逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第一章

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 あれから数分間移動する事がなかったけれども、ようやく私たちはコーラルの家に向かいました。
 コーラルは彼女の両親に手を引かれて前を歩き、ジェダイドは私の横を歩いてくれています。

「…マラカイト。」
「何?」
「腕しんどくないか?」
「何が?」

 ジェダイドの言いたい意味が分からず、私は首を少し傾げる。

「さっきからずっとセラフィナイトを抱いているじゃねぇか、腕疲れていないか?」
「大丈夫よ。」
「そうか。」
「うん。」

 黙り込むジェダイドに私は前を見る。

 仲のよさそうな家族。

 私には縁遠い光景だった。

 「前」も。

 今も。

 そして、未来も私には家族なんてないだろう。

 それは別に寂しい事ではないのだが、それでも、こうして幸せそうな家族を見るたび、何故だか胸が痛むようなそんな気がした。

「マラカイト。」

 どこか先ほどよりもはっきりと呼ばれ、そちらに顔を向ければ、何故か彼はホッとしたような顔をしていた。

「ジェダイド?」
「……。」
「ジェダイド?」
「あっ、何だ?」
「何だって、貴方が先に私の名前を呼んだんじゃ……。」

 目を瞬かせ、ジェダイドはしばらくして、顔を赤く染める。

「あー…その……だな。」
「うん。」

 私はジェダイドが次の言葉を待つ事にする。

「……………あっ、そうだ、どういうルートで次は向かう気なんだ?」
「えっと、そうね。」

 明らかに今思いつきました、というような感じがしましたが、そんなにも話しにくい事だったのかと、不安になります。
 でも、ジェダイドだったら、ちゃんと話してくれる、と信じたいと思います。

「取り敢えず、相馬車を探して、聖教本部のあるダルヤまで向かえたらと思っているわ。」
「そうか。」
「あそこなら、多分相馬車があると思うし、それに、ちょっと調べたい事もあるから。」
「調べたい事?」
「ええ。」

 不思議そうな顔をしているジェダイドに私は少し苦笑する。

「駄目かしら?」
「いや、そもそも、俺の都合にお前が付き合ってくれているんだからな。」
「私は自分の意思で貴方について行っているのだけよ。」
「…お前は何でも噛んでも俺を優先しているだろうが。」
「そんなつもりはないけど。」
「ある。」

 断言され、私は自分の行いを思い出してみるが、どれも、私がジェダイドを巻き込んでしまっているような気がしてならない。

「私の方が…ジェダイドに迷惑をかけているわ。」
「……。」

 ジェダイドはジッと私を見て、溜息を零す。

「お前は本当に自己評価が低いな。」
「そうかしら?」
「ああ。」

 妥当な評価してないと思う私は小さく肩を竦める。
 それを偶然なのか、分からないけれどもジェダイドが見てしまい、彼は何を思っているのか顔を顰めていた。
 それが少し居心地悪く私はセラフィナイトを見た。

「……。」

 何故かセラフィナイトもジェダイドと同じように顔を顰めているようで、私は何があったのかと考えるが、答えは出なかった。

「お腹空いた訳でも、おしめじゃないのに、何であなたは顔を顰めているのかしら…。」

 困惑する私にセラフィナイトもジェダイドも同時に顔を見合わせ、首をゆるゆると振ったのだった。
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