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第二章
38 《アルファード》
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目覚めは最悪だった。
頭が重い。
胸も重い。
だけど、気力だけはあった。
絶対にルナを見つける。
「……転生ボーナスとかあればよかったのにな。」
そうすればもう少し早くあいつと出会えたはずなのに…。
まあ、ないものはない。
しょうがない。
軽く食事を済ませ、そして、歩き出す。
その後、不思議な感覚がした。
何となく進みたい方向があった。
それに、気持ちがはやる。
昔同じ事があった。
迷子になったルナを探した時、これと同じ感覚になった事がある。
そして、その感覚を信じて進むと彼女を見つけられた。
膝を抱えて、声を殺してなく小さな少女。
見つけられた安堵。
もっと早く見つけられなかったという自分への怒り。
だけど、顔を上げて俺を見つけた時の彼女の顔を見た瞬間、どちらも引っ込み。
愛おしいという感情しかなかった。
あの時はまだ恋愛感情の「れ」の字もなかったはずなのに、それでも、自分はすでに彼女中心で動いていた。
まあ、その後彼女の両親にも、自分の両親にも怒られたんだけどな。
因みに、一緒にいたはずの片割れはいつの間にか迷子になっており、あいつが見つかったとまた怒られた。
森を進み。
そして、こちらに向かって走ってくる存在を見つける。
会いたかった。
たった、一晩しか離れていないけれども、それでも、会いたかった。
「アルファード。」
「イザベラっ!」
しっかりとしたぬくもりを抱きとめる。
ああ、彼女だ。
大切な彼女だ。
会いたかった。
「……ねぇ、アルファード。」
「何だ?」
「なんか濡れてない?」
「……。」
「雨降ってたし、もしかして、夜通し?」
「いや、ちゃんと体は休めた……雨、降ってたか?」
「降ってたよ。」
「……。」
全然気づかなかった。
そう言えば、視界が悪いなとは思っていたが、全然気づかなかった。
「………………メイヤ?」
あっ、ヤバい…。
珍しく低くなった彼女の声。
そして、慣れた自分の名前。
完全に彼女は怒っていた。
まあ、当然と言えば当然だ。
逆の立場だったら怒っている自信がある。
「悪い。」
「もう、そうやって、いつもいつも、自分の事は後回しよね。」
「……すまん。」
「もう、お願いだから、もう少し自分の事も顧みてよね。」
「……善処する。」
「……。」
ジトリと睨む彼女に俺は申し訳ないと思うのと同じくらいホッとしていた。
色々あったけど、こうしてじゃれ合う俺たちが本当の姿だ。
まあ、気取った口調の彼女も可愛いんだけどな。
「何処か痛い所はないか?」
「ええ、ないわ。」
ニッコリと笑う彼女。
心からの言葉だと思う、だけど、それを信じてはいけないのだ。
何せ彼女は昔から我慢する事が得意だった。
だから、自分の痛みに鈍感で気づいた時には怪我を負っていた両手でも足らない。
それを指摘しても彼女は俺の方が酷いと言って心配する。
俺や片割れにしたらこいつの方が酷いと思うのだが、結局は彼女に勝てないので俺たちは何も言わなかった。
じっと彼女を観察していた。
そして、見つけた。
「その足はどうしたんだ?」
「……。」
最初ポカンとしていた彼女だったが、すぐにそれを思い出したのか顔を青くさせる。
「えっと、その……。」
「るーな。」
「……。」
黙り込む彼女に俺はジッとその目をのぞき込む。
「……………それは…その。」
「だいぶ腫れているように見えるが。」
「そう……ですね。」
「………痛みは。」
「さっきまでは感じなかったんだけど。」
「痛いんだな。」
「はい…。」
俺はため息を一つ零す。
彼女はびくりと肩を震わせた。
怒られると思うのならもっと自分の体を大事にすればいいのに。
まあ、今回のは不可抗力なのだろう。
言い訳をする時は大抵無茶をしたと自覚がある。
だけど、不可抗力の時は今のようにシュンと身を縮めるのだ。
逆だろうと思いながらも俺は何も言わない。
「どこで休んでいたんだ?」
「そこの洞窟。」
「そうか。」
俺はそう頷くと彼女を抱え上げる。
「ひゃっ!」
「しっかり捕まれよ。」
「私、大丈夫、歩けるから。」
「駄目だ。」
「でも…。」
「お前の大丈夫は今は信用できない。」
「……。」
グッと黙り込む彼女。
今は絶対に頷いていけない。
だってそれを許せば彼女は無茶をしでかす。
こうやって何度も何度も言い聞かせて今があるのだ。
だから、これは大切な事だ。
「……。」
彼女は諦めたのか俺の首に腕を回した。
「いい子だな。」
「……。」
首を絞めるように腕に力を込められたが、俺は普段通りの足取りで目的の場所に向かうのだった。
頭が重い。
胸も重い。
だけど、気力だけはあった。
絶対にルナを見つける。
「……転生ボーナスとかあればよかったのにな。」
そうすればもう少し早くあいつと出会えたはずなのに…。
まあ、ないものはない。
しょうがない。
軽く食事を済ませ、そして、歩き出す。
その後、不思議な感覚がした。
何となく進みたい方向があった。
それに、気持ちがはやる。
昔同じ事があった。
迷子になったルナを探した時、これと同じ感覚になった事がある。
そして、その感覚を信じて進むと彼女を見つけられた。
膝を抱えて、声を殺してなく小さな少女。
見つけられた安堵。
もっと早く見つけられなかったという自分への怒り。
だけど、顔を上げて俺を見つけた時の彼女の顔を見た瞬間、どちらも引っ込み。
愛おしいという感情しかなかった。
あの時はまだ恋愛感情の「れ」の字もなかったはずなのに、それでも、自分はすでに彼女中心で動いていた。
まあ、その後彼女の両親にも、自分の両親にも怒られたんだけどな。
因みに、一緒にいたはずの片割れはいつの間にか迷子になっており、あいつが見つかったとまた怒られた。
森を進み。
そして、こちらに向かって走ってくる存在を見つける。
会いたかった。
たった、一晩しか離れていないけれども、それでも、会いたかった。
「アルファード。」
「イザベラっ!」
しっかりとしたぬくもりを抱きとめる。
ああ、彼女だ。
大切な彼女だ。
会いたかった。
「……ねぇ、アルファード。」
「何だ?」
「なんか濡れてない?」
「……。」
「雨降ってたし、もしかして、夜通し?」
「いや、ちゃんと体は休めた……雨、降ってたか?」
「降ってたよ。」
「……。」
全然気づかなかった。
そう言えば、視界が悪いなとは思っていたが、全然気づかなかった。
「………………メイヤ?」
あっ、ヤバい…。
珍しく低くなった彼女の声。
そして、慣れた自分の名前。
完全に彼女は怒っていた。
まあ、当然と言えば当然だ。
逆の立場だったら怒っている自信がある。
「悪い。」
「もう、そうやって、いつもいつも、自分の事は後回しよね。」
「……すまん。」
「もう、お願いだから、もう少し自分の事も顧みてよね。」
「……善処する。」
「……。」
ジトリと睨む彼女に俺は申し訳ないと思うのと同じくらいホッとしていた。
色々あったけど、こうしてじゃれ合う俺たちが本当の姿だ。
まあ、気取った口調の彼女も可愛いんだけどな。
「何処か痛い所はないか?」
「ええ、ないわ。」
ニッコリと笑う彼女。
心からの言葉だと思う、だけど、それを信じてはいけないのだ。
何せ彼女は昔から我慢する事が得意だった。
だから、自分の痛みに鈍感で気づいた時には怪我を負っていた両手でも足らない。
それを指摘しても彼女は俺の方が酷いと言って心配する。
俺や片割れにしたらこいつの方が酷いと思うのだが、結局は彼女に勝てないので俺たちは何も言わなかった。
じっと彼女を観察していた。
そして、見つけた。
「その足はどうしたんだ?」
「……。」
最初ポカンとしていた彼女だったが、すぐにそれを思い出したのか顔を青くさせる。
「えっと、その……。」
「るーな。」
「……。」
黙り込む彼女に俺はジッとその目をのぞき込む。
「……………それは…その。」
「だいぶ腫れているように見えるが。」
「そう……ですね。」
「………痛みは。」
「さっきまでは感じなかったんだけど。」
「痛いんだな。」
「はい…。」
俺はため息を一つ零す。
彼女はびくりと肩を震わせた。
怒られると思うのならもっと自分の体を大事にすればいいのに。
まあ、今回のは不可抗力なのだろう。
言い訳をする時は大抵無茶をしたと自覚がある。
だけど、不可抗力の時は今のようにシュンと身を縮めるのだ。
逆だろうと思いながらも俺は何も言わない。
「どこで休んでいたんだ?」
「そこの洞窟。」
「そうか。」
俺はそう頷くと彼女を抱え上げる。
「ひゃっ!」
「しっかり捕まれよ。」
「私、大丈夫、歩けるから。」
「駄目だ。」
「でも…。」
「お前の大丈夫は今は信用できない。」
「……。」
グッと黙り込む彼女。
今は絶対に頷いていけない。
だってそれを許せば彼女は無茶をしでかす。
こうやって何度も何度も言い聞かせて今があるのだ。
だから、これは大切な事だ。
「……。」
彼女は諦めたのか俺の首に腕を回した。
「いい子だな。」
「……。」
首を絞めるように腕に力を込められたが、俺は普段通りの足取りで目的の場所に向かうのだった。
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