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第二章
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土を踏む音に気づき、私が顔を向けると、やはりアルファードが戻ってきていた。
「どうだった?」
「少し先に開けた場所がありました、そこで、休むしかありませんね、その先は険しそうなので。」
「そうか。」
「えええっ!」
メイカに説明するアルファードの話を聞いていたホリアムット男爵令嬢は顔を顰めて声を上げる。
「わたしいやです。」
「嫌でも野宿しかねぇだろう。」
「やっぱり、今からでも引き返して遠回りでもあっちの道を行きましょうよ。」
「今引き返したところで、野宿は確実ですよ。」
「嘘でしょ。」
「嘘を吐くはずがないだろう。」
「うー。」
不満で口をとがらせるホリアムット男爵令嬢を無視して、ヒースたちは先を行く。
「何なのよ、何なのよ、全然違うじゃない。」
爪を噛み、ホリアムット男爵令嬢はギロリと私を睨む。
「ねぁ、あんた何とかしなさいよ。」
「無理な事は致しかねます、そもそも、私は貴女様に雇われておりません。」
「本当に可愛くないわね。」
「……。」
ホリアムット男爵令嬢は土を掴み、そして、私にぶつける。
「本当に苛立つ。」
「……。」
ずんずんとヒースたちを追いかけるホリアムット男爵令嬢を見送って、私は首を振って土を落とす。
「……。」
あたたかな手が伸びて、私の顔を汚した土を払った。
「大丈夫ですよ。」
目を細め、私がそう言うと、彼は自分が傷つけられたかのように顔を歪めていた。
「何なんだ、あの女は。」
「癇癪を起す子どもと同じでしょうね。」
「……。」
「我が子ならば躾ますけど…。」
「他人だ。」
「ええ。」
「裁きたい。」
「残念ながらメイドを一人傷つけるくらいならば、もみ消されます。」
「……。」
「それに、今はある意味無礼講なので、意味がないでしょう。」
「……。」
歯を食いしばっている彼に私はそっとその顔に手を伸ばす。
「大丈夫です、このくらいならば、「初めて」会った貴方よりもずっとマシな環境です。」
彼はぐっと眉を寄せ、そして、私の頭を軽くたたく。
「あの頃の状況とお前の環境は違うだろう。」
「ええ、そうかもね、でも、私は貴方がいるから大丈夫よ。」
「……………俺は「あの時」は死ぬほどつらいと思ったけど、それはお前に会うために、巡り合い続ける為に必要な事だったと思うんだ。」
「……。」
「ミナ、メイカ。」
メイカの声に私たちは互いに顔を見合わせる。
不思議なものだ、あの時を思い出して、あの時の名前で呼ばれる。
そんな可笑しなことが起こるだなんて生きていた中で一度も負わなかったけれど、そんな可笑しな事は確かに今起こっているのだ。
「行くぞ。」
「ええ。」
私は差し出された温かな手を掴んだ、そのぬくもりは泣きたくなるほどやさしくて、きっと、「あの時」泣いた彼はこんな気持ちだったのかもしれない。
「どうだった?」
「少し先に開けた場所がありました、そこで、休むしかありませんね、その先は険しそうなので。」
「そうか。」
「えええっ!」
メイカに説明するアルファードの話を聞いていたホリアムット男爵令嬢は顔を顰めて声を上げる。
「わたしいやです。」
「嫌でも野宿しかねぇだろう。」
「やっぱり、今からでも引き返して遠回りでもあっちの道を行きましょうよ。」
「今引き返したところで、野宿は確実ですよ。」
「嘘でしょ。」
「嘘を吐くはずがないだろう。」
「うー。」
不満で口をとがらせるホリアムット男爵令嬢を無視して、ヒースたちは先を行く。
「何なのよ、何なのよ、全然違うじゃない。」
爪を噛み、ホリアムット男爵令嬢はギロリと私を睨む。
「ねぁ、あんた何とかしなさいよ。」
「無理な事は致しかねます、そもそも、私は貴女様に雇われておりません。」
「本当に可愛くないわね。」
「……。」
ホリアムット男爵令嬢は土を掴み、そして、私にぶつける。
「本当に苛立つ。」
「……。」
ずんずんとヒースたちを追いかけるホリアムット男爵令嬢を見送って、私は首を振って土を落とす。
「……。」
あたたかな手が伸びて、私の顔を汚した土を払った。
「大丈夫ですよ。」
目を細め、私がそう言うと、彼は自分が傷つけられたかのように顔を歪めていた。
「何なんだ、あの女は。」
「癇癪を起す子どもと同じでしょうね。」
「……。」
「我が子ならば躾ますけど…。」
「他人だ。」
「ええ。」
「裁きたい。」
「残念ながらメイドを一人傷つけるくらいならば、もみ消されます。」
「……。」
「それに、今はある意味無礼講なので、意味がないでしょう。」
「……。」
歯を食いしばっている彼に私はそっとその顔に手を伸ばす。
「大丈夫です、このくらいならば、「初めて」会った貴方よりもずっとマシな環境です。」
彼はぐっと眉を寄せ、そして、私の頭を軽くたたく。
「あの頃の状況とお前の環境は違うだろう。」
「ええ、そうかもね、でも、私は貴方がいるから大丈夫よ。」
「……………俺は「あの時」は死ぬほどつらいと思ったけど、それはお前に会うために、巡り合い続ける為に必要な事だったと思うんだ。」
「……。」
「ミナ、メイカ。」
メイカの声に私たちは互いに顔を見合わせる。
不思議なものだ、あの時を思い出して、あの時の名前で呼ばれる。
そんな可笑しなことが起こるだなんて生きていた中で一度も負わなかったけれど、そんな可笑しな事は確かに今起こっているのだ。
「行くぞ。」
「ええ。」
私は差し出された温かな手を掴んだ、そのぬくもりは泣きたくなるほどやさしくて、きっと、「あの時」泣いた彼はこんな気持ちだったのかもしれない。
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