転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

文字の大きさ
上 下
66 / 115
第二章

しおりを挟む
「ちょっと、あんた、脚もんで。」

 私は荷物をほどいていると、ホリアムット男爵令嬢がベッドに寝そべりながらそんな事を言ってきた。
 何とか私たちは日没までに街にたどり着くことが出来て、たまたま三室空いていたので、それで、部屋を取った。
 部屋割りはアルファードとメイカ。
 ヒース、ボラリスク様、ファラウス様。
 そして、ホリアムット男爵令嬢と私という割り振りになった。

「ちょっと、愚図いわね。」

 現実逃避をしていた私でしたが、苛立つ声にこれ以上は無理かと思い、諦めて手を止める。

「申し訳ございません、わたくしは貴方様のメイドではございません。」
「はあ?何言ってんの、メイドなんだから、一緒でしょ。」
「……。」

 呆れたように言うホリアムット男爵令嬢に私は何とか笑顔の仮面を維持する。

「わたくしの主人はイザベラ様ですので。」
「だから?わたしはあんたのご主人様を救い出してあげるいわば救世主様なのよ、それなのに、あんたが敬わないなんておかしいじゃない。」
「……。」
「ほら、さっさとして、この後夕食なんだから。」
「……。」

 これ以上何を言っても無駄なのだと分かり、私はため息を零し、それでも、彼女を無視する。

「ちょっと、あんたマジ頭悪いわけ?」
「……。」
「そんな事は後でいいから、さっさとこっちをやりなさいよ。」
「殿下はおっしゃったはずです、この旅では自分の事は自分で行うようにと。」
「だったら何?」
「貴女様は何をなさっております?」
「何って疲れたから休んでいるのよ、何か文句あるかしら。」
「……。」

 自分の事ばかりしか考えていない彼女に私はため息を零しそうになる。

「自分の荷をほどかなくてはいいのですか?」
「はあ?そんなん必要ないでしょ?」
「何故ですか?」
「明日出るんだし、なんの問題ないでしょ。」
「さようですか。」
「つーか、ペチャクチャ喋る余裕があるなら、さっさと脚もんで。」
「致しかねます。」
「ああ?」

 はっきりと断ると、彼女は近くに飾っていた花瓶を掴み、その水を私にかける。

「……。」
「あんたね、自分の立場が分かっている訳?」
「……。」

 水滴が荷物にまで垂れそうだったので、私はそれを阻止する。

「あんたはお荷物、わたしは救世主、だったら、分かるわよね。」
「……。」
「ほら、さっさと脚をもんで、むくんでいるんだからね。」
「……。」

 このまま断れば確実に彼女は私を傷つける事を厭わないだろう。
 そんな事になれば、確実に彼が激怒する。
 これ以上、状況を悪化するのはよくないと思い、私は渋々ながら動くことにした。
 濡れた体の水分を近くにあった器に移し、体と服を乾かし、私は彼女のむくんでいると言っている脚をもみはじめた。

「ふーん、あの女のメイドは伊達じゃないのね、ねぇ、あんたさ、あの女じゃなくてわたしに仕えなさいよ。」
「……。」
「まあ、いいわ、そのうちわたしの慈悲深さにあんたから頭を下げる事になるんだしね。」
「……。」

 誤って傷つけないように私は細心の注意を払い、ホリアムット男爵令嬢の脚を揉む。
 それは夕食だとファラウス様が呼びに来るまで続いた。

「はー、お腹すいた、じゃあ、あんたはわたしが戻ってくるときに着る服とか用意しときなさいよ。」
「……何故、ミナ嬢がそんな事をなさっているんですか?」
「彼女はメイドだし、当たり前の仕事ですよね?」
「……。」

 扉の向こうでファラウス様が何か言いたげに口を開こうとするが、私は首を振って、それを制する。

「じゃ、ツェリベ様行きましょう。」
「……。」

 ファラウス様を犠牲にして私はようやく雫になった部屋で自分の荷ほどき、とホリアムット男爵令嬢の分も行った。
 そして、夕食を終え、彼女は私に休みを与える事無く無茶なお願いと言う命令を言うが、私はその半分くらいしか聞くことなく、何とかやり過ごした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく
ファンタジー
 私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。  目覚めると 「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。 ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!     しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?  頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?   これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。 ♪♪   注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。 ♪♪ 小説初投稿です。 この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。 至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。 完結目指して頑張って参ります

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど

七地潮
恋愛
薄ら思い出したのだけど、どうやら乙女ゲームのヒロインに転生した様だ。 あるあるなピンクの髪、男爵家の庶子、光魔法に目覚めて、学園生活へ。 そこで出会う攻略対象にチヤホヤされたい!と思うのに、ゲームが始まってくれないんですけど? 毎回視点が変わります。 一話の長さもそれぞれです。 なろうにも掲載していて、最終話だけ別バージョンとなります。 最終話以外は全く同じ話です。

イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)

音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。 それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。 加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。 しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。 そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。 *内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。 尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...