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第一章
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「ルナ。」
「はい?」
「今の名は何て言うんだ?」
「イザベラ、イザベラ・ティール・オルディウスよ。」
「……。」
彼は何か考えるしぐさをするが、私は彼が何を考えているのか分からず、首を傾げる。
「メイヤ?」
「ああ、すまない、俺の今の名はアルファード・クラウド・ラバンディアっていうんだ。」
「ラバンディアって。」
私は聞き覚えのあるネームに思わず手で口を塞ぎ、ある事実を思い出し、顔を真っ赤にする。
「えっ、いいの?いいえ、でも……。」
「ふっ…、お前はやっぱり可愛いな。」
「からかわないで。」
確実にまだ顔が真っ赤で迫力はなかっただろうけど、それでも、私は彼を、アルファードを睨む。
「もう、貴方という人はーー。」
「俺の妻は過去も未来もお前ひとりしかいない。」
私は真っ直ぐに向けられる視線に気恥ずかしさを感じながらも、歓喜でいっぱいになる胸に調子がいいんだからと、どちらに対してかの言葉が漏れる。
この国は王政を主体としており、国名が彼らのファミリーネームになっている。
この国の名は「ラバンディア」そう、アルファードは王族なのだ。
因みに王族には不思議な風習があって、彼らは他人に素手で触れてはいけないのだ、もし、素手で触れればどんな素性の者でも、その王族の伴侶となる。
身分。
性別。
国。
人種。
本来なら大きな壁と立ちはだかるものがその風習の前では無意味だった。
だから、王族の人は普段から手袋をして決して他人に触れない、だけど、アルファードは先ほど何をした。
手袋を外して、私――イザベラに触れた。
その真っ白な手で。
意識してしまったらダメだった、気恥ずかしさで死んでしまいそうだった。
「イザベラ?」
「もう……貴方って人は……。」
いつまでも黙りこんでいる私に彼は覗き込んできた。
「本当に私しか見ていないのね。」
「当たり前だろう……前も、その前も、その前だって、俺はお前しか見ていない、勿論これからだってな。」
「……私も…前だって今だって、それにこれからだって、貴方だけよ「メイヤ」。」
「愛している「ルナ」。」
こっそりと呟かれる真名。
この真名は基本他の人には特殊な音にしか聞こえない、でも、この意味を知っている人がいれば危険だった。
真名はその人の魂を縛る。
私たちの場合は私が「メイヤ」の魂を私に縛り付け。
「メイヤ」は私「ルナ」の魂を縛り付けているので、よっぽどじゃないとそれを破棄できない。
でも、それが絶対とは言い切れない。
もし、解除する人がいたり、または後から上書きする事が出来る人がいれば、間違いなく危険なのだ。
だから、私たちは相手の名前を知るまでは誰も私たちの真名が分からないように縛りをつけている。
さほど危険性はない物なので、すぐに解けてしまい、名をしてからだと意味をなさないので、こうして、真名を呼び合う時はこっそりと呟くように言うのだ。
「あの、王子。」
遠慮するように声を掛けられ、私はようやく現実を思い出す。
カッと顔を赤く染め、アルファードの胸を押すが、彼はがっしりと私を抱きしめたまま、顔だけを声を掛けた相手に向けた。
「何だ。」
「その方は……。」
「俺の妻だ、」
「いやいや、まだ結婚してないし。」
「素手で触れただろう。」
「うわっ、こいつ、ガチで分かっててやっているんだっ!」
「ああ。」
「確信犯怖ぇ。」
「あの……、アルファード様?」
「ん?なんだ?イザベラ?」
蕩けるように優しい瞳に思わず見とれそうになるが、それよりも、今はこの状況を把握したかった。
「そちらの方は?」
「ああ、イザベラは知らなくて大丈夫だ。」
「おい。」
「イザベラに他の男の名前なんて知らなくていいからな。」
「独占欲強すぎだろう。」
「あっ?当たり前だろうが。」
「そうですね、アルファード様がよその女性の名など呼べば、その女狐になにをするかわかりませんから。」
「怖っ!似た者夫婦かよ。」
「ああ。」
「そうですね。」
「ああ、そうだ、イザベラ、様付けはいらない。」
「でも。」
「夫婦になるんだ、様なんてつけられれば距離が開いているようで寂しいからな。」
「でも…。」
「駄目か?」
シュンと肩を落とすアルファードはどこか子犬のようで可愛らしかった。
「…分かりましたわ、アルファード。」
「ああ、イザベラ。」
「おーい、いい雰囲気を醸し出しているところ悪いんだが、さっきの夫婦っている所を否定してくれよ。」
「何故だ。」
「何故でしょう?多分、この学園を卒業すれば、結構致しますし、もう夫婦同然でしょう?」
「……何と言うか、さらりと、怖い事を言っているよ、この二人。」
私はアルファードを見上げるが、彼は優しい笑みで私の髪を撫でる。
「気にしなくてもいい。」
「はい。」
私たちが微笑んでいると、人ごみから騒ぎ声が聞こえた。
「イザベラ姉上。」
ピクリとアルファードの米神が動く。
ああ、愛おしいと思いながら、私は穏やかに声がした方に顔を向けた。
「あら、ヒース?」
私は弟に首を傾げた。
「姉上、姉上は下がっていてください。」
「えっ?」
「アルファード様、わたくしの姉に何をなさっておられるのですか?」
「求婚だ。」
「……貴方様のお立場を鑑みていただけないでしょうか。」
「イザベラは妻なんだ、何を鑑みる必要がある。」
「何を言っているのでしょうか、わたくしめに分かるように教えていただけないでしょうか?」
ああ、やばいと私は思わず頭を抱えたくなりました、でも、ここで割り込むような勇者はーー。
「あ、あのわたしの為に争わないでください。」
いましたわね……。
私は思わず遠い目をしてしまいます。
アルファードもヒースも何を言っているんだ、この女はと言う目で少女を見ている。
「よかった、仲直りされて、そうでした、わたし、チューベローズって言います、ローズって呼んでください。」
ニコニコと笑う彼女に私と彼は得体のしれないものを感じる。
彼と視線をかわし同時に頷く。
「イザベラ、そろそろ、チャイムが鳴るな。」
「ええ、そうですわね。」
何事もなかったかのように私たちは寄り添い合い、さっさと校舎に向かって歩き出す。
「えー、何でわたし無視されているんですか~。」
「姉上っ!」
「王子。」
後ろから声がかかるが私たちは互いしか見ていなかった。
ああ、きっとあの少女がイレギュラーなのだろう。
どっかで、こんな話を聞いた事があったきがするけれども、どこだったかしら?
私は取り敢えず、思い出す事から始めるのだった。
「はい?」
「今の名は何て言うんだ?」
「イザベラ、イザベラ・ティール・オルディウスよ。」
「……。」
彼は何か考えるしぐさをするが、私は彼が何を考えているのか分からず、首を傾げる。
「メイヤ?」
「ああ、すまない、俺の今の名はアルファード・クラウド・ラバンディアっていうんだ。」
「ラバンディアって。」
私は聞き覚えのあるネームに思わず手で口を塞ぎ、ある事実を思い出し、顔を真っ赤にする。
「えっ、いいの?いいえ、でも……。」
「ふっ…、お前はやっぱり可愛いな。」
「からかわないで。」
確実にまだ顔が真っ赤で迫力はなかっただろうけど、それでも、私は彼を、アルファードを睨む。
「もう、貴方という人はーー。」
「俺の妻は過去も未来もお前ひとりしかいない。」
私は真っ直ぐに向けられる視線に気恥ずかしさを感じながらも、歓喜でいっぱいになる胸に調子がいいんだからと、どちらに対してかの言葉が漏れる。
この国は王政を主体としており、国名が彼らのファミリーネームになっている。
この国の名は「ラバンディア」そう、アルファードは王族なのだ。
因みに王族には不思議な風習があって、彼らは他人に素手で触れてはいけないのだ、もし、素手で触れればどんな素性の者でも、その王族の伴侶となる。
身分。
性別。
国。
人種。
本来なら大きな壁と立ちはだかるものがその風習の前では無意味だった。
だから、王族の人は普段から手袋をして決して他人に触れない、だけど、アルファードは先ほど何をした。
手袋を外して、私――イザベラに触れた。
その真っ白な手で。
意識してしまったらダメだった、気恥ずかしさで死んでしまいそうだった。
「イザベラ?」
「もう……貴方って人は……。」
いつまでも黙りこんでいる私に彼は覗き込んできた。
「本当に私しか見ていないのね。」
「当たり前だろう……前も、その前も、その前だって、俺はお前しか見ていない、勿論これからだってな。」
「……私も…前だって今だって、それにこれからだって、貴方だけよ「メイヤ」。」
「愛している「ルナ」。」
こっそりと呟かれる真名。
この真名は基本他の人には特殊な音にしか聞こえない、でも、この意味を知っている人がいれば危険だった。
真名はその人の魂を縛る。
私たちの場合は私が「メイヤ」の魂を私に縛り付け。
「メイヤ」は私「ルナ」の魂を縛り付けているので、よっぽどじゃないとそれを破棄できない。
でも、それが絶対とは言い切れない。
もし、解除する人がいたり、または後から上書きする事が出来る人がいれば、間違いなく危険なのだ。
だから、私たちは相手の名前を知るまでは誰も私たちの真名が分からないように縛りをつけている。
さほど危険性はない物なので、すぐに解けてしまい、名をしてからだと意味をなさないので、こうして、真名を呼び合う時はこっそりと呟くように言うのだ。
「あの、王子。」
遠慮するように声を掛けられ、私はようやく現実を思い出す。
カッと顔を赤く染め、アルファードの胸を押すが、彼はがっしりと私を抱きしめたまま、顔だけを声を掛けた相手に向けた。
「何だ。」
「その方は……。」
「俺の妻だ、」
「いやいや、まだ結婚してないし。」
「素手で触れただろう。」
「うわっ、こいつ、ガチで分かっててやっているんだっ!」
「ああ。」
「確信犯怖ぇ。」
「あの……、アルファード様?」
「ん?なんだ?イザベラ?」
蕩けるように優しい瞳に思わず見とれそうになるが、それよりも、今はこの状況を把握したかった。
「そちらの方は?」
「ああ、イザベラは知らなくて大丈夫だ。」
「おい。」
「イザベラに他の男の名前なんて知らなくていいからな。」
「独占欲強すぎだろう。」
「あっ?当たり前だろうが。」
「そうですね、アルファード様がよその女性の名など呼べば、その女狐になにをするかわかりませんから。」
「怖っ!似た者夫婦かよ。」
「ああ。」
「そうですね。」
「ああ、そうだ、イザベラ、様付けはいらない。」
「でも。」
「夫婦になるんだ、様なんてつけられれば距離が開いているようで寂しいからな。」
「でも…。」
「駄目か?」
シュンと肩を落とすアルファードはどこか子犬のようで可愛らしかった。
「…分かりましたわ、アルファード。」
「ああ、イザベラ。」
「おーい、いい雰囲気を醸し出しているところ悪いんだが、さっきの夫婦っている所を否定してくれよ。」
「何故だ。」
「何故でしょう?多分、この学園を卒業すれば、結構致しますし、もう夫婦同然でしょう?」
「……何と言うか、さらりと、怖い事を言っているよ、この二人。」
私はアルファードを見上げるが、彼は優しい笑みで私の髪を撫でる。
「気にしなくてもいい。」
「はい。」
私たちが微笑んでいると、人ごみから騒ぎ声が聞こえた。
「イザベラ姉上。」
ピクリとアルファードの米神が動く。
ああ、愛おしいと思いながら、私は穏やかに声がした方に顔を向けた。
「あら、ヒース?」
私は弟に首を傾げた。
「姉上、姉上は下がっていてください。」
「えっ?」
「アルファード様、わたくしの姉に何をなさっておられるのですか?」
「求婚だ。」
「……貴方様のお立場を鑑みていただけないでしょうか。」
「イザベラは妻なんだ、何を鑑みる必要がある。」
「何を言っているのでしょうか、わたくしめに分かるように教えていただけないでしょうか?」
ああ、やばいと私は思わず頭を抱えたくなりました、でも、ここで割り込むような勇者はーー。
「あ、あのわたしの為に争わないでください。」
いましたわね……。
私は思わず遠い目をしてしまいます。
アルファードもヒースも何を言っているんだ、この女はと言う目で少女を見ている。
「よかった、仲直りされて、そうでした、わたし、チューベローズって言います、ローズって呼んでください。」
ニコニコと笑う彼女に私と彼は得体のしれないものを感じる。
彼と視線をかわし同時に頷く。
「イザベラ、そろそろ、チャイムが鳴るな。」
「ええ、そうですわね。」
何事もなかったかのように私たちは寄り添い合い、さっさと校舎に向かって歩き出す。
「えー、何でわたし無視されているんですか~。」
「姉上っ!」
「王子。」
後ろから声がかかるが私たちは互いしか見ていなかった。
ああ、きっとあの少女がイレギュラーなのだろう。
どっかで、こんな話を聞いた事があったきがするけれども、どこだったかしら?
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