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第一章

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 やっと、この日が来た。

「イザベラ。」

 彼に手を差し出され、私は馬車から彼の手を借りて降りる。
 私が今ここにいるのは彼が住んでいる城だった。

「……人が少ないわね。」
「まあな。」

 私は彼の立場をこの目で見て泣きそうになる。

「アルファード。」
「…あー、あんまり気にするな。」

 彼は苦笑しながらポンポンと頭を叩く。

「俺じゃなかったら多分、気が狂っただろうけど、俺はこれ幸いと思っていたからな。」
「そうなの?」
「そうだろう、変に干渉されて、精神年齢が可笑しい事がばれないかひやひやするからな。」
「そんなものかしら?」
「……。」

 私の取り巻く環境を思い出してか、彼は黙りこんでしまった。

「まあ、記憶を持って何度も生まれ変わっていた貴方が言うのならそうかもしれないわね。」
「異分子は弾き飛ばされる事が多いから、下手な事はしない方がいいが。」
「そうね。」

 彼の言いたい事が分かり、私は頬に手を当てる。

「でも、下手に抑えすぎても駄目、かと言って出し過ぎても駄目、加減は難しい上に、完全に今は巻き込まれているし、本当に加減が難しいわね。」
「まあな。」
「コホン。」

 まるで先を促すかのように咳払いをするミナに私たちは顔を見合わせ笑い合う。

「行くか。」
「そうね。」

 私は彼にエスコートされながら一つの部屋に案内される。

「好きな場所に座ってくれ。」

 私は二人掛けのソファに座れば、その前にある小さな机にお茶のセットが置かれる。

「それも貴方がするの?」
「他の奴にさせたら毒を盛られるからな。」
「……。」

 決して冗談じゃない言葉に私はどういう表情をすればいいのか迷ってしまう。

「あー、悪い、そんな顔をさせるつもりはなかったんだ。」
「……冗談なんて言わないのね。」
「嘘を吐いたらお前は怒るだろう。」
「当たり前よ。」
「だったら、言わねぇよ。」

 私は溜息を零し、ミナを見る。
 彼女は私の視線の意味を理解し、二人分のお茶を淹れる。

「さて、彼女がお茶の準備をしている間にやってしまいましょうか?」
「そうだな。」

 私はゆっくりと立ち上がり、物が少ない場所を選ぶ。

「アルファード。」
「ああ。」

 彼はスッと髪の毛を一本抜き、私に差し出す。

「ありがとう。」

 私はそれを受け取り、呼吸を整える。
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