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第二章

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 早朝というにも関わらず、生産ギルドにはもうすでに多くの人が集まっていた。

「凄い人ね。」
「ああ。」

 アルファードもまさか、こんなにも人がいるとは思っていなかったのか、私と同じように驚いていた。

「あっちのカウンターが総合受付のようだな。」

 彼は私の手を取って人込みを縫うように歩く。

「おはようございます、本日はどうされましたか?」
「はい、新しくギルドの登録をしたいのですが、こちらが、その紹介状となります。」
「拝見させていただきますね。」

 私は先ほどもらった紹介状を受付の女性に渡す。
 彼女はさっと書類に目を通したと思ったら表情を凍らせる。

「……。」
「あの。」

 何かまずかったのかと思って声をかけたら、受付の女性はニッコリと微笑む。

「申し訳ございません、少々お待ちいただけますでしょうか。」
「は、はい。」

 受付の彼女はそのまま早歩きで奥の方に引っ込んだ。

「何なんだ?」
「また、私はやらかしたのかしら?」
「いや、お前は普通だったが…。」

 という事はあの紹介状に何かまずい事が書いてあっただろうか?
 私は先ほど目を通した紹介状の中身を思い出すが、特に可笑しな点はなかったと思う。

「何事もなければいいのだけど。」
「そうだな。」

 こっそりと私たちが話していると、先ほどの店主とよく似た人が先ほどの受付の女性と一緒にこっちにやってきた。

「お待たせして申し訳ございません。」
「いえ、朝早くからお手間を取らせてしまい、こちらこそ申し訳ございません。」
「いやいや、あの弟からの紹介状が来る日があるだなんて、夢にも思わなかったよ。」
「……。」
「あいつの基準は正直王族にでも献上するのかという基準だから、お眼鏡に会う人が現れるとは思って見なかったよ。」
「……。」

 快活そうに笑っているが、私としては正直笑えない。
 アルファードも同じなのかどこか顔を引きつらせているのが、気配で分かった。

「ここではなんだから、奥の応接室に案内させてくれ。」
「は、はい。」

 確実に面倒な事になってしまったと私は理解する。

「ごめんなさい。」
「いや、遅かれ早かれ、こうなっていただろう、資金面とかでさ。」
「……。」

 あり得ない話ではないだろう、このままいけば確実に早くに資金が尽きてしまう、そうなってしまうと、傭兵のまねごとをするか、何かを売るしかないのだが、私が薬をどこかで売っていれば確実に面倒ごとになっていただろう。
 そうなってしまえば、今ここで登録しておけば先は楽になるだろう。
 それに、これから先、ここまで丁寧な対応をしてくれたのか分からない、間違いなく私は自分の価値を分からず安く買われていただろう。
 それを考えると今は必要な手までしかないのだと思い込むことにした。

「それではおかけください。」

 先ほどの店主の応接室によく似た場所に私は思わず目を見開く。

「弟の所と似ているでしょう、兄弟だから似てしまってね。」

 苦笑するギルド長に私は首を振る。

「落ち着ていた雰囲気ですが、決して質素と言うわけではなく、かといって華美になりすぎないこの部屋は素敵だと思います。」
「ああ、品一つ一つ逸品ばかりだしな。」
「ほお、目利きでいらっしゃいましたか。」

 アルファードの言葉にギルド長は目を細める。
 私もアルファードもそれを見て苦笑する。
 周りに逸品ばかりがある空間で過ごしていたらおのずと目が肥えるのだろうか、私としては安物で丈夫なもので十分なのだけど。

「さて、申し訳ありませんが、貴女にはギルドでカードを発行するときに書いていただく書類の他に、こちらの書類にもご記入していただきたいのですが、よろしいでしょうか。」
「……。」

 差し出された書類はネーム登録と書かれた書類だった。

「こちらは?」
「今後貴女が自分で作った商品に自分の名前、もしくは、活動するときの名前を登録させていただき、今後その名前は貴女自身のブランドとなります。
 もし、それ以外の方が使えば、処罰が起こります。」
「もし、同じ名前を持つ人がいれば、どうなりますか?」
「こちらで発行させていただきます専用の印をお渡ししますので、ご安心ください。
 ただし、こちらの印は貴女様専用になりますので、たとえ伴侶や子と言えど、それを使用する事は決してなさらないで下さい。」
「分かりました。」
「盗犯用の魔術式は掘らせていただくんですが、ごくまれにそれを解いて悪用する方もいるので、ご注意ください。」
「はい。」
「それでは、手続きを済ませてまいりますので、少々お待ちください。」

 私が書き終わった書類を見て、ギルド長は不備がないと判断したのか、一度部屋から出て行った。

「失礼いたします。」

 先ほどの受付の女性が私たちにお茶を持ってきて下がるまで、他の人は入ってくることはなく、手続きを完了したギルド長が私専用の印を持ってくるまで私たちはゆったりとくつろいでいた。
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