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「はよ」
「おはよう」
軽く欠伸をしながら俺はいつもの定位置であるフェリックスの隣のテーブルに腰掛けた。
すかさず俺の左手に伸ばされるフェリックスの右手をぎゅっと握って、テーブルの上に置いた。これもすっかりお馴染みになったよなあと思いながら、目の前に用意されているパンをスープに浸して食べ始めた。
俺の体調もここの所すっかり良くなり最早不眠や情緒不安定とはおさらば状態なのだが、止め時が分からないのでこうしてフェリックスと手を繋いだり一緒に添い寝をするのはまだ続けている。俺としては寧ろ嬉しいくらいなのでフェリックスが嫌だと言わない限りは続けたい。
目の前に用意されている朝食達の横にマグカップが一つ置いてある。紅茶が入っているそれは、件の俺が前に街で購入して来たペアカップの内の一つだ。しかも緑色に金の縁どりがされた方の色。何故かフェリックスは紫色で銀の縁どりが施された俺カラーの方しか殆ど使ってくれないので、必然的に此方の色は俺が使う用になっていた。いや俺が購入して来た物なので文句は言えないのだが、しかしお互いの色味のカップをそれぞれが使っているのは何だか恥ずかしいなと思わなくもない。そんな事を考えながらマグカップの紅茶を一口飲み、夫の方に何となく視線を向けた。フェリックスはもう食べ終えた様で、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいたが俺の視線に気付き此方を向く。
「何だ」
「……何でもない」
「そうか」
す、と目を細めるフェリックスは確かに表情こそ変わらないものの、その視線の中には俺に対する優しさが透けて見えるのは、俺の贔屓目だろうか。
先日夏季休暇を利用して旅行をし七日間程一緒に過ごしたが、あれ以降益々フェリックスの態度が甘く軟化した様に思えてならない。そもそも発情期以外の何でもない日にセックスしたのも初めてだった。それ以来お互いの休みの前の日や休みの日はこぞってしてしまう様になったし、キスなんか気が付けばすぐにしてしまう位になった。何も問題が無いどころか俺はもっとして欲しくて仕方が無い。そんな自分の変化を恐ろしがる暇すら無い程、フェリックスは常に俺を気に掛けてくれ愛してくれているのを実感する。
一応結婚して五年半程経っているのだが…漸く俺達は付き合い始めたカップルでもあるし、新婚さんでもあるのだ。舞い上がるのは致し方無いと思うが、こうもフェリックスの愛を感じまくる毎日は幸せでもあるが、羞恥も凄いんだよな等と考えながら俺はカップの紅茶をもう一口飲んだ。
朝食も終え、漸く繋いでいた手を離した俺達は各々服を着替えたり髪を整えた後に再度リビングで合流した。最近はどうせ職場が近くなのだからと一緒に出勤する事が多いのだ。
「行くか」
「うん」
リビングから廊下を渡り、玄関で靴を履き替えた。これから数日間休み無しの仕事の日々だなあと考えると少し憂鬱になる。
隣で靴べらを使い革靴を履き終えた旦那が立っていたので、俺はほんの少しだけ背伸びをしてフェリックスにキスをした。憂鬱な出勤の前に少し位ご褒美が合っても良いだろう。
フェリックスは一瞬の間目を瞬かせた後、俺の腰に手を回して再度俺にキスをした。軽い唇を合わせるだけのキスだが、少し角度を変えて啄む様にキスをされると…官能が刺激されそうになるから止めて欲しい。
俺はフェリックスの胸に手を伸ばして制止した。
「…あんまりすると、仕事行きたくなくなるから」
「そうだな。また帰ってからにするか」
「うん…」
帰ってから何をするのか。まだ週初めなのに夜するつもりなのかなあ、なんて考えてしまい頬が若干熱くなった。
するりと離れた体に寂しさを覚えるが、仕方が無い。玄関のドアを開き先にフェリックスが外へ出る。まだ少し薄暗い朝の光がドアから差し込み、フェリックスを逆光で照らす。俺もそれに続き外へ出た。
もう五年前の俺達には戻り様が無い。
でも今の俺達が一番好きだと思う。俺の不甲斐無い体調不良からまさかこんな事になるとは思ってもいなかったが、フェリックスを好きになれた事、またフェリックスから愛して貰える幸せを知れた事は大きい。
一生俺は仕事と出世の為だけに生きると決めていたが、そんな人生設計の中にフェリックスと共に歩んでいく道が加わるのは悪く無い。いや悪く無い…どころじゃなくてとても嬉しい。
無駄に笑ってしまって隣を歩いているフェリックスを見上げると、フェリックスは「機嫌が良さそうだな」と言いほんの僅かだが微笑み掛けてくれる。
ああ、些細な事でも幸せだなあ。
俺はにっこりとフェリックスに微笑みかけると、前を向いて道を見据えた。
「おはよう」
軽く欠伸をしながら俺はいつもの定位置であるフェリックスの隣のテーブルに腰掛けた。
すかさず俺の左手に伸ばされるフェリックスの右手をぎゅっと握って、テーブルの上に置いた。これもすっかりお馴染みになったよなあと思いながら、目の前に用意されているパンをスープに浸して食べ始めた。
俺の体調もここの所すっかり良くなり最早不眠や情緒不安定とはおさらば状態なのだが、止め時が分からないのでこうしてフェリックスと手を繋いだり一緒に添い寝をするのはまだ続けている。俺としては寧ろ嬉しいくらいなのでフェリックスが嫌だと言わない限りは続けたい。
目の前に用意されている朝食達の横にマグカップが一つ置いてある。紅茶が入っているそれは、件の俺が前に街で購入して来たペアカップの内の一つだ。しかも緑色に金の縁どりがされた方の色。何故かフェリックスは紫色で銀の縁どりが施された俺カラーの方しか殆ど使ってくれないので、必然的に此方の色は俺が使う用になっていた。いや俺が購入して来た物なので文句は言えないのだが、しかしお互いの色味のカップをそれぞれが使っているのは何だか恥ずかしいなと思わなくもない。そんな事を考えながらマグカップの紅茶を一口飲み、夫の方に何となく視線を向けた。フェリックスはもう食べ終えた様で、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいたが俺の視線に気付き此方を向く。
「何だ」
「……何でもない」
「そうか」
す、と目を細めるフェリックスは確かに表情こそ変わらないものの、その視線の中には俺に対する優しさが透けて見えるのは、俺の贔屓目だろうか。
先日夏季休暇を利用して旅行をし七日間程一緒に過ごしたが、あれ以降益々フェリックスの態度が甘く軟化した様に思えてならない。そもそも発情期以外の何でもない日にセックスしたのも初めてだった。それ以来お互いの休みの前の日や休みの日はこぞってしてしまう様になったし、キスなんか気が付けばすぐにしてしまう位になった。何も問題が無いどころか俺はもっとして欲しくて仕方が無い。そんな自分の変化を恐ろしがる暇すら無い程、フェリックスは常に俺を気に掛けてくれ愛してくれているのを実感する。
一応結婚して五年半程経っているのだが…漸く俺達は付き合い始めたカップルでもあるし、新婚さんでもあるのだ。舞い上がるのは致し方無いと思うが、こうもフェリックスの愛を感じまくる毎日は幸せでもあるが、羞恥も凄いんだよな等と考えながら俺はカップの紅茶をもう一口飲んだ。
朝食も終え、漸く繋いでいた手を離した俺達は各々服を着替えたり髪を整えた後に再度リビングで合流した。最近はどうせ職場が近くなのだからと一緒に出勤する事が多いのだ。
「行くか」
「うん」
リビングから廊下を渡り、玄関で靴を履き替えた。これから数日間休み無しの仕事の日々だなあと考えると少し憂鬱になる。
隣で靴べらを使い革靴を履き終えた旦那が立っていたので、俺はほんの少しだけ背伸びをしてフェリックスにキスをした。憂鬱な出勤の前に少し位ご褒美が合っても良いだろう。
フェリックスは一瞬の間目を瞬かせた後、俺の腰に手を回して再度俺にキスをした。軽い唇を合わせるだけのキスだが、少し角度を変えて啄む様にキスをされると…官能が刺激されそうになるから止めて欲しい。
俺はフェリックスの胸に手を伸ばして制止した。
「…あんまりすると、仕事行きたくなくなるから」
「そうだな。また帰ってからにするか」
「うん…」
帰ってから何をするのか。まだ週初めなのに夜するつもりなのかなあ、なんて考えてしまい頬が若干熱くなった。
するりと離れた体に寂しさを覚えるが、仕方が無い。玄関のドアを開き先にフェリックスが外へ出る。まだ少し薄暗い朝の光がドアから差し込み、フェリックスを逆光で照らす。俺もそれに続き外へ出た。
もう五年前の俺達には戻り様が無い。
でも今の俺達が一番好きだと思う。俺の不甲斐無い体調不良からまさかこんな事になるとは思ってもいなかったが、フェリックスを好きになれた事、またフェリックスから愛して貰える幸せを知れた事は大きい。
一生俺は仕事と出世の為だけに生きると決めていたが、そんな人生設計の中にフェリックスと共に歩んでいく道が加わるのは悪く無い。いや悪く無い…どころじゃなくてとても嬉しい。
無駄に笑ってしまって隣を歩いているフェリックスを見上げると、フェリックスは「機嫌が良さそうだな」と言いほんの僅かだが微笑み掛けてくれる。
ああ、些細な事でも幸せだなあ。
俺はにっこりとフェリックスに微笑みかけると、前を向いて道を見据えた。
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