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第二章
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五つの鐘の音がして私はぼんやりとした頭で目を開ける。
あたたかい腕に包まれ、私は無意識にその温かい硬い胸に頬を摺り寄せる。
「……。」
くすくすと上の方から笑い声が聞こえ、見ると、薄っすらと目を開けているアルファードがいた。
「おはよう。」
「はよう。」
彼は甘くとろけたような笑みを浮かべる。
「約束は六つの鐘だったと思うけど、起きんのか?」
「うん、もう起きる。」
そう私が言えば最後にギュッと彼が抱きしめたと思ったら、すぐに腕の拘束は解かれた。
「ありがとう。」
ごそごそと布団を出ると、椅子の上には私の服や荷物が置かれていた。
「……。」
「その服でよかったか?」
「うん、ありがとう、朝一でやってしまおうと思ったんだけど、やってくれたんだね、助かったわ。」
「良いんだよ、お前はお前のやりたい事をすればいいし、俺はそれをサポートしたいと思っているからな。」
彼の優しさに私は頬を緩ませる。
彼は昔から私が疲れたりするとすぐに気づいてくれて荷物を持ってくれたり、料理当番とか色々を変わってくれた。
その優しさは恋人、夫婦になっても変わらないどころか、機敏になっているように思う。
「好きだな。」
「ん?」
思わず零れた言葉に布団の上でアルファードは首を傾げている。
「何でもありません。」
「そうか。」
「………………………………………………頼むからよそでやってくれ。」
「あっ。」
「……。」
恨みがましい低い声に私はこの部屋にもう一人いる事を思い出す。
「ごめんなさい、メイカ。」
布団をかぶって聞こえないように努力をしてくれていたメイカに私は申し訳なく思う。
いくら自分の分身だとしても、いや、もう一人の自分だからこそか。
もう一人の自分のラブシーンを見たい人がこの世の中にいるだろうか、しかも、彼には恋仲…までは言っていないが想い人であるミナが連れ去られた状態なのに、それなのに、もう一人の自分は恋人といちゃつくだなんて、拷問でしかないだろう。
「……………主は謝る気はないんだな。」
「それはお前がよく分かっているだろう。」
「……。」
「……。」
ベッドの上で睨みあう二人を無視して、私はつい立てを立ててからごそごそと着替える。
「二人っきりになれないのがもどかしいのは分かるが、頼むから考慮してくれ。」
「そうだな、考えておくが、こっちだってあのクソ女の所為でストレスが溜まっているんだ。」
「……分かるけどな。」
「殺したい。」
「同感だ。」
「駄目よ。」
物騒な事を言っている二人に私は嗜める。
「殺してどうなるというの?」
「逆に聞くが生かして何になる?」
「害にしかならない気がするがな。」
「私達均衡者は基本、傍観者、こうやって介入していること自体がイレギュラーなのよ。」
「明らかに俺たちの配置に意図があると思うが?」
「それはそれよ。」
「……はぁ。」
深いため息を吐いたのは彼だった。
「まあ、今は殺さないが、悪いけど、ミナが戻ってきたら、そん時は分からないぞ。」
「分かっている、多分私たちの役目はこの旅の行く末を見届けるまでのはずだから。」
「そうすれば、魔族とのいざこざがいったん落ち着くだろうからな。」
「ええ。」
私たちは均衡者として転生した時、何故この時代、この場所なのかを探る事から始まる。
ある程度の情報をくれる場合もあるけれども、その時は特例でしかない。
観察対象を見張るのが役目であり、その観察対象や周りが最悪な未来に行かないように手助けをする必要があったり、急遽別の地点で見守ってほしい、手助けしてほしい時くらいしかない。
今回は事前の情報はなかった。
だから、私たちは個人的な人を見るのではなく、この土地や国に関連すると思い、様々な事を調べた。
幸いにも私も彼もそれを知れる立場に居たので、そこで、私たちは魔族という存在が何かしらのカギになると思った。
案の定、魔族は頻繁にこちらを攻めてきた。
そして、今こうなってしまっている。
今回のお役目を終えるには魔族との決着、そして、明らかな転生者であるホリアムット男爵令嬢の監視しかないだろう。
ホリアムット男爵令嬢の場合は多分今回の旅の後にどういう立場に置かれるかで観察対象のままか、それとも、観察対象から外されるかが決まる。
つまりは、この旅を追えない事には先が分からない訳だ。
「イザベラ、準備は終わったか?」
「ええ。」
アルファードに声をかけられ、私は最後に自分の姿を確認して満足する。
衝立が彼によって取り除かれれば、いつの間にか彼も普段着に代わっていた。
「それじゃ、行くか。」
「ええ。」
私は薬の入ったカバンを掛け、メイカを見る。
「いってらっしゃい。」
「行ってきます。」
「留守を頼んだ。」
私とアルファードはこっそりと音をたてないように宿から市場の方に向かって歩き出す。
あたたかい腕に包まれ、私は無意識にその温かい硬い胸に頬を摺り寄せる。
「……。」
くすくすと上の方から笑い声が聞こえ、見ると、薄っすらと目を開けているアルファードがいた。
「おはよう。」
「はよう。」
彼は甘くとろけたような笑みを浮かべる。
「約束は六つの鐘だったと思うけど、起きんのか?」
「うん、もう起きる。」
そう私が言えば最後にギュッと彼が抱きしめたと思ったら、すぐに腕の拘束は解かれた。
「ありがとう。」
ごそごそと布団を出ると、椅子の上には私の服や荷物が置かれていた。
「……。」
「その服でよかったか?」
「うん、ありがとう、朝一でやってしまおうと思ったんだけど、やってくれたんだね、助かったわ。」
「良いんだよ、お前はお前のやりたい事をすればいいし、俺はそれをサポートしたいと思っているからな。」
彼の優しさに私は頬を緩ませる。
彼は昔から私が疲れたりするとすぐに気づいてくれて荷物を持ってくれたり、料理当番とか色々を変わってくれた。
その優しさは恋人、夫婦になっても変わらないどころか、機敏になっているように思う。
「好きだな。」
「ん?」
思わず零れた言葉に布団の上でアルファードは首を傾げている。
「何でもありません。」
「そうか。」
「………………………………………………頼むからよそでやってくれ。」
「あっ。」
「……。」
恨みがましい低い声に私はこの部屋にもう一人いる事を思い出す。
「ごめんなさい、メイカ。」
布団をかぶって聞こえないように努力をしてくれていたメイカに私は申し訳なく思う。
いくら自分の分身だとしても、いや、もう一人の自分だからこそか。
もう一人の自分のラブシーンを見たい人がこの世の中にいるだろうか、しかも、彼には恋仲…までは言っていないが想い人であるミナが連れ去られた状態なのに、それなのに、もう一人の自分は恋人といちゃつくだなんて、拷問でしかないだろう。
「……………主は謝る気はないんだな。」
「それはお前がよく分かっているだろう。」
「……。」
「……。」
ベッドの上で睨みあう二人を無視して、私はつい立てを立ててからごそごそと着替える。
「二人っきりになれないのがもどかしいのは分かるが、頼むから考慮してくれ。」
「そうだな、考えておくが、こっちだってあのクソ女の所為でストレスが溜まっているんだ。」
「……分かるけどな。」
「殺したい。」
「同感だ。」
「駄目よ。」
物騒な事を言っている二人に私は嗜める。
「殺してどうなるというの?」
「逆に聞くが生かして何になる?」
「害にしかならない気がするがな。」
「私達均衡者は基本、傍観者、こうやって介入していること自体がイレギュラーなのよ。」
「明らかに俺たちの配置に意図があると思うが?」
「それはそれよ。」
「……はぁ。」
深いため息を吐いたのは彼だった。
「まあ、今は殺さないが、悪いけど、ミナが戻ってきたら、そん時は分からないぞ。」
「分かっている、多分私たちの役目はこの旅の行く末を見届けるまでのはずだから。」
「そうすれば、魔族とのいざこざがいったん落ち着くだろうからな。」
「ええ。」
私たちは均衡者として転生した時、何故この時代、この場所なのかを探る事から始まる。
ある程度の情報をくれる場合もあるけれども、その時は特例でしかない。
観察対象を見張るのが役目であり、その観察対象や周りが最悪な未来に行かないように手助けをする必要があったり、急遽別の地点で見守ってほしい、手助けしてほしい時くらいしかない。
今回は事前の情報はなかった。
だから、私たちは個人的な人を見るのではなく、この土地や国に関連すると思い、様々な事を調べた。
幸いにも私も彼もそれを知れる立場に居たので、そこで、私たちは魔族という存在が何かしらのカギになると思った。
案の定、魔族は頻繁にこちらを攻めてきた。
そして、今こうなってしまっている。
今回のお役目を終えるには魔族との決着、そして、明らかな転生者であるホリアムット男爵令嬢の監視しかないだろう。
ホリアムット男爵令嬢の場合は多分今回の旅の後にどういう立場に置かれるかで観察対象のままか、それとも、観察対象から外されるかが決まる。
つまりは、この旅を追えない事には先が分からない訳だ。
「イザベラ、準備は終わったか?」
「ええ。」
アルファードに声をかけられ、私は最後に自分の姿を確認して満足する。
衝立が彼によって取り除かれれば、いつの間にか彼も普段着に代わっていた。
「それじゃ、行くか。」
「ええ。」
私は薬の入ったカバンを掛け、メイカを見る。
「いってらっしゃい。」
「行ってきます。」
「留守を頼んだ。」
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