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第一章
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「どちらもお美しい。」
舌なめずりする魔族にゾクリと寒い何かが走る。
「ああ、そちらの銀の姫君はお持ち帰りしなければなりません。
だけど、そちらの黒髪のお嬢さんは味見しても構いませんよね?」
ニラリと笑う魔族に私たちは同時に手をかざす。
「「水よ。」」
「縄となりて、彼の者を縛れ。」
「鋭き針となりて、降り注げ。」
水は私たちに応え、魔族の動きを止めようとする。
しかし――。
「生ぬるい。」
魔族はミナの水の縄を弾き飛ばし、私の水の針も跳ねよけようとするが、そちらは私の方が強いのか数本しか消される事無く、魔族を貫く。
「ぐ…。」
「イザベラ様はお逃げください。」
「で、ですがっ!」
「いいから、私は大丈夫です。」
「……。」
戸惑うミナに私は怒鳴る。
「いいから、行ってっ!」
ミナの能力ではこの魔族には勝てない。
対抗できるのは私だけ。
幸いにもあの魔族はミナと私が入れ替わっている事に気づいていない。
彼らの狙いは銀色の髪を持つ少女。
そして、今はミナがその色を持っている。
ミナはぐっと唇を噛み、そして、扉から逃げようとする。
「駄目ですよ。」
魔族は風でミナの手を取ってから跳ね除けた。
風が渦を巻き、取っ手に触れる事は叶わない。
私たちは逃げる事が出来ないでいた。
扉を封じられ。
窓側には魔族が居る。
ここは勝つしかない、私はそう切り替えようとした時、ギシリと嫌な音を聞いた。
何かが床に落ちた。
そう思った瞬間、私は大きく飛びのいた。
刹那、私が居た場所にシャンデリアが落ちてきた。
派手にガラスの砕ける音。
重々しく金属が床にめり込む音。
寸前の所で、私はそれを回避した。
「いやあああっ!」
「ミナっ!」
彼女の悲鳴を聞いた瞬間、私はつい、彼女の名を呼んだ。
見上げれば、彼女の腕は後ろに回され、魔族に捕まっていた。
「ミナを離しなさいっ!」
私は空中に漂う水を凍らせ、氷の礫を無意識に作り上げる。
「いいのかな?そんな事をしても、彼女に当たってしまうよ?」
まるで、ミナを盾にするように魔族は彼女を前に突き出す。
「構いません、どうぞ、一思いにやってくださいっ!」
ミナはそう言ってくれるけど、そんな事をやれるはずがなかった。
そして、その油断がいけなかった。
魔族はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
ミナは顔色を悪くさせ、私の名を叫ぶ。
シャンデリアが爆発して、私は反射的に顔を防ぐが、爆風によって飛ばされた体が壁に激突する。
「くっ……あっ……。」
激痛が私の体を襲う。
何とかして、体を起こそうとする。
だけど、私の体は自由に動いてくれない。
「ミナ。」
ミナが泣き叫んでいる。
分かるのに。
私の耳は馬鹿になっているのか音が拾えない。
瞼がだんだん落ちていく。
駄目なのに。
駄目なのに。
このまま私が眠ったら、誰がミナを助けるの?
お願い、動いて、私の体っ!
だけど、限界を迎えた私の体は私の意志に反して、その意識を闇に閉ざした。
その一瞬前、炎が見えた気がしたけれども、それは気のせいだったのかもしれない。
舌なめずりする魔族にゾクリと寒い何かが走る。
「ああ、そちらの銀の姫君はお持ち帰りしなければなりません。
だけど、そちらの黒髪のお嬢さんは味見しても構いませんよね?」
ニラリと笑う魔族に私たちは同時に手をかざす。
「「水よ。」」
「縄となりて、彼の者を縛れ。」
「鋭き針となりて、降り注げ。」
水は私たちに応え、魔族の動きを止めようとする。
しかし――。
「生ぬるい。」
魔族はミナの水の縄を弾き飛ばし、私の水の針も跳ねよけようとするが、そちらは私の方が強いのか数本しか消される事無く、魔族を貫く。
「ぐ…。」
「イザベラ様はお逃げください。」
「で、ですがっ!」
「いいから、私は大丈夫です。」
「……。」
戸惑うミナに私は怒鳴る。
「いいから、行ってっ!」
ミナの能力ではこの魔族には勝てない。
対抗できるのは私だけ。
幸いにもあの魔族はミナと私が入れ替わっている事に気づいていない。
彼らの狙いは銀色の髪を持つ少女。
そして、今はミナがその色を持っている。
ミナはぐっと唇を噛み、そして、扉から逃げようとする。
「駄目ですよ。」
魔族は風でミナの手を取ってから跳ね除けた。
風が渦を巻き、取っ手に触れる事は叶わない。
私たちは逃げる事が出来ないでいた。
扉を封じられ。
窓側には魔族が居る。
ここは勝つしかない、私はそう切り替えようとした時、ギシリと嫌な音を聞いた。
何かが床に落ちた。
そう思った瞬間、私は大きく飛びのいた。
刹那、私が居た場所にシャンデリアが落ちてきた。
派手にガラスの砕ける音。
重々しく金属が床にめり込む音。
寸前の所で、私はそれを回避した。
「いやあああっ!」
「ミナっ!」
彼女の悲鳴を聞いた瞬間、私はつい、彼女の名を呼んだ。
見上げれば、彼女の腕は後ろに回され、魔族に捕まっていた。
「ミナを離しなさいっ!」
私は空中に漂う水を凍らせ、氷の礫を無意識に作り上げる。
「いいのかな?そんな事をしても、彼女に当たってしまうよ?」
まるで、ミナを盾にするように魔族は彼女を前に突き出す。
「構いません、どうぞ、一思いにやってくださいっ!」
ミナはそう言ってくれるけど、そんな事をやれるはずがなかった。
そして、その油断がいけなかった。
魔族はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
ミナは顔色を悪くさせ、私の名を叫ぶ。
シャンデリアが爆発して、私は反射的に顔を防ぐが、爆風によって飛ばされた体が壁に激突する。
「くっ……あっ……。」
激痛が私の体を襲う。
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だけど、私の体は自由に動いてくれない。
「ミナ。」
ミナが泣き叫んでいる。
分かるのに。
私の耳は馬鹿になっているのか音が拾えない。
瞼がだんだん落ちていく。
駄目なのに。
駄目なのに。
このまま私が眠ったら、誰がミナを助けるの?
お願い、動いて、私の体っ!
だけど、限界を迎えた私の体は私の意志に反して、その意識を闇に閉ざした。
その一瞬前、炎が見えた気がしたけれども、それは気のせいだったのかもしれない。
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