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第二章
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「ちょっと、あんた、脚もんで。」
私は荷物をほどいていると、ホリアムット男爵令嬢がベッドに寝そべりながらそんな事を言ってきた。
何とか私たちは日没までに街にたどり着くことが出来て、たまたま三室空いていたので、それで、部屋を取った。
部屋割りはアルファードとメイカ。
ヒース、ボラリスク様、ファラウス様。
そして、ホリアムット男爵令嬢と私という割り振りになった。
「ちょっと、愚図いわね。」
現実逃避をしていた私でしたが、苛立つ声にこれ以上は無理かと思い、諦めて手を止める。
「申し訳ございません、わたくしは貴方様のメイドではございません。」
「はあ?何言ってんの、メイドなんだから、一緒でしょ。」
「……。」
呆れたように言うホリアムット男爵令嬢に私は何とか笑顔の仮面を維持する。
「わたくしの主人はイザベラ様ですので。」
「だから?わたしはあんたのご主人様を救い出してあげるいわば救世主様なのよ、それなのに、あんたが敬わないなんておかしいじゃない。」
「……。」
「ほら、さっさとして、この後夕食なんだから。」
「……。」
これ以上何を言っても無駄なのだと分かり、私はため息を零し、それでも、彼女を無視する。
「ちょっと、あんたマジ頭悪いわけ?」
「……。」
「そんな事は後でいいから、さっさとこっちをやりなさいよ。」
「殿下はおっしゃったはずです、この旅では自分の事は自分で行うようにと。」
「だったら何?」
「貴女様は何をなさっております?」
「何って疲れたから休んでいるのよ、何か文句あるかしら。」
「……。」
自分の事ばかりしか考えていない彼女に私はため息を零しそうになる。
「自分の荷をほどかなくてはいいのですか?」
「はあ?そんなん必要ないでしょ?」
「何故ですか?」
「明日出るんだし、なんの問題ないでしょ。」
「さようですか。」
「つーか、ペチャクチャ喋る余裕があるなら、さっさと脚もんで。」
「致しかねます。」
「ああ?」
はっきりと断ると、彼女は近くに飾っていた花瓶を掴み、その水を私にかける。
「……。」
「あんたね、自分の立場が分かっている訳?」
「……。」
水滴が荷物にまで垂れそうだったので、私はそれを阻止する。
「あんたはお荷物、わたしは救世主、だったら、分かるわよね。」
「……。」
「ほら、さっさと脚をもんで、むくんでいるんだからね。」
「……。」
このまま断れば確実に彼女は私を傷つける事を厭わないだろう。
そんな事になれば、確実に彼が激怒する。
これ以上、状況を悪化するのはよくないと思い、私は渋々ながら動くことにした。
濡れた体の水分を近くにあった器に移し、体と服を乾かし、私は彼女のむくんでいると言っている脚をもみはじめた。
「ふーん、あの女のメイドは伊達じゃないのね、ねぇ、あんたさ、あの女じゃなくてわたしに仕えなさいよ。」
「……。」
「まあ、いいわ、そのうちわたしの慈悲深さにあんたから頭を下げる事になるんだしね。」
「……。」
誤って傷つけないように私は細心の注意を払い、ホリアムット男爵令嬢の脚を揉む。
それは夕食だとファラウス様が呼びに来るまで続いた。
「はー、お腹すいた、じゃあ、あんたはわたしが戻ってくるときに着る服とか用意しときなさいよ。」
「……何故、ミナ嬢がそんな事をなさっているんですか?」
「彼女はメイドだし、当たり前の仕事ですよね?」
「……。」
扉の向こうでファラウス様が何か言いたげに口を開こうとするが、私は首を振って、それを制する。
「じゃ、ツェリベ様行きましょう。」
「……。」
ファラウス様を犠牲にして私はようやく雫になった部屋で自分の荷ほどき、とホリアムット男爵令嬢の分も行った。
そして、夕食を終え、彼女は私に休みを与える事無く無茶なお願いと言う命令を言うが、私はその半分くらいしか聞くことなく、何とかやり過ごした。
私は荷物をほどいていると、ホリアムット男爵令嬢がベッドに寝そべりながらそんな事を言ってきた。
何とか私たちは日没までに街にたどり着くことが出来て、たまたま三室空いていたので、それで、部屋を取った。
部屋割りはアルファードとメイカ。
ヒース、ボラリスク様、ファラウス様。
そして、ホリアムット男爵令嬢と私という割り振りになった。
「ちょっと、愚図いわね。」
現実逃避をしていた私でしたが、苛立つ声にこれ以上は無理かと思い、諦めて手を止める。
「申し訳ございません、わたくしは貴方様のメイドではございません。」
「はあ?何言ってんの、メイドなんだから、一緒でしょ。」
「……。」
呆れたように言うホリアムット男爵令嬢に私は何とか笑顔の仮面を維持する。
「わたくしの主人はイザベラ様ですので。」
「だから?わたしはあんたのご主人様を救い出してあげるいわば救世主様なのよ、それなのに、あんたが敬わないなんておかしいじゃない。」
「……。」
「ほら、さっさとして、この後夕食なんだから。」
「……。」
これ以上何を言っても無駄なのだと分かり、私はため息を零し、それでも、彼女を無視する。
「ちょっと、あんたマジ頭悪いわけ?」
「……。」
「そんな事は後でいいから、さっさとこっちをやりなさいよ。」
「殿下はおっしゃったはずです、この旅では自分の事は自分で行うようにと。」
「だったら何?」
「貴女様は何をなさっております?」
「何って疲れたから休んでいるのよ、何か文句あるかしら。」
「……。」
自分の事ばかりしか考えていない彼女に私はため息を零しそうになる。
「自分の荷をほどかなくてはいいのですか?」
「はあ?そんなん必要ないでしょ?」
「何故ですか?」
「明日出るんだし、なんの問題ないでしょ。」
「さようですか。」
「つーか、ペチャクチャ喋る余裕があるなら、さっさと脚もんで。」
「致しかねます。」
「ああ?」
はっきりと断ると、彼女は近くに飾っていた花瓶を掴み、その水を私にかける。
「……。」
「あんたね、自分の立場が分かっている訳?」
「……。」
水滴が荷物にまで垂れそうだったので、私はそれを阻止する。
「あんたはお荷物、わたしは救世主、だったら、分かるわよね。」
「……。」
「ほら、さっさと脚をもんで、むくんでいるんだからね。」
「……。」
このまま断れば確実に彼女は私を傷つける事を厭わないだろう。
そんな事になれば、確実に彼が激怒する。
これ以上、状況を悪化するのはよくないと思い、私は渋々ながら動くことにした。
濡れた体の水分を近くにあった器に移し、体と服を乾かし、私は彼女のむくんでいると言っている脚をもみはじめた。
「ふーん、あの女のメイドは伊達じゃないのね、ねぇ、あんたさ、あの女じゃなくてわたしに仕えなさいよ。」
「……。」
「まあ、いいわ、そのうちわたしの慈悲深さにあんたから頭を下げる事になるんだしね。」
「……。」
誤って傷つけないように私は細心の注意を払い、ホリアムット男爵令嬢の脚を揉む。
それは夕食だとファラウス様が呼びに来るまで続いた。
「はー、お腹すいた、じゃあ、あんたはわたしが戻ってくるときに着る服とか用意しときなさいよ。」
「……何故、ミナ嬢がそんな事をなさっているんですか?」
「彼女はメイドだし、当たり前の仕事ですよね?」
「……。」
扉の向こうでファラウス様が何か言いたげに口を開こうとするが、私は首を振って、それを制する。
「じゃ、ツェリベ様行きましょう。」
「……。」
ファラウス様を犠牲にして私はようやく雫になった部屋で自分の荷ほどき、とホリアムット男爵令嬢の分も行った。
そして、夕食を終え、彼女は私に休みを与える事無く無茶なお願いと言う命令を言うが、私はその半分くらいしか聞くことなく、何とかやり過ごした。
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