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アレクは俺を自室へと連れてきた。この館の主の主寝室だ。俺がここに入るのは、もちろん初めてである。アレク付きの使用人は部屋の外に待機させ、部屋は俺たち二人きりとなった。
部屋は落ち着いたブラウンが基調の部屋で、丁寧な細工が施された木製の家具が配置されていた。王宮内の王族の部屋はとにかく豪華絢爛に作られるものだが、ここはアレクの意向なのか変に華美ではなく、雰囲気の良い部屋だった。
アレクは暖炉に火を灯すと、徐に付けたままだった目元の仮面を外した。俺もそれに習い外すと、アレクは俺の方を向く。
アレクは表情の読めない顔をしていた。無言のままお互い見つめ合い、耐えきれなくなった俺は口を開く。
「本当にごめん。屈辱でしか無かったのは分かってる……ただああすれば、アレクに幻想を抱いていたレディの目も覚めるだろって思って」
「……」
「でも、アレクが優しくて俺の茶番にいつも付き合ってくれるって分かってたから、調子乗ったと思う。本当に申し訳ない……」
アレクはそれでも、一言も言葉を発さなかった。ガチギレしてる?これ。いよいよやばい。ちょっとした処罰どころか、俺の首が飛ぶ事態か……?
再び冷や汗が止まらなくなってきた俺にアレクはくしゃりと表情を崩した。眉根を寄せ、苦悩しているような表情を浮かべている。どうしようもなく苦しいような、辛いような顔だ。
俺はそれはもう慌てた。思わずアレクに駆け寄る。
「ああ!ごめんって!嫌だっただろ、本当にごめん……俺を処罰するなら受け入れるからな」
「……そうじゃない」
アレクは顔を歪めたまま、胸元のシャツを掴む。
「なんなんだ、何故なんだ。少しも嫌じゃなかった」
「……何?」
「王族として地面に膝をつけるなんて事は絶対にしてはいけない。幼い頃からずっとそう教えられてきたのに、そうやって……」
「アレク?」
アレクはじっと俺に視線を合わせてきた。歪められたその顔は、不快には染まっていない。むしろまるで俺に何かを懇願するかのようだ。その瞳の中に炎すら見えてしまうのは、果たして俺の願望なのか。
「最初から嫌じゃなかった。マクシムに何をされても嫌じゃない。どんな言葉を言われたって、いきなりキスをされたって、私の心は常に揺れ動かされ、頭の中は貴方でいっぱいになった。偽装の恋人として役目を果たしてくれているだけなのは分かっているのに、どうにも駄目だ。マクシムと触れ合いたい。マクシムにされることなら全て受け入れたい……」
「……」
「マクシム以外に跪けと指示されたら、即刻首を跳ねたいくらいに不快だ。でもマクシムにならいくらでもしたかった。むしろ、貴方を見上げて……貴方からの口付けを待つ瞬間は、至高の喜びですらあった」
胸元のシャツをぎゅっと握りしめ、アレクは続ける。
「どうしてくれるんだ、マクシム……。例の彼女の件が片付いたとしても、私は貴方から離れられそうにない」
「アレク……」
苦悩に揺れるアレクの切ない表情と、言われた言葉に俺の心が歓喜に震えた。
偽装恋人のための演技なんて、建前だ。もちろん最初はそうだった。でも、そんな建前だけで他人とキスなんて俺は出来ない。ましてやキスをしながら熱くなった股間を擦り合わせるなんて事、本来の俺ならしない。人前で舌を絡めるようなキスなんてのもしない。全部相手がアレクだからした事だ。
元から俺は、こう見えて純愛主義なんだから。
俺はゆっくりとアレクに近付いた。そしてその胸元の手を取り、絡めるように握る。
アレクの綺麗な顔が期待に染まる。それすら俺は嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。
「アレク、俺の事好きか?」
「……好きだ、愛している」
「俺も……好きだよ」
アレクの目が驚愕に満ちて開かれていくのを見ながら、俺はアレクにキスをした。なんか本当に俺たち、キスばっかしてるよな。周囲にラブラブな関係を見せつけるために手っ取り早く始めたそれだったが、気付けば当たり前になっていたように思う。
アレクが目を伏せ、俺の方に顔を近付けてきた。俺も目を閉じ受け入れる。
唇が触れあうだけで、こんなにも心が震えるんだ。俺は年齢的にも多少の経験はあるものの、ここまで他人に心を奪われた事は無いかもしれない。
ずっとこの気持ちについては考えないようにしていた。今でも、第三王子殿下とこんなふうになって大丈夫か?ていう疑念もある。ただ、それでもこの愛を甘受したい。そして俺も返したい。
もういいんだよな。お前が格好よくて可愛くて仕方なくて……愛してる、って言っても。
しかも俺がやりたい事を受け入れてくれるって、さっき言ったよな?アレク。俺は覚えてるぞ。
「っ、マクシム……」
俺はにこりと微笑んで、アレクの唇や頬や額にキスをした。そしてそのまま顔を下げて、アレクの首筋にもキスを送った。喉元がごくりと動くのも嬉しい。
俺はただ持つべきものは全て使う主義で、自分を守るために魔性の男でいるだけだと自分では思っていた。でもこうやってアレクを翻弄するのが楽しくて楽しくて仕方がないから、やっぱり本質としてはそういう一面もあるのかもしれない。どっちにしろ、アレクが喜んだりドキドキしてくれるならそれでいいや。
ごくりと動いた喉仏も、可愛かったのでチュッと音を立ててキスをした。色が白いので、吸い付けば簡単にキスマークがつく。俺のすることにいちいち反応してくれるアレクに気を良くして、俺はアレクの豪奢なシャツを脱がせ始める。
体格的にも多分、俺が尻で抱かせてやる方が無難だろうな。ていうか、アレクって童貞じゃないよな?今までの言動があまりにも純朴なのて、もしかしたら童貞か……そうじゃなくとも王家の性指南役との経験くらいしか無いかもしれない。だったら益々、俺を抱かせてやらないと可哀想だ。初めてのまともな性体験は、気持ちよくなって貰わないと。
アレクが着ている非常に作りの面倒なシャツのボタンを外していくと、ふいにアレクに手を掴まれて制止されてしまった。俺は不満げに唇を尖らす。
「何?俺としたくない?」
「いや、したい。だがせめてベッドに行こう」
アレクは真面目だなあと感心した。まあ初めてが床や机の上よりも、そりゃあベッドの方が無難か。俺はもう片方の手でアレクと手を繋ぎ、ベッドの方に歩いて行った。縁まで来たところで、アレクに先に横になるよう言った。大きすぎるほど大きい天蓋付きのベッドは、さすが王族の寝室といった感じである。
おずおずと横になったアレクの上に跨り、俺は服を脱ぎ始めた。
礼服なので非常に脱ぎにくい。細かな装飾を一つ一つ外し、見せつけるように脱いでいった。
上着を脱いで、その下に着ていたシャツにも手をかける。じっと俺を見上げるアレクの目は、徐々に熱を帯びていった。あの日……マリーベル嬢がアレクの王宮の私室に忍び込んだ日。本当はあのまま続けてこうしたかったな……という事を、やっと今実現出来る。
ちょうど腰の上に跨っているので、下にあるアレクのペニスが熱く、固くなっていくのも感じていた。少しだけ腰の位置をずらし、あの日みたいに俺のとアレクのが重なり合うように擦り合わせた。ああ、もういいんだよな。はしたなく動いても、アレクなら喜んでくれるって信じてる。
シャツのボタンを外し終わったので、はらりと上をはだけて見せた。敢えて全部脱がなかったのは、わざとだ。着崩した上半身から見える俺の乳首を堪能して欲しい。
下はまだきっちりと着込んでいるが、とりあえずそのままでいい。アレクの固い腹筋に手を置き、腰を上下に動かした。
「っ、マクシム!」
「あの日の事、覚えてるか?無かったことみたいに過ごしてたけどさ……ずっとこうしたかったよ、俺」
「……」
「んっ……」
アレクも俺も、下半身は何も露出していない。だからこそのもどかしさと、布越しでも伝わるお互いの熱と硬くなっていくさまに、脳が焼けそうだった。こんなおままごとみたいに擦り合わせているだけなのに、こんなに気持ちいいなんて。
アレクを見下ろせば、全く余裕の無い顔でその擦り合わさる下半身を凝視していた。俺は自分のズボンのベルトに手をかける。ベルトを引き抜いてズボンと下着の前を寛げると、既に芯を持った俺のペニスが飛び出してきた。
アレクはそれを見て思わず、といった感じで俺の太ももを掴んだが、俺は構わずに少し腰をずらし、今度はアレクのズボンを脱がせにかかった。何でこんなに面倒くさいんだよ、というような複雑な作りのベルト金具を外し、ズボンのボタンも外した。下着も指をかけてめくれば、途端に勃起したアレクのペニスが現れる。長身のアレクに見合ったそこはなかなかの大きさで、俺は先の方を指でくるくると触った。
……何これ。硬っ。
ガチガチである。俺のももう片方の手で触ってみたが、明らかに硬さが違う。やっぱり若いからこんなところにも張りがあるのか?なんて考えつつも、こんな硬くて長いものが俺の中に出入りする事を考えたら、たまらなくなった。
ぐにぐにと刺激をすると、アレクがはあ、と熱いため息を漏らす。俺と目が合うといつもなら恥ずかしそうにしたりしてくれるが、アレクはただ恍惚とした表情を浮かべているだけだった。……ああ、いいな。俺をもっと欲しがってくれ。
ついでとばかりに俺のものとアレクのを直接触れさせあって擦ると、俺もアレクも声が漏れた。
「っ……」
「アレク、……んっ」
布越しで既にガチガチにしていたアレクだが、こうして直接一緒に合わせると益々大きくなっていった。凄い……早く、欲しい。
俺はアレクの股の間に座り込み、ズボンと下着を脱いだ。俺、素っ裸よりも着衣派なんだよな。アレクが気に入るかは分からないが、とりあえず下半身は裸で、上ははだけた状態になり足を広げて見せた。
先日使用人が用意してくれていた香油を、俺はポケットの中から取り出す。断じてこういう場面になったら使おうと目論んでいた訳じゃない。ただ一人遊び用に欲しいな、と思って拝借していただけである。今日もきっと仮面舞踏会の後、アレクが恋しくなったりするかもしれないと思って、一人で使おうとしていただけだ。……最近、たまにだけど、誰かさんを思って一人……後ろを弄っていたから。
香油をたらり、と手に伸ばし、後ろの孔に塗りこんだ。アレクに見えるように孔を広げて見せれば、いつの間にか上半身を肘で押してやや起き上がっていたアレクが、案の定そこに釘付けになっていた。
ああ、普段はあんなに可愛いのに。そうやって俺を欲しがっている顔は雄の顔で、格好よくて胸がキュンと締め付けられる。
俺は香油を塗りたくった指を一本、二本と中に侵入させる。
「ん、……ぅ……」
ぐちぐち、と濡れた音がする。それすらも興奮材料になりながら、俺は孔を解した。さすがに経験のなさそうなアレクに、男の尻を広げるなんて事させられない。今日はお兄さんの俺が全部リードしてあげないと。
指で孔を広げながら、わざと中のイイところを掠める。びりっとした快感が身体中を走り、俺も息が上がって余裕がなくなってきた。自然と声も漏れてしまい、止まらなくなっていく。
「あ、アレクっ……っ!」
「……」
見せ付けるように指を動かす。本当に、俺ってこんなにはしたなかったんだ。過去に何人か恋人もいたし、そういう事もいくらでもした。なのに、ここまで奔放に振る舞ったことなんて無いししようとも思わなかった。相手がアレクだとどうしても盛り上がっちゃうな。
なんて考えて少しだけ笑いそうになった時、突然アレクがぐいっと俺の胸元を後ろに押した。体勢を崩した俺はベッドに倒れ込み、講義の声をあげようとしたが……それは叶わなかった。アレクは俺に顔を近付けて、性急に舌をねじ込んできた。
「ん、ぁっ……ま、まてっ……」
「……っ」
アレクが俺の上に馬乗りになっている。筋肉質な男は重く、体が動かせそうにない。
口の中を縦横無尽に舌が舐る。舌と舌が絡み、上顎は舌先でなぞられ、俺はゾクゾクとした快感に身悶えた。そうこうしている間に俺の中に突っ込んでいた指も抜き取られ、代わりに今度はアレクの指が俺の孔の中に突き立てられる。
剣や弓の修行をしてきたその指は節くれだち、ゴツゴツとしていた。普段優男で可愛い王子様の意外な一面に、内心キュンとして堪らない。
いや、しかしな。それにしても……アレク……上手くないか?色々。
アレクの指は俺の中を的確に広げていった。しかもわざとみたいに俺のイイ所を外して、でもたまに掠めて。俺はもどかしい快楽に身を捩る他無かった。
「ぁ、ああっ……アレク……」
「限界?」
「早く、くれよ……あと乳首も触って……」
アレクは小さく唸り、もう片方の手で俺のはだけたシャツを避けて、既に期待してぷっくりと立ち上がっていた乳首をつまみ上げた。と、同時に腹の奥の感じるところを指で擦られて、俺は仰け反って喘いでしまった。
ズボンと下着を下にずらし、アレクがそそり立った自身のペニスを数回扱いた。先程よりも更に凶悪に育ったそれに、俺は身震いする。そしてアレクは先端を俺の後ろにあてがうと、容赦なくずぶっと突き入れてきた。
「あ、あああっ……!むり、でかいっ」
「無理じゃない……マクシムのここは熱くてぬかるんで、私を受け入れてくれている……」
「ひ、ぅ……っ」
覆いかぶさってきたアレクの背中を掻き抱き、俺は必死に衝撃を受け流した。痛くは無い。でも何だかすごいものが俺の中を貫いている。その感覚は未知すぎて、俺は少しだけ怖くなった。しかしそれもつかの間、アレクは早速と言わんばかりにゆるゆると腰を動かし始めた。
待て、無理!硬い!めちゃくちゃ俺のいいところに当たりまくる……!
一突きされる度に、俺の前立腺が抉られて、脳から溶けそうな程気持ち良かった。俺は最早ただ喘ぐだけの機会に成り下がり、必死に快楽を受け入れる以外に出来なくなってしまった。
「あ、アレクっ!……やば、ぁあっ!」
「はぁ、気持ちいい?マクシム……」
「良すぎ、るっ……」
良すぎてやばい。こんなの知ってしまったら、他の男となんて出来なくなるじゃないか。どうしてくれるんだ……と頭の片隅で思いつつも、まともな言葉はもう口から出てこなかった。アレクは俺の中を穿ちながら、せっせと言いつけを守って俺の乳首にも愛撫をくれた。中を擦られながら乳首も摘まれ、俺はもう限界だ。
「あ、もう、イくっ……!」
「マクシム、愛してる……もう貴方無しの生活には、戻れない……」
「おれ、も……っ、ぅ、あああっ!!」
我慢できず、俺は盛大に仰け反って絶頂を迎えた。イってる。盛大にめちゃくちゃにイってる。なのにアレクは腰を止めてくれなくて、俺はおかしくなりそうだった。アレクもラストスパートのようで、俺の中を遠慮なくゴリゴリと擦った。だから、硬すぎるんだって……!
イった余韻に浸ることすら許されず、中の敏感なところを擦られ続けた。俺は頭を降って嫌がったのに、アレクは容赦なく腰を振る。
「や、無理、なんか……来るっ」
「なんでもいいよ、マクシム……乱れたところ、もっと見せてくれ」
「いや、やだ、ああっ!!」
ぷしゃ、と俺の前で何かが弾けた。脳天を突き抜けるような快楽に頭が真っ白になって、一瞬そのまま意識が飛びそうになる。
う、と呻いて、アレクも達したようだ。俺の後ろに熱いものを感じた。しばらく放心状態で何も出来なかったが、少しずつ意識が戻ってくる。恐る恐る下を覗けば、案の定……俺の腹は白と透明の液体でビシャビシャに濡れていた。
俺、潮吹きさせられた挙句に中出しされた?
マジかよ、と戦く俺に、アレクはチュッと可愛らしい音を立ててキスをしてきた。
「マクシム……可愛かった」
「……」
……俺は騙されたぞ……。
てっきりアレクは経験もあまりなくて、純粋ピュアな歳下くんだとばかり思っていたのに。こんな一面とテクを隠し持っていたなんて、聞いてない……。
身勝手にイかされまくったのも、アレクの過去の片鱗を感じたのも、何となく腑に落ちないのだが……。まあ俺も過去は色々あるしな。それに、気持ち良かったのは事実だし。
アレクの腕が俺の体に回され、ぎゅっと抱き締められた。それだけでふんわりとした降伏感に包まれる。しかも結局は抱きついてくるアレクが可愛くて仕方が無いのは事実だ。
俺の負けか……敵わないな。
そう思いつつ、俺もお返しとばかりにアレクの額にキスを送るのだった。
───────
結局、マリーベル嬢はその後別の他国の貴族に嫁いでいく事が決まったらしい。アレクに夢を抱けなくなった少女は、他国の王子に夢を託したようだ。まあ他の国の慣習にも疎そうだし、あの夢見がちなレディがどこまで耐えられるのかは知らないけど。とりあえず俺の大胆な作戦がきいたようで何よりである。
俺たちが熱烈に愛し合ってから一ヶ月。偽装の恋人から本当の恋人に昇格しても、俺たちも周りも特に何も変わらなかった。以前は俺たちが連れ立っているだけでヒソヒソとされたものだが、最早皆慣れてしまったようで誰も噂すらしない。人の噂というものはまあそんなものだろう。
以前と違う事は、俺が頻繁にアレクの別邸に行って二人で過ごす事が増えたくらいか。街でのデートもたまにするのだが、アレクも俺も顔が割れているのでなかなか街を自由には歩き辛い。なので最近ではデートする時は専ら、人気のない丘の上などでピクニックや乗馬をするくらいだ。
相変わらず俺が揶揄うと戸惑って耳を赤くしてしまうアレクだが、夜はいつも最終的俺の方が翻弄される事が多い。それもまた毎回悔しい話である。
さてそんなある日、いつものように仕事が終わった週末の夜にアレクの別邸で睦んでいた頃、何事も無いような口ぶりでアレクが言った。
「ああ、そうだ。一つ残念な報告があって」
「ん?なんだ」
「私とマクシムの婚姻は、やはり大っぴらには認められないらしい。身分的な難しさがあってどうしようも無いと、父と母からは言われてしまった」
「………………」
「しかし元から私には兄たちもいるし、後継者としての役割は求められていないから、安心して欲しい。なので神殿で取り仕切る実際の婚姻は難しくとも、簡易的な式や事実婚は認めてくれるらしい」
「はあ?」
「だからマクシム、私と結婚してくれるか?家はこの別邸を改装するか、もし希望があるなら別のところに移ってもいいし」
はあっ!?どういう話だ!何も聞いてないんだが!
俺は驚いてベッドから起き上がった。
「ちょっと待て!俺たち結婚するのか!?」
「ああ。根本的な身分は変えられないものの、公的な場にはマクシムを伴侶として連れ立ってもいいと言われた。それでも大々的な式は上げられないし、父と母は呼べなくて申し訳無いんだが。上の兄は来てくれるらしいが」
「ちょ、ちょ……」
混乱する俺に、アレクは眉を下げた。
「……勝手に話を進めてしまったのは謝る。しかし相談しても、マクシムは取り合って貰えないと思ったんだ」
「そりゃ、そうだろ。だって俺は私生児だぞ。アレクとじゃあ身分が違いすぎて……」
「そうだ。マクシムは弁えてしまって、何も言わなかった。俺を好きだとは言ってくれたけど、その先を望んでいないのは分かっていた。だから先に父と母に話を通して、どうにかマクシムとこれから先も居られるようにしたかった」
アレクが俺の手を取り、ぎゅっと握った。アレクが俺を見つめるその真剣な眼差しに、目が離せなくなる。
「前にも言ったが、私はもうマクシム無しじゃ生きられないんだ……。寝ても醒めても貴方に翻弄されているし、ずっとそうされたい。捕らわれてるんだ」
「アレク……」
「どうか私と、結婚して欲しい。もちろん王命等では無いから、断ってくれてもいい。この関係も変わらない、私がマクシムを離さなければいい話だから。でももし……マクシムが良いと言ってくれるのなら、これから先もずっと貴方と居られる確証が欲しい」
可愛いアレク。俺なんかをそんなに欲して、根回ししちゃうだなんて。だけどさあ、きっと俺がアレクにベタ惚れで可愛いと思っていて、アレクの頼みを断るなんてしない事……本当は分かってるんじゃないのかな。
この策士め、と思わなくもないのだが、まあなんでも可愛いからいいか。結局翻弄されているのは、果たしてどちらなのか。
俺はアレクの首に手を回し、顔を近付ける。
「俺、魔性の男とか言われてるけど、案外純愛派なんだよな」
「知っている」
「だから浮気とかも許さないし、ちょっとでも他に目移りするのも絶対に嫌だ。俺だけを見ててくれないと」
「それは保証する。むしろ、私だってそれは許さない」
「ならいいよ。ずっと俺の事見て」
「もちろん」
アレクはホッとしたように笑った。いきなり結婚を進めておいて、その実受け入れられるのか不安でいたんだろう。そういう所が可愛くて、歳相応だなあと思ってしまった。
どちらからともなく、俺たちは顔を傾けてキスをした。ゆっくりとした優しいキスで、俺はなんとなくふわふわとした気持ちになった。
偽装の恋人騒動からまさかこんな事になるだなんて、誰が想像出来ただろう。これから先、身分の事もあってどうなるのか不安もある。ただそれでも、この可愛くて俺の事が大好きな伴侶が隣に居ればどうにかなるんじゃないかと思うのは、俺が楽観的だからだろうか。
だが何かあったとしても、俺は持てるものはなんでも持って勝負できる。せいぜい魔性の男として、アレクを離さないように頑張らないとな。
俺はうっそりと微笑み、アレクに言った。
「じゃあもう一回、俺の前で跪いてプロポーズして」
「……」
途端に恍惚とした表情で、俺を見つめるアレク。ゆっくりと立ち上がり、俺の目の前に膝をついた。その顔はほんのり上気していて、俺を欲しているのがありありと見て取れる。
アレクが俺の手を取り、その甲に口付けた。そうして俺に愛を乞う姿を見て、俺は高揚感に包まれる。
きっと俺たちなら、これから先も上手くやれるだろう。俺はにっこりと微笑み、可愛いアレクの髪をそっと撫でるのだった。
部屋は落ち着いたブラウンが基調の部屋で、丁寧な細工が施された木製の家具が配置されていた。王宮内の王族の部屋はとにかく豪華絢爛に作られるものだが、ここはアレクの意向なのか変に華美ではなく、雰囲気の良い部屋だった。
アレクは暖炉に火を灯すと、徐に付けたままだった目元の仮面を外した。俺もそれに習い外すと、アレクは俺の方を向く。
アレクは表情の読めない顔をしていた。無言のままお互い見つめ合い、耐えきれなくなった俺は口を開く。
「本当にごめん。屈辱でしか無かったのは分かってる……ただああすれば、アレクに幻想を抱いていたレディの目も覚めるだろって思って」
「……」
「でも、アレクが優しくて俺の茶番にいつも付き合ってくれるって分かってたから、調子乗ったと思う。本当に申し訳ない……」
アレクはそれでも、一言も言葉を発さなかった。ガチギレしてる?これ。いよいよやばい。ちょっとした処罰どころか、俺の首が飛ぶ事態か……?
再び冷や汗が止まらなくなってきた俺にアレクはくしゃりと表情を崩した。眉根を寄せ、苦悩しているような表情を浮かべている。どうしようもなく苦しいような、辛いような顔だ。
俺はそれはもう慌てた。思わずアレクに駆け寄る。
「ああ!ごめんって!嫌だっただろ、本当にごめん……俺を処罰するなら受け入れるからな」
「……そうじゃない」
アレクは顔を歪めたまま、胸元のシャツを掴む。
「なんなんだ、何故なんだ。少しも嫌じゃなかった」
「……何?」
「王族として地面に膝をつけるなんて事は絶対にしてはいけない。幼い頃からずっとそう教えられてきたのに、そうやって……」
「アレク?」
アレクはじっと俺に視線を合わせてきた。歪められたその顔は、不快には染まっていない。むしろまるで俺に何かを懇願するかのようだ。その瞳の中に炎すら見えてしまうのは、果たして俺の願望なのか。
「最初から嫌じゃなかった。マクシムに何をされても嫌じゃない。どんな言葉を言われたって、いきなりキスをされたって、私の心は常に揺れ動かされ、頭の中は貴方でいっぱいになった。偽装の恋人として役目を果たしてくれているだけなのは分かっているのに、どうにも駄目だ。マクシムと触れ合いたい。マクシムにされることなら全て受け入れたい……」
「……」
「マクシム以外に跪けと指示されたら、即刻首を跳ねたいくらいに不快だ。でもマクシムにならいくらでもしたかった。むしろ、貴方を見上げて……貴方からの口付けを待つ瞬間は、至高の喜びですらあった」
胸元のシャツをぎゅっと握りしめ、アレクは続ける。
「どうしてくれるんだ、マクシム……。例の彼女の件が片付いたとしても、私は貴方から離れられそうにない」
「アレク……」
苦悩に揺れるアレクの切ない表情と、言われた言葉に俺の心が歓喜に震えた。
偽装恋人のための演技なんて、建前だ。もちろん最初はそうだった。でも、そんな建前だけで他人とキスなんて俺は出来ない。ましてやキスをしながら熱くなった股間を擦り合わせるなんて事、本来の俺ならしない。人前で舌を絡めるようなキスなんてのもしない。全部相手がアレクだからした事だ。
元から俺は、こう見えて純愛主義なんだから。
俺はゆっくりとアレクに近付いた。そしてその胸元の手を取り、絡めるように握る。
アレクの綺麗な顔が期待に染まる。それすら俺は嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。
「アレク、俺の事好きか?」
「……好きだ、愛している」
「俺も……好きだよ」
アレクの目が驚愕に満ちて開かれていくのを見ながら、俺はアレクにキスをした。なんか本当に俺たち、キスばっかしてるよな。周囲にラブラブな関係を見せつけるために手っ取り早く始めたそれだったが、気付けば当たり前になっていたように思う。
アレクが目を伏せ、俺の方に顔を近付けてきた。俺も目を閉じ受け入れる。
唇が触れあうだけで、こんなにも心が震えるんだ。俺は年齢的にも多少の経験はあるものの、ここまで他人に心を奪われた事は無いかもしれない。
ずっとこの気持ちについては考えないようにしていた。今でも、第三王子殿下とこんなふうになって大丈夫か?ていう疑念もある。ただ、それでもこの愛を甘受したい。そして俺も返したい。
もういいんだよな。お前が格好よくて可愛くて仕方なくて……愛してる、って言っても。
しかも俺がやりたい事を受け入れてくれるって、さっき言ったよな?アレク。俺は覚えてるぞ。
「っ、マクシム……」
俺はにこりと微笑んで、アレクの唇や頬や額にキスをした。そしてそのまま顔を下げて、アレクの首筋にもキスを送った。喉元がごくりと動くのも嬉しい。
俺はただ持つべきものは全て使う主義で、自分を守るために魔性の男でいるだけだと自分では思っていた。でもこうやってアレクを翻弄するのが楽しくて楽しくて仕方がないから、やっぱり本質としてはそういう一面もあるのかもしれない。どっちにしろ、アレクが喜んだりドキドキしてくれるならそれでいいや。
ごくりと動いた喉仏も、可愛かったのでチュッと音を立ててキスをした。色が白いので、吸い付けば簡単にキスマークがつく。俺のすることにいちいち反応してくれるアレクに気を良くして、俺はアレクの豪奢なシャツを脱がせ始める。
体格的にも多分、俺が尻で抱かせてやる方が無難だろうな。ていうか、アレクって童貞じゃないよな?今までの言動があまりにも純朴なのて、もしかしたら童貞か……そうじゃなくとも王家の性指南役との経験くらいしか無いかもしれない。だったら益々、俺を抱かせてやらないと可哀想だ。初めてのまともな性体験は、気持ちよくなって貰わないと。
アレクが着ている非常に作りの面倒なシャツのボタンを外していくと、ふいにアレクに手を掴まれて制止されてしまった。俺は不満げに唇を尖らす。
「何?俺としたくない?」
「いや、したい。だがせめてベッドに行こう」
アレクは真面目だなあと感心した。まあ初めてが床や机の上よりも、そりゃあベッドの方が無難か。俺はもう片方の手でアレクと手を繋ぎ、ベッドの方に歩いて行った。縁まで来たところで、アレクに先に横になるよう言った。大きすぎるほど大きい天蓋付きのベッドは、さすが王族の寝室といった感じである。
おずおずと横になったアレクの上に跨り、俺は服を脱ぎ始めた。
礼服なので非常に脱ぎにくい。細かな装飾を一つ一つ外し、見せつけるように脱いでいった。
上着を脱いで、その下に着ていたシャツにも手をかける。じっと俺を見上げるアレクの目は、徐々に熱を帯びていった。あの日……マリーベル嬢がアレクの王宮の私室に忍び込んだ日。本当はあのまま続けてこうしたかったな……という事を、やっと今実現出来る。
ちょうど腰の上に跨っているので、下にあるアレクのペニスが熱く、固くなっていくのも感じていた。少しだけ腰の位置をずらし、あの日みたいに俺のとアレクのが重なり合うように擦り合わせた。ああ、もういいんだよな。はしたなく動いても、アレクなら喜んでくれるって信じてる。
シャツのボタンを外し終わったので、はらりと上をはだけて見せた。敢えて全部脱がなかったのは、わざとだ。着崩した上半身から見える俺の乳首を堪能して欲しい。
下はまだきっちりと着込んでいるが、とりあえずそのままでいい。アレクの固い腹筋に手を置き、腰を上下に動かした。
「っ、マクシム!」
「あの日の事、覚えてるか?無かったことみたいに過ごしてたけどさ……ずっとこうしたかったよ、俺」
「……」
「んっ……」
アレクも俺も、下半身は何も露出していない。だからこそのもどかしさと、布越しでも伝わるお互いの熱と硬くなっていくさまに、脳が焼けそうだった。こんなおままごとみたいに擦り合わせているだけなのに、こんなに気持ちいいなんて。
アレクを見下ろせば、全く余裕の無い顔でその擦り合わさる下半身を凝視していた。俺は自分のズボンのベルトに手をかける。ベルトを引き抜いてズボンと下着の前を寛げると、既に芯を持った俺のペニスが飛び出してきた。
アレクはそれを見て思わず、といった感じで俺の太ももを掴んだが、俺は構わずに少し腰をずらし、今度はアレクのズボンを脱がせにかかった。何でこんなに面倒くさいんだよ、というような複雑な作りのベルト金具を外し、ズボンのボタンも外した。下着も指をかけてめくれば、途端に勃起したアレクのペニスが現れる。長身のアレクに見合ったそこはなかなかの大きさで、俺は先の方を指でくるくると触った。
……何これ。硬っ。
ガチガチである。俺のももう片方の手で触ってみたが、明らかに硬さが違う。やっぱり若いからこんなところにも張りがあるのか?なんて考えつつも、こんな硬くて長いものが俺の中に出入りする事を考えたら、たまらなくなった。
ぐにぐにと刺激をすると、アレクがはあ、と熱いため息を漏らす。俺と目が合うといつもなら恥ずかしそうにしたりしてくれるが、アレクはただ恍惚とした表情を浮かべているだけだった。……ああ、いいな。俺をもっと欲しがってくれ。
ついでとばかりに俺のものとアレクのを直接触れさせあって擦ると、俺もアレクも声が漏れた。
「っ……」
「アレク、……んっ」
布越しで既にガチガチにしていたアレクだが、こうして直接一緒に合わせると益々大きくなっていった。凄い……早く、欲しい。
俺はアレクの股の間に座り込み、ズボンと下着を脱いだ。俺、素っ裸よりも着衣派なんだよな。アレクが気に入るかは分からないが、とりあえず下半身は裸で、上ははだけた状態になり足を広げて見せた。
先日使用人が用意してくれていた香油を、俺はポケットの中から取り出す。断じてこういう場面になったら使おうと目論んでいた訳じゃない。ただ一人遊び用に欲しいな、と思って拝借していただけである。今日もきっと仮面舞踏会の後、アレクが恋しくなったりするかもしれないと思って、一人で使おうとしていただけだ。……最近、たまにだけど、誰かさんを思って一人……後ろを弄っていたから。
香油をたらり、と手に伸ばし、後ろの孔に塗りこんだ。アレクに見えるように孔を広げて見せれば、いつの間にか上半身を肘で押してやや起き上がっていたアレクが、案の定そこに釘付けになっていた。
ああ、普段はあんなに可愛いのに。そうやって俺を欲しがっている顔は雄の顔で、格好よくて胸がキュンと締め付けられる。
俺は香油を塗りたくった指を一本、二本と中に侵入させる。
「ん、……ぅ……」
ぐちぐち、と濡れた音がする。それすらも興奮材料になりながら、俺は孔を解した。さすがに経験のなさそうなアレクに、男の尻を広げるなんて事させられない。今日はお兄さんの俺が全部リードしてあげないと。
指で孔を広げながら、わざと中のイイところを掠める。びりっとした快感が身体中を走り、俺も息が上がって余裕がなくなってきた。自然と声も漏れてしまい、止まらなくなっていく。
「あ、アレクっ……っ!」
「……」
見せ付けるように指を動かす。本当に、俺ってこんなにはしたなかったんだ。過去に何人か恋人もいたし、そういう事もいくらでもした。なのに、ここまで奔放に振る舞ったことなんて無いししようとも思わなかった。相手がアレクだとどうしても盛り上がっちゃうな。
なんて考えて少しだけ笑いそうになった時、突然アレクがぐいっと俺の胸元を後ろに押した。体勢を崩した俺はベッドに倒れ込み、講義の声をあげようとしたが……それは叶わなかった。アレクは俺に顔を近付けて、性急に舌をねじ込んできた。
「ん、ぁっ……ま、まてっ……」
「……っ」
アレクが俺の上に馬乗りになっている。筋肉質な男は重く、体が動かせそうにない。
口の中を縦横無尽に舌が舐る。舌と舌が絡み、上顎は舌先でなぞられ、俺はゾクゾクとした快感に身悶えた。そうこうしている間に俺の中に突っ込んでいた指も抜き取られ、代わりに今度はアレクの指が俺の孔の中に突き立てられる。
剣や弓の修行をしてきたその指は節くれだち、ゴツゴツとしていた。普段優男で可愛い王子様の意外な一面に、内心キュンとして堪らない。
いや、しかしな。それにしても……アレク……上手くないか?色々。
アレクの指は俺の中を的確に広げていった。しかもわざとみたいに俺のイイ所を外して、でもたまに掠めて。俺はもどかしい快楽に身を捩る他無かった。
「ぁ、ああっ……アレク……」
「限界?」
「早く、くれよ……あと乳首も触って……」
アレクは小さく唸り、もう片方の手で俺のはだけたシャツを避けて、既に期待してぷっくりと立ち上がっていた乳首をつまみ上げた。と、同時に腹の奥の感じるところを指で擦られて、俺は仰け反って喘いでしまった。
ズボンと下着を下にずらし、アレクがそそり立った自身のペニスを数回扱いた。先程よりも更に凶悪に育ったそれに、俺は身震いする。そしてアレクは先端を俺の後ろにあてがうと、容赦なくずぶっと突き入れてきた。
「あ、あああっ……!むり、でかいっ」
「無理じゃない……マクシムのここは熱くてぬかるんで、私を受け入れてくれている……」
「ひ、ぅ……っ」
覆いかぶさってきたアレクの背中を掻き抱き、俺は必死に衝撃を受け流した。痛くは無い。でも何だかすごいものが俺の中を貫いている。その感覚は未知すぎて、俺は少しだけ怖くなった。しかしそれもつかの間、アレクは早速と言わんばかりにゆるゆると腰を動かし始めた。
待て、無理!硬い!めちゃくちゃ俺のいいところに当たりまくる……!
一突きされる度に、俺の前立腺が抉られて、脳から溶けそうな程気持ち良かった。俺は最早ただ喘ぐだけの機会に成り下がり、必死に快楽を受け入れる以外に出来なくなってしまった。
「あ、アレクっ!……やば、ぁあっ!」
「はぁ、気持ちいい?マクシム……」
「良すぎ、るっ……」
良すぎてやばい。こんなの知ってしまったら、他の男となんて出来なくなるじゃないか。どうしてくれるんだ……と頭の片隅で思いつつも、まともな言葉はもう口から出てこなかった。アレクは俺の中を穿ちながら、せっせと言いつけを守って俺の乳首にも愛撫をくれた。中を擦られながら乳首も摘まれ、俺はもう限界だ。
「あ、もう、イくっ……!」
「マクシム、愛してる……もう貴方無しの生活には、戻れない……」
「おれ、も……っ、ぅ、あああっ!!」
我慢できず、俺は盛大に仰け反って絶頂を迎えた。イってる。盛大にめちゃくちゃにイってる。なのにアレクは腰を止めてくれなくて、俺はおかしくなりそうだった。アレクもラストスパートのようで、俺の中を遠慮なくゴリゴリと擦った。だから、硬すぎるんだって……!
イった余韻に浸ることすら許されず、中の敏感なところを擦られ続けた。俺は頭を降って嫌がったのに、アレクは容赦なく腰を振る。
「や、無理、なんか……来るっ」
「なんでもいいよ、マクシム……乱れたところ、もっと見せてくれ」
「いや、やだ、ああっ!!」
ぷしゃ、と俺の前で何かが弾けた。脳天を突き抜けるような快楽に頭が真っ白になって、一瞬そのまま意識が飛びそうになる。
う、と呻いて、アレクも達したようだ。俺の後ろに熱いものを感じた。しばらく放心状態で何も出来なかったが、少しずつ意識が戻ってくる。恐る恐る下を覗けば、案の定……俺の腹は白と透明の液体でビシャビシャに濡れていた。
俺、潮吹きさせられた挙句に中出しされた?
マジかよ、と戦く俺に、アレクはチュッと可愛らしい音を立ててキスをしてきた。
「マクシム……可愛かった」
「……」
……俺は騙されたぞ……。
てっきりアレクは経験もあまりなくて、純粋ピュアな歳下くんだとばかり思っていたのに。こんな一面とテクを隠し持っていたなんて、聞いてない……。
身勝手にイかされまくったのも、アレクの過去の片鱗を感じたのも、何となく腑に落ちないのだが……。まあ俺も過去は色々あるしな。それに、気持ち良かったのは事実だし。
アレクの腕が俺の体に回され、ぎゅっと抱き締められた。それだけでふんわりとした降伏感に包まれる。しかも結局は抱きついてくるアレクが可愛くて仕方が無いのは事実だ。
俺の負けか……敵わないな。
そう思いつつ、俺もお返しとばかりにアレクの額にキスを送るのだった。
───────
結局、マリーベル嬢はその後別の他国の貴族に嫁いでいく事が決まったらしい。アレクに夢を抱けなくなった少女は、他国の王子に夢を託したようだ。まあ他の国の慣習にも疎そうだし、あの夢見がちなレディがどこまで耐えられるのかは知らないけど。とりあえず俺の大胆な作戦がきいたようで何よりである。
俺たちが熱烈に愛し合ってから一ヶ月。偽装の恋人から本当の恋人に昇格しても、俺たちも周りも特に何も変わらなかった。以前は俺たちが連れ立っているだけでヒソヒソとされたものだが、最早皆慣れてしまったようで誰も噂すらしない。人の噂というものはまあそんなものだろう。
以前と違う事は、俺が頻繁にアレクの別邸に行って二人で過ごす事が増えたくらいか。街でのデートもたまにするのだが、アレクも俺も顔が割れているのでなかなか街を自由には歩き辛い。なので最近ではデートする時は専ら、人気のない丘の上などでピクニックや乗馬をするくらいだ。
相変わらず俺が揶揄うと戸惑って耳を赤くしてしまうアレクだが、夜はいつも最終的俺の方が翻弄される事が多い。それもまた毎回悔しい話である。
さてそんなある日、いつものように仕事が終わった週末の夜にアレクの別邸で睦んでいた頃、何事も無いような口ぶりでアレクが言った。
「ああ、そうだ。一つ残念な報告があって」
「ん?なんだ」
「私とマクシムの婚姻は、やはり大っぴらには認められないらしい。身分的な難しさがあってどうしようも無いと、父と母からは言われてしまった」
「………………」
「しかし元から私には兄たちもいるし、後継者としての役割は求められていないから、安心して欲しい。なので神殿で取り仕切る実際の婚姻は難しくとも、簡易的な式や事実婚は認めてくれるらしい」
「はあ?」
「だからマクシム、私と結婚してくれるか?家はこの別邸を改装するか、もし希望があるなら別のところに移ってもいいし」
はあっ!?どういう話だ!何も聞いてないんだが!
俺は驚いてベッドから起き上がった。
「ちょっと待て!俺たち結婚するのか!?」
「ああ。根本的な身分は変えられないものの、公的な場にはマクシムを伴侶として連れ立ってもいいと言われた。それでも大々的な式は上げられないし、父と母は呼べなくて申し訳無いんだが。上の兄は来てくれるらしいが」
「ちょ、ちょ……」
混乱する俺に、アレクは眉を下げた。
「……勝手に話を進めてしまったのは謝る。しかし相談しても、マクシムは取り合って貰えないと思ったんだ」
「そりゃ、そうだろ。だって俺は私生児だぞ。アレクとじゃあ身分が違いすぎて……」
「そうだ。マクシムは弁えてしまって、何も言わなかった。俺を好きだとは言ってくれたけど、その先を望んでいないのは分かっていた。だから先に父と母に話を通して、どうにかマクシムとこれから先も居られるようにしたかった」
アレクが俺の手を取り、ぎゅっと握った。アレクが俺を見つめるその真剣な眼差しに、目が離せなくなる。
「前にも言ったが、私はもうマクシム無しじゃ生きられないんだ……。寝ても醒めても貴方に翻弄されているし、ずっとそうされたい。捕らわれてるんだ」
「アレク……」
「どうか私と、結婚して欲しい。もちろん王命等では無いから、断ってくれてもいい。この関係も変わらない、私がマクシムを離さなければいい話だから。でももし……マクシムが良いと言ってくれるのなら、これから先もずっと貴方と居られる確証が欲しい」
可愛いアレク。俺なんかをそんなに欲して、根回ししちゃうだなんて。だけどさあ、きっと俺がアレクにベタ惚れで可愛いと思っていて、アレクの頼みを断るなんてしない事……本当は分かってるんじゃないのかな。
この策士め、と思わなくもないのだが、まあなんでも可愛いからいいか。結局翻弄されているのは、果たしてどちらなのか。
俺はアレクの首に手を回し、顔を近付ける。
「俺、魔性の男とか言われてるけど、案外純愛派なんだよな」
「知っている」
「だから浮気とかも許さないし、ちょっとでも他に目移りするのも絶対に嫌だ。俺だけを見ててくれないと」
「それは保証する。むしろ、私だってそれは許さない」
「ならいいよ。ずっと俺の事見て」
「もちろん」
アレクはホッとしたように笑った。いきなり結婚を進めておいて、その実受け入れられるのか不安でいたんだろう。そういう所が可愛くて、歳相応だなあと思ってしまった。
どちらからともなく、俺たちは顔を傾けてキスをした。ゆっくりとした優しいキスで、俺はなんとなくふわふわとした気持ちになった。
偽装の恋人騒動からまさかこんな事になるだなんて、誰が想像出来ただろう。これから先、身分の事もあってどうなるのか不安もある。ただそれでも、この可愛くて俺の事が大好きな伴侶が隣に居ればどうにかなるんじゃないかと思うのは、俺が楽観的だからだろうか。
だが何かあったとしても、俺は持てるものはなんでも持って勝負できる。せいぜい魔性の男として、アレクを離さないように頑張らないとな。
俺はうっそりと微笑み、アレクに言った。
「じゃあもう一回、俺の前で跪いてプロポーズして」
「……」
途端に恍惚とした表情で、俺を見つめるアレク。ゆっくりと立ち上がり、俺の目の前に膝をついた。その顔はほんのり上気していて、俺を欲しているのがありありと見て取れる。
アレクが俺の手を取り、その甲に口付けた。そうして俺に愛を乞う姿を見て、俺は高揚感に包まれる。
きっと俺たちなら、これから先も上手くやれるだろう。俺はにっこりと微笑み、可愛いアレクの髪をそっと撫でるのだった。
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