逆行したら別人になった

弥生 桜香

文字の大きさ
上 下
52 / 136
第一章

美女の眼

しおりを挟む
「あら、まだ何かありまして?」
「わ、わたしは適性を見ただけです。」
「……。」

 まだ言うのかと彼女は呆れたような顔をしている。

「適正ね。」
「はい、このような幼い子どもがこんな薬草を採れるはずがありません、きっと誰かのを盗んだに違いありません。」
「……盗品と言いたいの?」
「可能性はあると思いますが。」
「……そう。」

 静かな声で彼女がそう言えば、ギルド職員はホッとしたような顔をしている。
 私は思わずこの人は馬鹿なのではないのかと思った。
 彼女は先ほどから自分の娘と同じ年ごとの少女である私を気にかけてくれてていた、それなのに、さらにその少女である私に疑いをかけるなんて、殺されたいんだろうか?

「貴方の言い分は、というよりも、貴方の目が節穴だという事が十分に理解いたしました。」
「えっ?」
「まず、一つ目、もし、それが盗品だとしてそれ程の物が盗まれたのならば今頃その届け出が出ているはずですよ?」
「そ、それは…。」
「それに、彼女は地の精霊に好かれているようですからね。」
「えっ?」
「精霊に好かれている者は加護されていますので、その薬草に僅かに彼女の力が宿っている事くらい、力を持っている者は分かりますから。」
「………。」
「それにしても…。」

 美女は嫌やかな目でギルド職員を睨む。

「貴方は自分の言葉に気づいていないのかしら?」
「えっ?」
「貴方は確かそれを保存状態が悪いと言っていましたよね。」
「……。」
「それなのに、価値があるなんて矛盾していますよね?」
「……。」
「まあ、言えば切れがありませんが、一言で言えば貴方は彼女に対して嘘を吐いて騙そうとした、それは間違いありませんよね。」
「ですが…。」
「わたしは多少の事でしたら目を瞑ろうかと思っている所もあるんですよ?」
「えっ?」

 私は彼女の見た目からしたらそんな不正など許さないタイプに見えるのだが、やはり彼女はギルド長なのか腹黒い一面もありそうだ。

「人は一度や二度過ちを犯します、でも、貴方のそれは人として犯してはいけないラインであり、それに、もうすでにイエローゾーンまで行っていましたしね。」
「そんな。」
「残念でしたね、隠すのならもっと狡猾に隠さないと。」

 美女は目を眇め、夫を見る。
 彼は小さく頷き、ギルド職員の首根っこを掴み外に放り出す。

「今月のお給料はお支払いいたしますが、もう明日からは結構です。」
「ぎ、ギルド長っ!」
「あら、そう言えば、言い忘れておりましたね、一応ここに雇う時に契約書に書いておりましたよね?」
「何を。」
「解雇時、一つの「呪」を施すと。」

 ニッコリと微笑む彼女の足元に黄色の陣が現れる。

「わたし、エメーリエ支部のギルド長クレーティアの名の元に。
 その命潰えるまでここで知り得た情報を誰にも話せない事を、そして、その情報があらゆる手段で手放した時、拡散した時、それに応じた罰を追う事を、今ここで地の精霊に誓う。」
「ぐっ…。」

 ギルド元職員は急に自分の胸を押さえ苦しむ。

「はい、皆さんは仕事に戻ってくださいな。」
「「「はい。」」」」
「さて、そちらのお嬢さんには申し訳ないけれども、奥で少しお話をさせていただけないかしら、色々ありそうですしね?」

 心配そうにジェダイドが私を見てくるが、この状況ではどうする事も出来ないので、大人しく彼女の言葉に私は頷く事しか出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

処理中です...