドは何となく私の言いたい意味が分かったのか少し表情を変える。
「確かに昨日のギルドの様子を見れば貴重な物を見せられるか、とか言いそうな奴が出てきそうだな。」
「あら、よく分かったわね。」
「……。」
ジェダイドの言葉に私はまるで見ていたのかと思ってしまった。
「前に言われたわ「お前みたいなクソガキにこの地図の良さが分かる訳ねぇよ、こいつはな、貴重なもんなんだよ、餓鬼は大人しくママのおっぱいでも吸ってやがれ」って言われたわ。」
「……。」
あら……。
沈黙するジェダイドの背負う空気が何か不穏なものに変わってしまった。
何がいけなかったのかしら……。
「えっと、その時にちらりと見えた地図で大体の場所とか把握できたし、近くを通った時の冒険者の言葉とか傭兵の方の会話を聞いていたら大体把握できたのよね。」
「……。」
ジェダイドの口が動いた。
殺す。
物騒な言葉に私は若干顔を引きつらせる。
「何か私拙い事でも言ったのかしら……。」
自分の言動を振り返るが、ジェダイドの地雷が全く分からなかった。
そして、ポンと私の肩に白魚のようなほっそりとした手がのった。
「マラカイトちゃん。」
「はい?」
「先ほど言ったギルドの支部と職員の名前とか分かる?」
ニッコリと微笑むコーラルの母に私は何か恐ろしいものを感じた。
「い、いえ、名前までは……。」
「なら、支部の名前は言えるかしらね?」
「……。」
これは言ってもいいのだろうか、色々と拙いと思いながらも、私の口はするりとその場所を言ってしまっていた。
「そう、あそこね……。」
ふふふ、と笑うコーラルの母は美しく、同時に恐ろしかった。
「あの……何を。」
「大丈夫よ、ただ、今度視察をする場所をどこにするか考えていたのだけど、ちょうどよかったわ。」
「……。」
何がちょうどいいのか私には分からなかったが、それでも、これ以上突っ込むのは拙い気がしたので、口を噤んだ。
「あっ、そうそう、二人とも…ううん、セラフィナイトちゃんを入れれば三人だったわね。」
「ええ。」
「準備が整ったわ。」
「あ、ありがとうございます。」
「いいえ。こちらの方が貴女に不快な思いをさせたし、それに迷惑をかけたわ。」
「そんな事はありません。」
「……。」
否定をする私にコーラルの母はどこか悲しそうな顔をする。
「どうして、こんなにも優しい子にあんな仕打ちが出来るのかしら。」
「………人は異端を嫌います。」
「マラカイトちゃん?」
「異常な力、異なる見た目、基準に劣る者、基準よりもはるかに高い者、色々な要素で人は自分と違うものを嫌い、恐れます。」
私は「前」の時に自分の目で見てた光景を思い出す。
ジェダイドの力は特別だった。
それを恐れる人。
それを求める人。
様々な目で見られていた彼は疲弊していた。
「そんな人ばかりでないのはきっとごく少数、いいえ、きっといないはずです。」
「……。」
「妬み、恨み、人に必ずある感情、それはきっと切り離せないものでしょう。」
私はそっと目を閉じ、「前」の最期ジェダイドの姿を思います。
「私はどうでもいい、どんな目で見られても平気です、でも、他の人は違います。人はか弱い生き物です。」
「……。」
「どんなに心が強くてもいつか折れてしまいます、だから、もし、貴女が悔いているのなら、今後の対処をしてください。」
私はずるい。
彼女の気持ちを利用する。
でも、そうする事でいずれ、平和になった世界でジェダイドに何かいい形で帰ってくるかもしれない。
もし、そうなるのならば、私は彼女の気持ちを利用しよう。
「未然に防いでください。」
「……約束は出来かねるわ。」
「ええ。」
「でも、何もしない事はしない。」
「はい。」
「期待はさせられないけど、ここのギルド長として、貴女の気持ちは頂くわ。」
「はい。」
「そして、わたし個人としては全力を持って膿を焼き尽くしておくわ。次に会った時、貴方に対する可笑しな職員がいないよう徹底してやるわ。」
「……。」
私は目を丸くする、きっと普通ならば無理だと思った、でも、彼女ならばやってくれそうな気がした。
だから、私は期待した。
「ふふふ、やっぱり、女の子は笑わないとね。」
「えっ?」
「さて、忙しくなるわね。」
きっと近い将来、このギルドは変わるだろう。
そして、波紋のように広がっていく。
そんな気がした。
私は忘れ物がないか最終確認し、ジェダイドは反対に着てしまった服を正しく着替えなおした。
「マラカイト。」
「何かしら?」
「お前さ。」
「ん?」
忘れ物がない事を確認した、私はゆっくりとジェダイドの方を見る。
「地図とか見た事あるのか?」
「何で?」
「いや、なんか色々詳しいからここまで来た事があるのかと思ったんだが、それにしたら少しおかしい気がしてな。」
「だから、地図。」
「ああ。」
「……。」
私は少し考える、今の私は地図何て見た事がない、でも、「前」の自分は一度だけ地図を見た事があった。
それに、色んな所を回っていたので、大体の場所を把握している。
「そうね、一度だけ。」
「……。」
疑うような目をしているジェダイドに私は苦笑する。
「本当よ、地図何て変えるほどの余裕もない上に、こんな子どもが移動できるほど世界は優しくはないわ。」
「……。」
私の言葉にジェダイドは何となく私の言いたい意味が分かったのか少し表情を変える。
「確かに昨日のギルドの様子を見れば貴重な物を見せられるか、とか言いそうな奴が出てきそうだな。」
「あら、よく分かったわね。」
「……。」
ジェダイドの言葉に私はまるで見ていたのかと思ってしまった。
「前に言われたわ「お前みたいなクソガキにこの地図の良さが分かる訳ねぇよ、こいつはな、貴重なもんなんだよ、餓鬼は大人しくママのおっぱいでも吸ってやがれ」って言われたわ。」
「……。」
あら……。
沈黙するジェダイドの背負う空気が何か不穏なものに変わってしまった。
何がいけなかったのかしら……。
「えっと、その時にちらりと見えた地図で大体の場所とか把握できたし、近くを通った時の冒険者の言葉とか傭兵の方の会話を聞いていたら大体把握できたのよね。」
「……。」
ジェダイドの口が動いた。
殺す。
物騒な言葉に私は若干顔を引きつらせる。
「何か私拙い事でも言ったのかしら……。」
自分の言動を振り返るが、ジェダイドの地雷が全く分からなかった。
そして、ポンと私の肩に白魚のようなほっそりとした手がのった。
「マラカイトちゃん。」
「はい?」
「先ほど言ったギルドの支部と職員の名前とか分かる?」
ニッコリと微笑むコーラルの母に私は何か恐ろしいものを感じた。
「い、いえ、名前までは……。」
「なら、支部の名前は言えるかしらね?」
「……。」
これは言ってもいいのだろうか、色々と拙いと思いながらも、私の口はするりとその場所を言ってしまっていた。
「そう、あそこね……。」
ふふふ、と笑うコーラルの母は美しく、同時に恐ろしかった。
「あの……何を。」
「大丈夫よ、ただ、今度視察をする場所をどこにするか考えていたのだけど、ちょうどよかったわ。」
「……。」
何がちょうどいいのか私には分からなかったが、それでも、これ以上突っ込むのは拙い気がしたので、口を噤んだ。
「あっ、そうそう、二人とも…ううん、セラフィナイトちゃんを入れれば三人だったわね。」
「ええ。」
「準備が整ったわ。」
「あ、ありがとうございます。」
「いいえ。こちらの方が貴女に不快な思いをさせたし、それに迷惑をかけたわ。」
「そんな事はありません。」
「……。」
否定をする私にコーラルの母はどこか悲しそうな顔をする。
「どうして、こんなにも優しい子にあんな仕打ちが出来るのかしら。」
「………人は異端を嫌います。」
「マラカイトちゃん?」
「異常な力、異なる見た目、基準に劣る者、基準よりもはるかに高い者、色々な要素で人は自分と違うものを嫌い、恐れます。」
私は「前」の時に自分の目で見てた光景を思い出す。
ジェダイドの力は特別だった。
それを恐れる人。
それを求める人。
様々な目で見られていた彼は疲弊していた。
「そんな人ばかりでないのはきっとごく少数、いいえ、きっといないはずです。」
「……。」
「妬み、恨み、人に必ずある感情、それはきっと切り離せないものでしょう。」
私はそっと目を閉じ、「前」の最期ジェダイドの姿を思います。
「私はどうでもいい、どんな目で見られても平気です、でも、他の人は違います。人はか弱い生き物です。」
「……。」
「どんなに心が強くてもいつか折れてしまいます、だから、もし、貴女が悔いているのなら、今後の対処をしてください。」
私はずるい。
彼女の気持ちを利用する。
でも、そうする事でいずれ、平和になった世界でジェダイドに何かいい形で帰ってくるかもしれない。
もし、そうなるのならば、私は彼女の気持ちを利用しよう。
「未然に防いでください。」
「……約束は出来かねるわ。」
「ええ。」
「でも、何もしない事はしない。」
「はい。」
「期待はさせられないけど、ここのギルド長として、貴女の気持ちは頂くわ。」
「はい。」
「そして、わたし個人としては全力を持って膿を焼き尽くしておくわ。次に会った時、貴方に対する可笑しな職員がいないよう徹底してやるわ。」
「……。」
私は目を丸くする、きっと普通ならば無理だと思った、でも、彼女ならばやってくれそうな気がした。
だから、私は期待した。
「ふふふ、やっぱり、女の子は笑わないとね。」
「えっ?」
「さて、忙しくなるわね。」
きっと近い将来、このギルドは変わるだろう。
そして、波紋のように広がっていく。
そんな気がした。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
神様 なかなか転生が成功しないのですが大丈夫ですか
佐藤醤油
ファンタジー
主人公を神様が転生させたが上手くいかない。
最初は生まれる前に死亡。次は生まれた直後に親に捨てられ死亡。ネズミにかじられ死亡。毒キノコを食べて死亡。何度も何度も転生を繰り返すのだが成功しない。
「神様、もう少し暮らしぶりの良いところに転生できないのですか」
そうして転生を続け、ようやく王家に生まれる事ができた。
さあ、この転生は成功するのか?
注:ギャグ小説ではありません。
最後まで投稿して公開設定もしたので、完結にしたら公開前に完結になった。
なんで?
坊、投稿サイトは公開まで完結にならないのに。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる