逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第一章

謝罪

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「申し訳なかったわ。」

 深々と頭を下げる美女に私は困惑した。

「何がですか…。」
「あのギルド職員の対応です。」
「私はこのような容姿をしていますし、それによそ者ですから彼は警戒したのでしょうし、私は気にしてはいません。」
「……。」

 美女は何故か痛ましげに私を見た。

「どうかいたしましたか?」
「いえ…。」

 美女はスッと私から目を逸らし、彼女の後ろに立つ少女に目配りをする。

「先ほどの騒ぎの後で大変申し訳ないのだけど、薬草なのですが、もし貴女がまだ売る気があるのでしたら、売っていただけることは可能かしら?」
 ガタリと椅子から立ったジェダイドが視界に入るが、私はそれを手で制す。

「そちらの希望は?」
「一束1000ルードでいかがかしら?」
「……迷惑料込々でしょうか?」
「いいえ、わたしが見たところのその薬草の適正価格です。」

 私はその言葉に驚く。

「私は高く見積もっても500ルードだと思っていましたが。」
「あら、そんな事はないわ、その薬草には地の精霊の加護が宿っているわよ。」
「……そんなたいそうなモノではないはずですけど。」
「あら、加護はどんなものでも、加護よ。」

 ニコニコと笑う美女に私は溜息を吐きたくなる。

「私にしたら高く売りつけてしまうようで申し訳ないのですが。」
「……参ったわね。」

 本当に困ったような顔をする彼女に私は訳が分からなくなる。

「その分だと貴女は本当に今までギルドのまともな対応を受けた事が無いようね。」
「何がですか?」
「……シズク。」
「はい。」

 小さな袋を机に置き、シズクと呼ばれた少女は頷いた。

「申し訳ないけど頼まれてくれるかしら?」
「はい、これはギルドにおいて由々しき事態なので、早急に調査し、改善策を練ります。」
「ええ、頼んだわ。」
「承知いたしました。」

 シズクと呼ばれた少女はサッと下がり、音もたてず忽然とこの部屋からいなくなった。

「えっ?」
「……。」

 驚くジェダイドと特に驚く事のない私を面白そうに見ている美女に私は溜息を吐いてしまった。

「気づいていました?」
「……。」

 問われているはずなのに断定されているようで、私は彼女を睨むようにして見る。

「別に貴女を試していた訳ではありませんよ、あれは彼女の意思なのよ。」
「……。」
「……信じていただけないのは分かったわ、貴女はわたしが思っている以上につらい思いをしたのね。」
「辛い思いなんてしていません。」

 むしろ私は幸せな方だと思う。
 五歳まで保護者が居てくれたし、住む場所も食べる物も困ったころはなかったのだから。

「……。」
「……。」
「ねぇ。」
「何ですか?」
「これからどうするのかしら?」
「何がですか?」
「ここに来たのは観光……ではなさそうだし、かと言って依頼でもなさそうですので、泊まる場所と掻き待っているのかしら?」
「いえ、まだです。」

 私が正直に言えば美女はニコニコと笑う。

「でしたら、家に来ません?」
「えっ?」
「コーラルも貴女をお友達だと思っているようだし、貴女が来れば喜ぶと思うの。」
「……。」
「食事も用意するし、お金も取らないわ。」
「……。」
「ね?どうかしら?」
「そこまでしていただく理由がありません。」

 私が断ろうとしているのが分かったのか美女は急に顔を曇らせる。

「手ごわいわね。」
「何がですか?」
「それなら、貴女の迷惑料とか何でもいいわ、泊まってちょうだい。」
「でも…。」
「どうして、そこまで頑なに嫌がるのかしら、理由が知りたいわ、勿論無理にとは言わないけど、教えてくれるのなら教えて欲しいと思うわ。」
「……。」

 ジッと見てくる視線が三つ。

 一人は目の前の美女。

 もう一人はジェダイド。

 そして、最後の一人は何故かセラフィナイトだ。

「……逆に聞きますが、何故貴女はこんな得体のしれない私を執拗に誘うのですが、何のメリットもないと思いますけど。」
「メリットって…。」
「私には分かりません。」
「……悲しいわね。」

 本当に悲しそうな目をする彼女に私は首を傾げる。

「私はこれ以上の幸せは知りませんが。」
「……。」
「私には守るべき人がいます。
 その人が生きている。
 笑っていてくれる。
 それだけで、私は幸せです。」
「なら、その人の為にも今日はわたしたちの所に泊まらない?」
「……理由は?」
「聡い貴女なら分かるんじゃないかしら?」
「……。」

 私は目を閉じ、色々な事を考える。

 彼女の家に泊まるメリット、デメリット。

 泊まらなかった時のメリット、デメリット。 

 そして、私だけが止まらなかった時のメリット、デメリット。

「彼とセラフィナイトだけを泊めるという選択肢はないのかしら?」
「無いわね。」
「……。」

 色々考えて、私は溜息を零した。

「分かりました。」
「泊まらせてください。」
「そうよかったわ。」

 ニッコリと笑う美女に私は嵌められたのではないのかと、思わず溜息を零しそうになるが、寸前のところで呑み込んだ。
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