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第二章

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 目的の場所に近づくにつれ魔物の数が増えてきたように思う。
 魔物の返り血を拭うメイヤを見て私は表情を曇らせる。
 はっきり言ってメイヤとメイカ、そして、私しかまともに戦える人がいない。
 他の人は同世代に比べれば多少できる方だろうが、経験は少ない上に、精神的にもだいぶきつくなっているだろう。
 はっきり言ってここで引き返してもらえる方が私の精神面的にも楽になるだろう。
 だけど、それは出来ない。
 もし、彼らだけおめおめと帰ったのならば確実あの男は彼らを罰するだろうし、それを纏められなかったメイヤを罵倒するだろう。
 罵倒だけならばまだましかもしれない、罰……。
 あの男はきっとメイヤを殺すだろう。
 そうじゃなければ、学生の身であるメイヤを死地に向かわせるだろうか。
 答えは否だろう。
 もし、彼らが本気で誰かを助けるのならば、少なくとも一隊くらいは用意しなくてはならないだろう、しかも、一人一人が姉くらいの実力者クラスでなくてはならない。
 それなのに、王子とそのお付きの者たったそれだけだ。
 死に行けと言っているようなものだろう。
 それに替えのきく令嬢一人に国が動く事はないだろう。
 もし、動くしたらその国の姫くらいだろう。
 茶番劇に私とメイヤ、メイカは助かったが、他の人たちは貧乏くじを引かされたようなものだろう。
 せめて安全に家に帰らせられればいいのだが、この先私たちでもギリギリならばもしかしたら、五体満足は無理なのかもしれない。

「ルナ…。」
「えっ?」

 いつの間にか返り血を綺麗にしたメイヤが私の側に居た。

「ごめんなさい、聞いていなかった。」
「いや、まだ、名前を呼んだだけだ。」
「名前…。」

 普通に反応してしまったが、彼は私の事を「ルナ」と呼んでいなかったではないだろうか。

「えっと、メイ…カ?」
「何だ、ミナ。」

 いたずらっ子のような顔をするメイヤに私は口をとがらせる。

「誰かが聞いていたらどうするの?」
「聞こえているはずがないだろう。」

 そう言うとメイヤはぐったりとしている彼らに視線を向ける。

「こんな中盤…いや、まだ序盤か?…まあ、いい、こんな所でぐったりしているのならば敵地にたどり着いたらどうなるんだろうな。」
「ええ、私達だって彼らを守りながら戦うのは限度があるわ。」
「だろうな。」
「……どうしたものかしら。」
「置いていければいいんだがな。」
「そうもいかないでしょ。」

 メイヤの言葉に私は軽く睨むが、心情的には彼に同意なのでどうしても、弱くなってしまう。

「分かっている。」
「……。」
「なんか嫌な予感しかしないな。」
「……。」

 メイヤの言葉に私は唇を噛む。
 彼も感じている何か、それは私も感じている。
 手遅れの何か。
 その先に行きつく何かの終わり。
 それはきっと後味の悪いものでしかない。
 漠然としか理解できないそれに私は不安を抱く事しか出来ない。

「……先に行って見てこようか?」
「……。」

 メイヤの提案に私は首を横に振る。

「一人で何をするつもりなの?」
「偵察。」
「嘘。」
「……。」

 彼の言葉に私は鋭く切り込む、彼が単独で動くときはそれだけで終わるはずがないのを、ずっと前から知っている。

「これが一番リスクが少ないと思うんだがな。」
「そうかもしれない、そうかもしれないけど…。」

 こんな世界まで来て貴方一人に背負い込ませるなんて事はしたくない。
 それが彼にも伝わっているのか、メイヤは苦笑する。

「これでも引き際はわきまえているつもりなんだぞ。」
「そうかもしれない、そうかもしれないけど…。」

 それでも、不安なものは不安だった。
 それが伝わっているのか、メイヤは苦笑して私の頭を撫でる。

「お前がそんな顔をするからしないけどな。」
「……どんな顔よ。」
「そんな顔だよ。」
「……。」

 大きな手が私の頬を包み込む。
 優しく、大きく、暖かい手。
 この手を何度失ってい、そして、何度繋ぎ止めた事だろう。
 最後には戻って来るとは分かっていても、離れている間は本当に不安になる。
 いつの間にこんなに依存してしまったのだろう。
 そっと、私は目を伏せる。

「……ルナ。」

 ピタリと動きを止めたと思ったメイヤだったが、次の瞬間、殺気を押し殺したような冷たい声が頭上から降り注ぐ。

「……。」

 何となく私にも理解している。

「敵…だよね。」
「ああ。」

 他の人たちはまだ気づいていない。
 どうするべきだろう。

「少し席を外す。」
「メイヤ…。」
「大丈夫、一時間もしないうちに帰って来るから。」
「……怪我しないでね。」
「ああ。」

 メイヤはまた私の頭を撫でて、迷うことなく、敵が出現した場所まで向かって行く。

「……。」

 ギュッと胸の前に手を当て、彼の後姿を見送る。
 メイヤだったら、大丈夫。
 そう確信しているけれども、それでも、彼が怪我をするのが恐ろしかった。
 あの赤を見たくない。
 早くあの顔を見たいと思う。

「ちょっと、あんた。」

 キャンキャンと吼える声に私はため息を零して、メイドの顔を作り、何食わぬ顔で彼らの輪に加わるのだった。
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