逆行したら別人になった

弥生 桜香

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第一章

治癒の温もり

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「あ、あの…。」

 手の温もりと遠慮した声音に私はハッとなる。
 白昼夢でも見ていたような気がした。

「何でもないわ。」

 頭を振って私は気持ちを切り替える。

「そうですか?」
「ええ。」

 私は立ち上がったコーラルから手を離し彼女のスカートについている砂を払う。

「あの、すみません。」

 慌てて私と同じように砂を払う彼女に私は無言で作業を続ける。
 ある程度砂を払い終わると、私は彼女の膝に擦り傷がある事に気づく。

「大丈夫じゃなかったじゃない。」
「えっ?」
「膝、すりむいているわ。」
「このくらいなら唾つけとけば治りますよ。」
「それは民間療法よ。」
「みんかん、りょうほう?」
「言い伝えみたいで、信ぴょう性がないものよ。」
「へー、物知りなんですね。」
「そんな事はないわ。」
「……えっと。」
「じっとしていて。」

 私は左手に水を集め、左手に治癒の力を宿す。

「少ししみるかもしれないけど、我慢してね。」
「――っ!」

 水で砂や汚れを落とすが、傷がしみたのかコーラルは顔を顰める。

「……。」

 思ったよりも辛抱強い子なのだと私は内心で感心しながらすぐに左手を彼女の膝にかざす。

「温かいです。」
「……これはあくまでも応急処置だから帰ったら大人の人に見てもらってね。」
「はい、ありがとうございます。」

 ぺこりと頭を下げる時に彼女の紺色のみつあみが跳ねる。

「そう言えば、お父様と一緒に来たと言っていたけど、どうして?」
「あのわたしの父は冒険者をしていて、それで、いつかわたしも冒険者か騎士になりたいと思っていて。」
「ついてきたけど、迷子になったのね。」
「う……はい…。」

 私が本当の事を言えば彼女は何故か傷ついた顔をして肩を落とした。

「あの、私失礼な事を言ったのかしら?」
「いえ、事実ですから。」
「……。」

 私は前に真実を、事実を口にしたら傷つく場合があるというのを「前」の時に言われたのを思い出すが、もう口からでた言葉は戻らない。

「ごめんなさいね、私無神経な所があるらしくて。」

 「前」の時もこの無神経さでジェダイドを怒らせてしまった事を思い出し、どうにかしないといけないと考える。

「もっとオブラートに包まないとね。」
「……それって本人の前で言わない方がいいですよ?」
「そうなの?」
「はい。」
「……難しいわね。」

 私は眉間に皺を寄せる。

「そういえば、貴方のお父様のランクは?」
「Bランクです。」
「そうなのね。」

 この森なら浅い所ならばそのランクでは十分だが、子連れとなると、複数名いないと厳しいのではないのだろうか。

「貴女とお父様だけ?」
「いえ、父のパーティーの方々と一緒でした。」
「……。」

 偶然、必然、故意。

 私は深く考えそうになる思考を振り払うように頭を振る。
 ここは彼女たちの問題であって自分が首を突っ込んでいい話ではないはずだ。

「どちらにしても、街についてからじゃないと危険には変わらないわね。」
「すみません。」
「仕方ないわ、でも、貴女は運がよかったわね。」
「そうなんでしょうか?」

 迷子になって狼に追われていたコーラルは素直に頷く事はなかった。

「そうでしょ、襲われていたのに、擦り傷一つで済んでいるなんて幸運の持ち主なのね。」
「……そうだったらいいんですけど。」

 何か陰りのある笑みを浮かべるコーラルに私はこれ以上首を突っ込んではいけないと思い、何も言う事が出来なかった。

「さあ、待っている人がいるから、行きましょうか。」
「はい。」

 私たちは待たせているジェダイドの元へと足を運ぶ。
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