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第一章

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 ゆらゆらと揺られながら私は人気のない教室に連れていかれる。

「アルファード?」
「……。」

 開いている机の上に私を降ろし、私はお行儀が悪いと分かっていながらも、移動はしない。

「……。」

 アルファードはギュッと私を抱きしめる。

「…………ごめんなさい、感情的になってしまった。」
「当たり前だろう。」

 私の耳元に低い優しい声が呟かれる。

「……私も未熟ね。」
「あれはトラウマだったろ、悪いな…。」
「ううん……。」

 前の生の時、私たちは何度も選択を迫られた。

 私の命を狙われた。

 彼が死ねば多が助かると言われた。

 私たちは何度も、何度も、互いの命と他の命を比較された。

 でも……、私たちは自分たちの命を投げ出す事はしなかった。

 だって、死んでも残された方が辛いのはその時の生よりも前の自分が教えてくれた。

 だから、私は諦めなかった。

 諦めたくなかった。

 何度だって、生き抜いて見せると思った。

「貴方が悪い訳じゃないの。」
「……。」

 そう、貴方が悪い事は私の命と自分の命を天秤にかけた時に限り、自分の命を軽視する事だけ。

「ねぇ…。」
「何だ?」
「この生は絶対に私の命よりも自分の命を優先して、私も貴方の命よりも自分の命を選ぶから。」
「……。」

 ジッと見つめてくるアルファードはしばらくしてから溜息を吐いた。

「お前の約束は当てにならないからな。」
「そんな事はーー。」

 心外なと思いながら言うと、彼はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

「あるだろう。」
「……。」

 まずいと思った、でも、私は心当たりがなかった。
 しかし、忘れていた、彼が根深い執念の持ち主だという事をーー。

「たとえば、お前が前の時16歳だったな。」
「……。」
「絶対に動くな、と言ったのにお前は勝手に動いて余計な事に首を突っ込んだよな。」
「……あっ。」

 記憶にありました。
 そして、一度都合の悪い記憶を思い出すと、芋づる式にズルズルと思い出してしまう。

「その顔じゃ分かったんだな。」
「……。」

 人の悪い笑みを浮かべるアルファードに私は恨みがましく睨みつけてしまう。

「分かってて。」
「思い出さなかったお前が悪いんじゃないか。」
「でも…。」
「お前も、あいつも都合が悪くなると忘れてしまうからな。」
「………。」

 完全に思い出してしまった私は身に覚えがあった。

「……。」

 どこか呆れた顔をしているアルファードに私は無意識に縮こまる。

「本当に……。」

 アルファードは私の髪に顔をうずめる。

「絶対に今度は守れよ。」
「アルファードもね。」
「ああ。」

 優しい匂い。

 暖かな体。

 もう失いたくない。

 この温もりが消える瞬間を何度「私」」は味わってきただろう。

 前回の生が特別だった。

 あの時は二人でいい所に逝けたから。

 でも、それまでの生は全て私は彼に置いて逝かれた。

 それは仕方のない事だった。

 初めは彼と私は主従という立場で、彼は従者として主を逃がそうとしてくれた。

 でも、結局私は後を追うように死んでしまったけれど…。

 その次は幼馴染だった。

 でも、その時も女の子だからと言って私を庇って死んでしまった。

 三度目は互いに戦士だった。

 でも、彼は私を守って死んだ。

 何度も何度も、私が貴方という存在を忘れていても、貴方は忘れずに私の傍に居てくれて守ってくれていた。

 それが嬉しくて、でも、憎かった。

 どうして、どうして、先に死んでしまうのとーー。

 だから、前の生は幸せだったと思う。

「……絶対に大切にしないとね。」
「ああ。」

 奇跡なんてそうそうない。

 今こうして互いの記憶があって、ぬくもりを感じられる事は決して普通ではありえない。

 私たちは今ここでこの生を全うできなくても、次はある。

 けれども、そう簡単に命を捨てられるかと聞かれれば、答えはいいえだ。

 だって、私たちは死ぬためにこの役目を負ったのではない。

 生き抜くために選んだのだ。

「愛している…。」
「珍しいな。」

 私からの言葉に彼は驚くが、それでも、優しい笑みを浮かべている。

「貴方は?」
「愛している。」

 当然のように返してくれる言葉が嬉しかった。
 私たちの関係は当然ではない。
 何度も、何度も失敗してこうして一緒にいる。

「愛している…。」

 深く刻まれるようにそう呟かれ、私たちは唇を重ねた。
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