王道な物語の裏では

ふじの

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 あ、これ転生ってやつじゃん。
 うわー本当にあるんだあ……じゃねえわ。いやマジか。

 よくあるお決まりのテンプレというやつだ。俺は前世を思い出す…そう、ここがBL漫画の世界だという事を。そして俺は所謂攻めって分類される奴で、この国の王様だった。いや笑えん。
 しかも何で今思い出した?という感じで、俺は謁見の間で大勢の人達が周りで跪いているのを見ながら玉座に腰掛けた瞬間…突然思い出したのだ。



 『来世も君と共に』だったかそんなタイトルの漫画で、実は俺は前世で読んだ事があった。ハーレクイン風のBL漫画で絵柄もノスタルジーを感じる作品だったのだが、何故かそういう作品って時代を巡り巡ってまた流行ったりする。
 舞台はここグレイソン王国、俺の名前は確か「リオン」でこの国の王。幼い頃から聡明で美形の王子で、嫉妬や裏切り暗殺未遂その他もろもろのトラウマがあり人間不信。王に即位した後も数多の側室には目もくれず執務に明け暮れている。しかし女装して側室となり潜り込んでいたエラーザ国のルイス姫…もといルイ王子に惚れ、すったもんだの後結ばれるとかそんな話だった筈だ。

 対する俺の前世は日本生まれ日本育ち、可もなく不可もなくな顔立ちの中肉中背男子で、特に夢もなく適度に働く営業マンだった。三十歳を超えても彼女は一人もおらず…いや、それには理由があって…実は俺はゲイだったのだ。男らしいガッチリした男性がタイプで、時々某飲み屋界隈で好みの男を引っ掛けては夜な夜な交渉して抱かれていた。
 しかしそれ以外はごくごく普通の男だった。だが確か三十代中頃に突然病気になり発作で倒れて…そう、多分俺は死んだんだ。そして生まれ変わり…前世で流行っていたこのBL漫画のキャラクターに転生したらしい。
 そんな事ってあるか?
 しかも何の因果か俺の前世での日本の名前は莉音(りおん)、この世での俺の名前もリオンなのだ。



「陛下、如何なさいましたか」

 話し掛けられ、ハッとする。やばい。今は謁見の最中だったのに、突然の前世の記憶にフリーズしてしまった。
 先日川を挟んで隣にある敵対国との戦争も無事終わり、派遣していた騎士団が無事凱旋し戻って来ているのだ。今は王である俺に無事の帰還を報告する為の謁見の最中だ。

「いや、構わん。続けろ」

 うわあ…なんだか若干慣れない。不遜な話し方慣れない。
 さっきまでは生まれながらの孤独な王だったが、今の俺は三十年以上普通の日本人として生きてきた意識が覚醒してしまったのだ。こういう話し方は少し慣れない。本当に何で突然こんな所で前世なんか思い出すんだよ俺は…。とにかく偉そうな感じで、頑張って演技しなくては。そのあたりは体に染み付いているだろうと期待する。
 そう内心決心していると、俺の座っている玉座の段差の前に一人の鎧を着た男が出て来て跪いた。

「無事王命の元帰還致しました」
「よくやった。負傷者の家には保証を、残った者には褒美を授ける。騎士団長であるそなたにも特段に褒美をやろう」
「有り難き幸せに御座います」

 この男は確か王国騎士団長のフィン。俺がザ、王様な感じの金髪碧眼優男風イケメンなのに対して、この男は黒髪緑眼寡黙イケメンで、まさにこの物語の受けであるルイ王子を取り合うライバルな仲だった筈だ。俺、リオンと騎士団長フィンは身長も同じ位で、実は同じ乳母に兄弟も同然で育てられた仲だった。フィンの生まれは百年以上王家に仕える公爵家で、つまりは俺の側近になるべくして生まれて来た存在だ。しかしその体躯の良さや秀でた剣術から、側近となるよりも騎士として第一線で活躍する方が適正だと判断した俺の采配でフィンは王国騎士団長になる。
 そして物語は進み、リオンとフィンはその後一人の姫…実際には女装した王子だが、を取り合うバチバチな関係になってしまう訳だ。

 今も確かに言われて見れば、何となく…睨まれている様な気もする。既に俺は嫌われているのかもしれない。
 けどなあ。俺な…どう考えてもあのルイ王子…タイプじゃないんだよな。寧ろお前の方が好みなんだが…。元のリオンは知らないが、日本でゲイとして三十年生きてきた前世の方の俺は可愛い系男子よりも男らしい男が好みなんだ。

 とまあ俺の好みはさておき、とにかく今はボロが出ない内にさっさとこの場を終えよう。

「謁見を終える」

 不遜な感じに言い放つと、俺はさっさと立ち上がり謁見の間を後にしたのだった。




 さて、そこから俺は執務に追われる毎日が始まった訳だが、これが案外どうにかなった。曲がりなりにも王として生きてきた記憶も混在しているので、難なく仕事自体はこなせた。
 問題がもしあるとすれば、誰一人として俺、リオン王が心を開いている人物が周りに居らず、寧ろ若き王を暗殺しようだとか陰謀の動きばかりが目に付く事だ。これは歳若い以前のリオン王なら病むよなあと思い片っ端から不穏な因子は取り除いているのだが、如何せん日本人としての記憶の蘇った今の俺は強かった。何せ十年以上営業職に就いてきただけの事はある。顧客から罵倒されたり、同期から営業成績を横取りされても俺は強かに生きてきた。メンタルは相当強いんだ。


 暫く経ったある日の夜、晩餐会が催されていた。
 帰還した騎士団の慰労も兼ねているとは言え、これは体の良いお見合いパーティーなのでは?と気が付いたのは談笑している騎士達や貴族の娘達を見た時だ。帰還した騎士達はみんな位が上がるか爵位や土地を貰った者も居るので、未婚の貴族の娘には格好の相手だろう。
 まあ好きにしてくれ。俺はゲイなので側室をこれ以上増やすつもりも無いし今だって十人近く側室は居るのだが、一度たりとも側室の部屋に渡った事すらない。今日も側室達全員がこの晩餐会に出席しているが、皆自分のライバルの姫達を蹴落とそうと何やら会場の端で火花を散らせている。
 勝手にしてくれと思うが止めて欲しい。揉め事はゴメンだ…。
  そんな感じでげんなりしながら椅子に座っていると、近くに誰かやって来たので俺は視線を上げた。

「こんばんは」
「…ああ」

 側室の一人であるルイス姫だ。姫に成りすましているが、本名はルイ王子…原作の物語ではリオンの相手となる受けの男性だ。
 着飾っているが清楚で嫋やかな雰囲気のあるルイ王子は確かに目が覚める様な美しい姫だ。小柄で線が細いので女装に違和感が無い。
 確か原作でリオンは、ルイ王子をずっと姫だと思い込んで接する内に愛してしまう。当のルイ王子もリオン王に惹かれていくのだが、自分が男であると言い出せず苦悩する。そしてラストの方で男だとバレてしまい断罪され捕えられる。殺されそうな所にリオンが「男でも女でも関係無い、ルイスを愛しているんだ」とか言って救い出してめでたしめでたし…だったか。
 いや世継ぎはどうすんだって話なんだが。確かリオンには年の離れた弟が居て、その子が二十年後くらいに継ぐから構わない…とかそんな話だったかな。さすがご都合主義のファンタジーである。

 そう、だから何と言うか…このルイ王子自身は訳あって姫の格好をしているだけで、根は優しくて真っ直ぐな良い王子だ。
 しかし大きな問題がある。原作のリオンはこういう男がタイプなのかもしれないが、俺は全くタイプじゃないという事だ。
 今も目の前で笑うルイ王子は可愛いなあとは思うが、全然性的魅力を感じない。困ったな…このままだと原作の漫画通りにこの王子を愛するのは難しいだろう。断罪される所は助けたいと思うが、恋愛関係になるのならもっと背が高くて筋肉隆々の男が良い…。そう、フィンみたいな男が良いんだ俺は。ああいう屈強なイケメンに抱かれたい。
 俺が内心そんな事を考えているとは露知らず、ルイ王子が話し掛けてくる。

「先日はありがとうございました。助けて頂いて」
「ああ」

 あ、思い出した。確かルイ王子は田舎の国出身だからと他の姫に虐められているんだったか。それを偶然目撃した俺に助けられて、そこからこの二人の交流が深まっていくんだった。
 『来世も君と共に』は勿論全部読んだんだが、流行りだから読んだだけであって流石に詳しいストーリーなんかは忘れている部分もある。そうそう…それで仲を深めていくが、途中ライバルであるフィンが出て来たりして。その後ルイ王子とリオンが良い雰囲気になってキスしたりうっかり押し倒したりハプニングがありつつ、そこで告白してからの断罪の流れだったか。
 だとすれば俺が全然仲を深めようとしなければルイ王子との恋愛は成立しないのか。それとも何かの不可抗力で勝手にくっつけられるのか、そのあたりは要検証だ。

 今もまさに原作では晩餐会を二人で抜け出して暫く語り合うシーンだった筈だが、とりあえず今の俺は恋愛の相手としてはルイ王子に興味が無いので、適当にあしらっておこう。

「しかしルイス、この様な公の場で堂々と話し掛けてくると他の姫君達が煩い。お前自身の身を案ずるのなら良く考えて行動するように」
「あ、そうですね!すみません」
「いい。内部抗争が起きぬ様私も気を配っておく。行け」

 ルイ王子は顔を青褪めさせて離れていった。彼が田舎の国の出身なのは本当で、こういう時にどう振る舞えばいいのかも分かっていないのは事実だ。だから虐めに発展してしまうのだが…まあ虐めはする方が悪いしな。他の姫達にも目を光らせておこう。


 疲れた俺は護衛を数人連れて会場を離れ、バルコニーの方に出た。護衛を遠くに配置させ自分はバルコニーの縁に腰掛けた。

 やっぱり疲れるなあ…王様生活は。
 何と言うか、ストレス発散の場所が無い。俺は前世の日本では良くバッティングセンターに行ってボールを打ったり、美味いラーメン屋巡りも営業の合間にしてみたり、あとはパチンコやスロットなんかも休日楽しむ男だった。後は時々男にガンガンに抱かれてもいたし、適度にストレスの発散が出来ていた。
 しかし今この王様暮らしは本当に忙しいのに退屈な上に、暗殺未遂や裏切りばかりなのもあって結構な緊張感が常に有り、気が休まる時が無い。パチスロもラーメンもこの世界に無いにしてもせめて、俺を抱いてくれる酔狂な男は居ないのか。いや居ないか…こんな背が高くて普通にガッチリしたキラキラのザ、不遜な王様の俺を抱いてくれる男なんてこの世界中探しても居そうにない。
 メンタル自体は強いからどうにかなるはなるけど、せめて何か息抜きは欲しいなあなんて考えながら俺はため息をついた。


 その時、晩餐会の会場の方から一人の男が歩いてきた。また暗殺の類か?と思い視線をやると、なんとフィンだった。
 今日は騎士の制服を着ておらず真新しいスーツとコートに身を包んでいて、後ろに流した黒髪が最高に格好良い。思わず見蕩れていたが、不機嫌そうな顔のフィンを見て表情を引き締めた。

「フィン、どうした」
「……いえ、陛下がお一人で外に出られたので、心配で付いて参りました」
「護衛は付けている。心配無用だ」

 何故かむっとした顔をするフィンだが、そんな顔も格好良い。


「…そう言えば先程、ルイス姫とお話をされていましたが、何をお話されていたんですか」

 そこで俺はピンとくる。なるほど、不機嫌そうな顔の正体はこれか。ルイス姫を好きなフィンは俺の動向が気に食わないのだろう。

「特段変わった事は話していない」
「…お好きなんですか、ルイス姫が」

 あ!このシーン、覚えている。確かこの後リオン王は「好きかは分からないが、守らねばならない」とか言って、そこからこの二人の姫の取り合いが始まるんだった。この時既にリオンもフィンもルイ王子の事が気になっていたんだろう。
 しかし俺は…全くもって気になってもいないし、好きではない。王城内の揉め事は避けたいなくらいの感情しかないので、素直に答えるしか無い。

「興味は無い」
「……てっきり、陛下はかの姫がお好きなのかと…特別に目に掛けていらっしゃる様でしたので」
「ただ王城内での揉め事は避けたいから気を配っていたに過ぎん。特別な感情は側室達誰一人として抱いてはいない」
「そうでしたか…失礼致しました」

 ほっとした様な表情をするフィンは可愛いが、それがルイ王子を思っての表情だとすると少し寂しい。こんなイケメンには俺も気に掛けてもらいたい。
 まあ少しくらいなら良いだろうと思い俺はフィンに提案する事にした。

「フィン」
「はい」
「最近、私の身辺が煩い。元からではあるが特に最近は多い」
「ああ…あの木陰にいる影もそうでしょう。始末して参りましょうか?」
「いい。こんな場所に堂々と配置されている暗殺者等どうせ切っても黒幕は掴めん。しかし煩わしいのも事実だ。そこでフィンに頼みがある」
「何でしょうか」
「俺の護衛をして欲しい。常にとは言わん。貴殿が空いている時間で構わないから私の部屋や私を護衛してくれ」
「それは…しかし既に陛下は多くの護衛の騎士を配置されておいでですが」
「フィン以上に腕の立つ騎士はいない事は先の戦争で証明された。お前に頼みたい」
「御意に。陛下の為ならこの命を捧げてでもお守り致します」
「騎士の忠誠は有難いが、お前に死んでもらっては困る。程々に守れ」
「……御意」

 王国騎士団に属する者は皆王に絶対の忠誠を誓っている。だからと言ってフィンも死ぬ気で王命を遂行して欲しい訳じゃない。しかも俺の護衛なんて…本当は足りてるのに、個人的に顔が見たいからやって欲しくて頼んでるに過ぎないし。
 それでも跪いて胸に手を当てて、忠誠のポーズを取ってくれるフィンに内心ときめきが隠せなかった。





 さて、フィンは真面目な男だった。
 日中フィンの方に仕事が無い時は常に俺の事を遠くから護っているようで、どうやら夜も俺の部屋の前や窓の外をこっそり警備してくれているらしい。他の護衛の騎士達から聞いた。
 一応恋敵なのに優しいというか真面目というか…俺は感動した。昔からフィンはこういう実直な男で、リオンは好ましく思っていたと記憶している。
 しかし遠くから見守られても…せっかくのイケメンが拝めなくてつまらないな。なんて下世話な思いを抱いて気を抜いていたからか、夜中就寝後に暗殺者集団に襲われた。十人はいる精鋭の集団だったが、俺の護衛達が一斉に飛びかかり乱闘が始まる。フィンも何処からかやって来て応戦の末、暗殺者集団は捕えられた。流石といった感じでフィンが加わってからは一瞬で片がついた。
 暗殺者集団は地下牢に連れて行き、俺の側近に尋問を任せた。俺が行っても良いのだが…如何せん…眠かった。

 最近本当に忙しくて忙しくて、そのくせ日々に癒しがなくてしんどい。潤いが無い。せめて犬や猫でも飼って癒されたいとすら思ったが、俺を殺そうとする人間は動物すら囮に使うかもしれないと思うと安易に飼うのも難しい。
 疲れきっていた俺は眠かった。明日は幸いにも午前の仕事が無いレアな日だったので、せっかく熟睡出来ると思ったらこの乱闘騒ぎだ…。それでも少しでも寝たい。
 俺は護衛達に声を掛け再び部屋の外に配置につかせた。最後に残ったフィンにも声を掛ける。

「フィン、良くやった。お前のお陰で無事捉える事も出来、私も無傷だ。明日褒美を取らせる」
「お心痛み入ります、ありがとうございます」
「では下がれ」
「失礼ですが陛下。つかぬ事をお伺いしますが…最近おやつれではないですか」
「別に変わっていない」

 いや嘘だ。やつれている、間違いなく。本当に疲れが酷いんだ。だから寝たいんだよ俺は。

「しかし…」

 やや心配そうに此方を見ているフィンは優しい。そこで俺はピンと来た。

「ではフィン、ここに横になれ」
「……はい?」
「このベッドだ。横になれ」
「え?」
「早く」

 フィンはぽかんとしているが、俺が指をさしているのは自分が腰掛けている王のベッドの上だ。天蓋付きの超キングサイズベッド。
 意味がわからなそうな顔のフィンだったが、王の命令には逆らえないので静々とベッドの上に仰向けで寝転んだ。

「あの…国王陛下の寝所に横になるのは…恐れ多いのですが」
「構わん」

 俺はフィンが寝転んだ真横に自分の体を滑り込ませた。ぎょっとする気配が伝わってくるが、お構い無しに俺はフィンの逞しい体に抱き着いて頭をフィンの肩口に埋めた。
 これこれ。これだわ…!
 硬い筋肉に覆われた大きな身体にうっとりする。フィンは俺の理想の男の体型だ。本気で体の触れ合いすら無い生活は健康に悪すぎるので、少しくらい良いだろう。
 そっと視線をフィンの方にやると、固まったまま天井を見つめていたので少し笑ってしまった。何もノンケに抱いてくれと言う訳じゃない。少しくらい理想のイケメンの筋肉を堪能するくらい許して欲しい。
 すりすりと肩口に頭を擦り付けながら腕をフィンの胸元に置くと、漸くフィンの方が口を開いた。

「あの……これは一体」
「良いだろう、少しくらい。私は疲れているんだ。それに昔はよくこうして一緒に眠っただろう」
「本当に小さい頃の話です」
「そうだったな」

 懐かしい。小さな頃はまだ権力も地位も関係なく、俺達はただ仲が良い友達として遊んだり勉強に励んでいた。それが徐々に明確な生まれの差を肌で感じ、王となるべくリオンは感情を押し殺し生きていく事となる。
 生まれながらの王っていうのは孤独なんだなあ、と転生して日本人としての記憶が蘇った今だから尚更感じる。地位と権力と金さえあれば幸せって訳にはいかないもんだ。

 俺は触れる暖かい胸板と体に次第にウトウトしてきた。もっと性欲が刺激されるかと思ったけど、やっぱり疲れの方が大きいのかなあ。なんて思いながら目を閉じたが、再びフィンがおずおずと話し始める。


「陛下は、俺の事がお嫌いだったのでは無いのですか」
「…は?何故」

 謎の発言に少し目が覚める。フィンの方を見ると、天井から此方の方に視線が移っていた。間近で見る精悍なイケメンの顔と美しい瞳にときめく。先程性欲は刺激されないと言ったが怪しくなってきた。

「俺がお嫌いだから…俺を側近に置いて下さらなかったのでは」
「そんな訳が無い。確かにフィンは私の側近第一候補として生まれ育ったが、お前は圧倒的な体躯の良さに恵まれた上に剣術が秀でている。側近として政治に関わるより騎士団の方が向いているだろうと私が進言した」
「…そうだったのですか。俺はてっきり…」
「言っていなかったか、すまんな。お前の事を忌み嫌う等有り得ん。昔からお前の事は誰よりも信頼しているし、頼りにしている。でなければこんな事はしない」
「っ…」

 ぎゅ、と目の前の逞しい肉体に腕を回すと、フィンはそろ、と遠慮がちに俺の腕を掴んだ。その大きな手と節榑立った指にもキュンとしてしまう。
 暫く堪能していると突然その俺を掴んでいた手に力が篭った。え?と思う暇もなくぐるっと体の向きが変わり、気付けば仰向けになって俺の上にフィンが伸しかかっている状態になっていた。
 唖然とする俺を他所にフィンは俺の頬を触り、もう片方の腕で俺の腰に腕を回して抱き込んだ。自然と近くなる体と体、密着する腰と腰に官能が呼び起こされそうになってドキドキと心臓が煩い。目前に迫るその顔は何故か苦渋の表情を浮かべているがそれすらも格好良い。
 最高だ。何だかよく分からんが最高だ…。
 俺はほわりとなって見蕩れていたが、対するフィンは苦しそうに言葉を発した。

「申し訳ありません」
「何が」
「陛下は俺を信頼していると仰ったが…それを裏切る様な事を陛下にしたいと思ってしまいました」
「フィンがする事で私が裏切りを感じる予感がしない。私を殺すのならば話は別だが」
「まさか!…しかし、陛下の尊厳を殺してしまうかもしれません」
「私の尊厳は易々と死なない」
「ああ…リオン陛下」

 頬を撫でていたフィンの手がそっと俺の唇の端に降りて来て、そのままフィンの顔も近付いてくる。そして俺の唇とフィンのそれがそっと重なった。

 ……え?…え!?
 どういう事だ!?頭がパニックになるのを他所に、フィンは角度を変え俺への口付けを深めた。そして気付くとぬめ、とした厚い舌が俺の口内に侵入して来て俺の舌を絡め取り、上顎も舌で撫でられた。
 ディープキスだ。ぞく、と体が反応してしまったからか、フィンが俺の腰を抱く力を強めた。いやまずすぎる…俺のとフィンのアレが擦れ合ってしまっている。しかも何ならフィンのはギンギンのバキバキっぽいし、俺のもちょっと勃起してきているのを感じる。布越しに擦れ合うのがもどかしい気持ち良さなのと、俺自身転生覚醒してから全然オナニーもしていないのでだいぶ欲求不満だった。擦れ合うだけでだいぶ引く程感じてしまい、若干「んっ…」とキスの合間に喘いだのが更にまずかったらしい。フィンのキスがより激しくなって腰なんかがぐいぐい押し付けられるものだから、俺はフィンの口の中に向かってくぐもった喘ぎ声を放つ他無かった。

 いやいやちょっと待て…フィン。俺の信頼を裏切る様な、俺の尊厳を殺すような事って、まさかセックスしたいって事!?
 何で!?お前はルイ王子、いやルイス姫の事が好きな一応ノンケの男の筈だが!
 体はどんどん高められていくが頭は混乱の極みだった。しかし何であれフィンは俺の理想、タイプど真ん中の男だ。抱いてくれるならむしろお願いしますって感じではある。


 俺が制止しないからなのか、フィンの動きはより大胆になっていった。俺の腰に回していたフィンの腕の拘束が解けたのも束の間、フィンは俺の下半身に手を伸ばした。俺はシルク素材のローブ型の寝巻きを着ている為、いとも容易くフィンの手の侵入を許してしまう。触れられたそこは下着越しでも分かるだろう位に濡れて勃起してしまっていた。
 するりと裏側を撫でられるだけで俺の体は跳ねた。だってもうこの世界ではそんなの無理だろうな…と思っていた夢にまで見る抱かれる側の愛撫だ。期待感に体が勝手に熱くなって感じまくってもおかしくはないだろう。
 フィンのもう片方の手がはだけて露になった俺の上半身に伸ばされる。腹筋を撫でられてそのまま胸の方に移動した。大丈夫なんだろうか。オレはフィン程では無いにしろそこそこ筋肉もある男だし、身長も大してフィンと変わらない位のでかい男だ。もちろん胸も平ら…というか筋肉しか付いていないが、ノンケの男ならそろそろ冷めてもいい筈だ。しかしフィンは俺の胸ですっかり立ち上がっていた乳首の方を掠める様に触れ、俺が身を捩ったからかしつこく捏ねくり回してきた。

「ん、あっ…フィン…っ」
「……」
「あ、はぁ……ん…ぁっ…」

 気付けば俺は勝手に足が大きく開脚していて、フィンに向けてそこを晒していた。フィンは俺の下着を取り去って勃起して濡れたそこを握って擦りながら、乳首もこりこりと摘み上げてくる。
 俺は髪を振り乱して喘ぎ、腰が揺れた。フィンはそんな俺を凝視するかの様に無言で見つめてくる。ガタイのそこそこ良い男で一応は上司のこんな痴態を見て、楽しいのかは分からない。ただ下に目をやるとフィンのズボンの前がめちゃくちゃに盛り上がっているので、俺を見て冷めずに興奮してくれているのが分かり嬉しくなる。
 俺は下の方に手を伸ばし、そのフィンの膨らみを触った。びっくりした様にフィンの俺を攻める動きが止まるが、俺はお構い無しにそこを撫でた。ズボン越しに触っているだけなのにみるみる大きくなっていくので可愛いなあなんて思ってしまった。素直で真面目なフィンらしさがそんな所にも出ている。
 けど…なんと言うか、めちゃくちゃ大きい。マジで大きい。こんなの俺の尻に入るんだろうかと不安もあるが、まあ慣らしてくれればいけるだろう。なんでこんな展開になったのか未だに分からないけど、またいつフィンが乗り気になってくれるかも分からない。抱いてくれるなら最後まで抱いて欲しい。

 そんな事を考えながらさわさわとそこを撫で続けていると、フィンの手にやんわりと静止されてしまった。何でだよ、と不満げにフィンの顔の方に視線を上げたが…そこには真っ赤になったフィンがいた。
 耳まで赤い。え、何それ可愛い。

「陛下…その様な事はしなくて結構です」
「何故」
「…いや、あの……陛下に触られていると思うだけで、その…出てしまいそうなので」

 マジか…それだけでイって出ちゃうのか。可愛いがすぎるだろう。
 俺とフィンは同い歳とは言え、俺自体の中身は三十代まで生きた記憶がある。何となく年下を相手にしている様な気持ちになってしまい、可愛くてキュンとした。

 俺は「じゃあお前が触れ」と言って、自分で両足を開いてさらに広げて見せた。フィンは赤い顔のままごくりと喉を鳴らす。
 扱かれていた方の手が今度は下に下がってきて、先走りが垂れて濡れた俺の後ろの孔に触れた。ぬるぬるとその零れた先走りのおかげでぬめる孔の入口を触られて俺は震えた。歓喜と期待に。
 そして指が漸く一本侵入してくる。この体は転生前の日本人だった頃みたいに開発されていないので、若干指一本でもキツさを感じる。表情を見て察した様で、フィンが俺の膝の裏を持って腰を持ち上げ…なんとそのまま顔を近付けて舐めてきたのだ。

「ば、馬鹿、さすがにそれは汚い…ぁ、んっ」
「陛下に汚い所等有りません」
「んっ…ぅ、ひぁ…」

 お尻を撫で回されながら、その孔にフィンの舌が捩じ込まれるのを感じた。流石の俺でも羞恥心が凄い。やめろと言いたいけど、確かにここには俺のそこを濡らす道具なんてものは無いんだ。なら仕方が無い…いや仕方なく無い。いくら騎士として王に忠誠を誓っているにしても、そんな所舐めたら駄目だろ。
 確かにそう思っているのに、熱く濡れた舌が俺の中を蹂躙しているのを感じてしまいどうでも良くなってしまう。しかも俺の視線の先にはまさにフィンに舐められているそこと萎えない自分の勃起が広がり、視界的にもやばい。
 フィンは舌を捩じ込ませたその隙間から指も一本入れてきた。ぐい、と広げる様に動くが時折奥の上側のあたりに指が触れると俺の尻が勝手に揺れてしまう。おかげでフィンは学習しそこばかり狙うようになり、俺は喘ぎながら耐える他無かった。
 もう一本、もう一本と指が増やされるにつれて俺の後ろの孔はとろとろに解されてく。漸くフィンの顔がそこから離れた頃には、後ろの孔どころか俺の全身が蕩けてぐずぐずになっていた。

 はぁはぁと息を乱す俺を見て漸くフィンが自身のズボンの前を寛げた。まさにボロン…て効果音が合いそうな程にでっかいソレが勃ち上がっているのが見える。結構解されたけど…ちゃんと入るのか。微妙に不安になる俺を他所に、フィンは俺の後ろにその勃起したものを押し付けた。俺はやはり期待と不安でそこがうねるのを感じながら身を捩る。


「陛下」
「ん、何だ…」
「何故…全て拒否されないのですか。このままでは本当に、俺は貴方を…抱いてしまう」

 はあ?今更?
 そう思った俺だが、フィンの不安そうな顔を見て口には出さなかった。まあ…確かに。不遜な上司の王様が突然盛った部下の騎士を叱るどころか受け入れて自分で股開いてるんだから、フィンも驚いてるのかもしれない。
 でもだったらそっちだっていきなり俺を抱こうとしてる理由教えろよって感じもするし、とにかく俺はもうそんな事はどうでも良くて早くそれを入れて欲しくて堪らなかった。そんな風に焦らす様に入口に勃起を宛てがわれたままだと、もう疼いて疼いて仕方が無い。

 俺は再度下に手を伸ばし、フィンの勃起を手で掴み少しだけ腰を下にずらした。
 先端の半分程だけだが俺の中に入ってくるのを感じる。
 ああ、やばい。早くガンガンに突いてくれ。欲しすぎてどうにかなりそうだ。

「、陛下…っ」
「あ、もう、早く…」
「しかし…っ」
「私が許可してるんだ…見れば分かるだろ。早く…っ」
「ああ…リオン陛下」
「あっ、あああ…っ!」

 ずぶ、と待ち望んだものが俺の中に入ってくる。フィンは遠慮なく俺の腰を掴むと、一気に最奥まで貫いてきた。悲鳴の様な声を上げつつ俺は目の前の体にしがみつく。
 苦しい。でも最高に気持ちが良い…。


「あ、ひ!…んんっ、フィン…っあ、激しい…っ」
「はぁ、陛下…」

 フィンは俺の中を遠慮なしに穿ち始めた。その先端が俺の気持ち良い場所に当たると、俺の孔は勝手にうねりぎゅっとフィンを締め付ける。フィンはその刺激で益々獣の様に盛り俺を穿つ。そんな悪循環なのか好循環なのか分からない状況で俺はどんどんと高められていった。
 最高だ…これだよこれ。抱かれる側しか分からないこの後ろの奥の快感と、逞しい体に抱かれて好き勝手されちゃうこの背徳感。最高すぎる…。
 頭も馬鹿になりそうだ。もうこの目の前の体とあそことフィンの事しか考えられなくて、ただひたすら俺は喘いだ。

「んっ!フィン…ぁっ、う…んんっ!」
「はあ、…はぁ…我が君、リオン様…」
「あ、だめ、イきそう…っあ、ああ…っ」
「愛しています…」
「え?な…?んっ、あっ!」

 待て、今なんて言った?
 なんか聞き捨てならない言葉が聞こえた様な気がするんだが…しかしそれを確かめようにも腰の動きを止めてくれないフィンに翻弄され、まともな声が出ない。

「あ、ああっ…!フィン…っ!」
「…リオン様…」
「ん、あ、来る…っあ、あああっ!」
「…っ」

 感じているところを重点的に抉られ、俺は盛大に果てた。びくびくと波打つ体を止められない。前から放たれたもので腹が汚れているが、気に止める暇が無い。

 やばい…中の刺激でイくのやっぱり最高すぎる…こんなのを一回でも体が知れば、もう元には戻れないんだよな…。
 俺と同時にイったフィンも眉根を寄せて目を閉じて快楽に耐えている。マジでイケメン。顔も体も良い上に夜まで強いとか最強…。
 そんな馬鹿な事を考えながら、俺は続く絶頂感に意識を飛ばすのだった。





 その日から俺達はセフレになった。多分…そんな感じだと思う。
 うっかり同衾してしまった次の日の朝、目が覚めると顔を青褪めさせたフィンが既に起きていて、俺のベッドの横に神妙に跪いていた。
 絶対ろくでもない事を考えてるよなあと思い、俺は安心させるために身を乗り出してフィンの額に口付けを贈った。フィンの性格からして忠誠を誓う王を襲って手篭めにしたとか思ってそうだから、そんなんじゃなくて同意ですよという意味を込めての口付けだ。
 その瞬間見せたフィンの照れた様な顔は、後世に語り継ぎたいくらい可愛かった。ギャップのあるイケメンは至高である。

 そうして度々俺達は寝るようになった。寝るって言うのは文字通りただ寝るだけじゃなくて、体の関係有りの寝るという意味だ。
 夜フィンが自室の警備をしている所を俺が連れ込むのが基本の流れなんだが、一回だけ図書室でヤった事もある。城の図書室はとにかく広くて人も余りいないので、本棚の奥の方でヤるにはもってこいだった。まあ別にそこでヤろうと話し合った訳でも無く、たまたまお互い盛った結果そこでする羽目になったのだが…あれは良かった。天井が高いから声が響くのを抑えようとするのもまた盛り上がりに一役買った。
 しかし真面目なフィンは終わった後「さすがに外ではもうしません」と言って目を合わせてくれなかったので、次は無かった。残念。

 結局フィンは何故俺を抱いてくれるのか分からず終いだ。まあ俺の方も「ガタイの良いイケメンに抱かれたい願望が強いゲイなので抱かれてます」なんて言える訳も無く、お互いなあなあで話さないまま体を重ねる日々が続いた。
 最初の夜に何となく「愛してる」とか言われた様な気もしたんだが、如何せん突っ込まれて喘いでいる途中だったので記憶が定かでは無かった。しかもそれ以降一度もその言葉を聞いた事が無かったのもあって、俺の気の所為または初回リップサービスてやつかもなと俺は考えた次第だ。




 そんなこんなで日々は過ぎ去り、ある日王の執務室に宰相が飛び込んで来る。

「陛下!」
「どうした」
「エラーザ国のルイス姫が、なんと男なのを偽り姫として輿入れしておりました」

 宰相が「今は牢に繋いでおります。これは王家、ひいてはこの国に対する侮辱です」と言ってわなわなと怒りに震えているのを横目に、ああもうそんな時期かと俺は達観しながら思った。
 断罪のシーンだ。
 確か原作『来世も君と共に』では次第に仲良くなっていく俺とルイ王子が描かれ、告白騒動の後にこの断罪が待っていた筈だ。しかし当の俺はフィンとの肉欲の日々に溺れ、正直ルイ王子の事は忘れていた。ごめん。
 まあ女装していたくらいで処刑になるのも可哀想だという点とは別に、この女装バレからの断罪は俺を貶めようとしている一派が絡んでいる。これがきっかけでエラーザ国と戦争を起こして、その隙に俺を殺して王座にのし上がろうとする叔父の一派だ。
 そもそもルイ王子はとある姫の身代わりとなってこの国に嫁いで来ているのだが、その辺も俺の叔父が黒幕で絡んでいる。地位と権力に目が眩んだ人間のやる事は醜い。

 とにかくこんな事で戦争に発展する必要は無いし、ルイ王子も死ぬ必要は無い。ただ叔父の悪事は暴いておく必要がある。原作では俺が直接ルイ王子が囚われている牢屋に出向いて助け、その足で叔父の所に行き悪事の証拠を突きつけすったもんだのざまあ展開、叔父は牢屋行き、関わった貴族達は処刑か家ごと取り壊しで島流しになった筈だ。
 しかし俺はルイ王子の事は好きでもなんでもないし、わざわざ叔父の所にも出向く必要は無いだろう。王は王らしく使える駒を使って秘密裏に処理しておこう。

「宰相、そちらは問題無い」
「はい?」
「黒幕がいる」

 俺は叔父の息のかかっていない宰相、他騎士団員と裏で俺が雇っている公安的な役割を果たす暗躍部隊に指示をして、叔父や叔父一派の悪事の証拠を掴ませて叔父を捕らえさせた。
 呆気ないものだ。まあ俺は原作漫画を読んでいたおかげでそのあたりもスムーズに事が運べたという訳だ。
 そしてルイ王子も釈放させた。また俺の所にお礼に来ようとしていたので、それはもういらないから男の格好に戻り王子として生きろと進言した。暫くしてからルイ王子はこの国を旅立って、故郷に帰ったと手紙で知る事になる。



 あー忙しかった。
 元々王の通常の執務ですら忙しいのに、それに加えて叔父関連の処理が多すぎて疲れていた。
 しかし俺を殺そうと一番躍起になっていた叔父が居ない事もあり、俺を狙う暗殺はかなり減った。減っただけであるにはあるというのがやはり王の大変さを物語っているんだけども。

 今日俺は、久しぶりに早い時間に既に入浴も終えて眠ろうとしていた。忙しすぎた事もあって、そう言えば最近フィンとセックス出来てないなとベッドの上で気が付いた。
 フィンは居るかなと部屋のドアを開けると、案の定フィンが俺の部屋の前に立って警備をしてくれていた。他にも護衛の騎士たちが数人立っているが、お構い無しに俺はフィンの腕を掴んで部屋に引きずり込む。
 後ろ手に部屋の鍵を閉めると、何故かフィンは驚いた様な顔をして此方を見ている事に気が付く。はて?俺は何度もこうやってフィンを寝室に連れ込んでいるし、何故今更驚いているのか良く分からない。
 よく分からないがいつも通りフィンの手を取ってベッドの方に歩き、そこに腰掛けた。しかしいつもなら隣に座る筈のフィンが、何故か俺の目の前に唖然とした表情で突っ立っている。俺はますます頭の上にハテナを飛ばした。

「どうかしたか」
「……いえ、陛下は…まだ俺を所望して下さるのだと思い…」
「はあ?」

 どういう事?いやここ最近忙しくて全然フィンと絡めてなかったが、たかが一ヶ月程度の話だ。それで何でそんな展開になるんだ。
 俺が訝しんでいる所に、フィンが苦渋の表情で続ける。

「陛下は、ルイ王子を好いていらっしゃったのでは無いのですか」
「いや、前にも話したが私はルイス姫も、ましてやルイ王子も興味が無い」
「しかし陛下自ら彼の愚行をお許しになって、牢からも解放するよう進言なさったとか」
「たかが女装をしていたくらいで処刑する等愚鈍な王のする事だ。ましてやルイ王子の女装劇は裏で叔父上が手を引いていたのだ」
「……そうだったのですか、俺は、てっきり…もう……」

 崩れ落ちる様にフィンが俺の前に跪いた。ついでにその端正な顔に大粒の涙を流して泣いているのを見て、俺はぎょっとして焦る。
 慌てて俺がフィンの頬に手を伸ばして涙を拭うと、フィンはポロポロと泣きながら俺の手に擦り寄った。

「まだ俺を見限らずにいて下さるのなら、陛下、貴方が正妃を娶られるまでの間で構いません。俺をどうか傍に置いて下さい…」
「……」
「愛しています」

 はあ?え!?
 待て…いや待て。愛していますって…えマジか。
 あの初めてフィンと寝た日に聞こえた言葉は、リップサービスでも空耳でも無かったって事?いや早く言えよ。もっとちゃんと意識がある時に言えよ。俺こそてっきりセフレだと思ってたじゃん。
 しかも断れる訳が無い。だってフィンは俺が転生に気付いて覚醒した時に初めて見た時から俺のタイプのイケメンで、ガタイが良くてあそこも大きくて夜の相性も抜群な上に、こんなに可愛くて真面目な男で…誰が振るんだ。願ったり叶ったりだ。

 俺は涙に濡れたフィンの頬をそっともう一度撫でて、顔を近づけてその唇にキスをした。涙のせいで少し塩辛い。
 フィンのびっくりしたような顔でぱちぱちと瞬きをする潤んだ目元が綺麗だ。俺はにっこりと笑った。

「正妃を娶るまでと言わず、ずっと生涯を共にして欲しい」
「は、え…いや、…しかし…」
「王座は弟に継がせる。まだ時期が早く大分先の話になるが…それでもお前が良ければ」
「とんでもない…。陛下、本当に良いのですか…俺で」
「フィンがいい。お前ほど理想の男に出会ったことは無い」
「ああ、リオン陛下」

 がばっとベッドの上に押し倒されて俺は仰向けになった。すぐさまフィンが俺に熱い口付けをしながらやわやわとアレを揉んでくるものだから、俺は途端に蕩けてしまった。

「愛しています。初めてお会いした時からずっと」

 口付けの合間にフィンが言う。いややっぱりおかしいな。原作の漫画では俺とフィンでルイ王子を取り合うんじゃなかったのか。どうして最初からフィンが俺を好きな設定になっているんだ?
 疑問は残るが、まあもうどうでもいい。とにかく俺は今ただひたすらフィンの熱を感じたかった。俺は体の力を抜いてフィンにその身を委ねた。

 ああ、そう言えば。
 さっきするりと言葉が出て来てフィンに「生涯を共にして欲しい」なんて言ったが、あれは原作ではルイ王子に言う言葉だったと思う。まさか同じセリフを恋敵だった相手に言う事になるとは。
  けどまあ、俺自身は理想の男と結ばれて、ルイ王子だって今は故郷に帰って楽しく暮らしているだろう。二人ともハッピーエンドなのは原作通りで間違いじゃないよな。

 そう勝手に都合良く結論付けて、俺はルイ王子ではなく騎士のフィンとの未来を思い描いて微笑んだ。
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