6 / 9
第6話 ニッパル王国へ
しおりを挟む
親方主導の下、村の復興作業と葬式が行われた。60人近くいた村人の半数が黒い球体に取り込まれた。その中にはシエラと母さんも…。
うちの村はシンパラン教を崇拝しているため葬式はシンパラン教の方法で執り行われる。主神シンパランの下へ、安全に行けるように死者の灰を篝火かがりびの中へ入れる。
だが、肝心の死者の灰が無いのでどうしようか迷ったが、神父様が「この場合は死者の持っていた物を燃やして灰にします」とのことでそのように進んだ。
みな故人の持っていた物を持ってくる。そして、順番に火にくべていく。火はマーリン師匠が用意してくれた。とんでもなく熱い炎だ。
「ッ!待ってシエラの母さん!」
「シロウくん!?」
シエラの母さんの持つ物を見て思わず声をかけてしまった。それはしおりだった。しわくちゃになって今にも切れてしまいそうなユリの花びらの半分を押し花にしたしおりだった。
「これ…。なんで…。」
「これはね、娘が1番大事にしていた物なの。いつもこのしおりを大事そうに持ち歩いてね。一度ゴミだと思って捨てようとしたらすごく怒られてね…。」
シエラの母さんがしおりのエピソードを話してくれる。どれだけ彼女にとって大事だったのかを。
そのしおりは俺と一緒に作ったしおりだ。村の近くの草原で遊んでいる時に見つけたユリを半分にして2人でマーリン師匠に頼んで押し花にしてもらった。
「シエラ…。シエラとその時、約束したんです。」
「約束?」
「このしおりが使えなくなるまで2人で支えて合おうって。俺はその約束を破ったんです。いつもあいつに支えられているのに肝心な時に支えてやれなかった。」
そう俺は破った。彼女との約束を破ってしまった。だが、彼女はそれでも俺を支えてくれた。
それに報いなければ死以外の方法で。最大限の感謝を込めて。
シエラの母さんに謝罪をして、父さんの下へと戻る。父さんは母さんの大事にしていたかんざしを持っていた。その綺麗なかんざしは、父さんが母さんと結婚する前に王都で買ってくれたものだと母さんはいつも自慢していた。本当に仲のいい自慢の両親だ。
「シロウ。俺との約束、覚えてるか?お前が村に入ったら俺はお前を殴るという。」
「!うん。覚えてるよ。」
そう言うと父さんは俺のことを強く抱きしめた。
「お前は約束を破った。そして、俺もこうやってお前を殴らず抱きしめている。これでチャラだな。」
「…聞いたよ。みんなのために体張って頑張ってくれてたんだってね。シロウは本当に強くなったね…。」
「父さん…。兄さん…。」
涙がほろほろと出てきた。まだ、俺には残されていた。家族が大好きな父さんが、兄さんが。
そして、その人たちの愛情を一心に俺は受けている。いつもの父さんの温かな抱擁に包まれてそう思った。
********
葬儀が行われ、翌日から村の復興作業が始まった。あまりにも村がボロボロな為、各々寝るところがない。このままだと雨風に打たれて死んでしまう。
村のみんな総出で一つ一つ家を建てていく事となった。
-5日後–
簡易的な家が全家庭に作られたころ、馬に乗った10人の兵士が村を訪れた。
そいつらはニッパル国のグリーンソルジャーだった。マーリン師匠が送った電報を受け取り飛んで駆けつけたらしい。
「『マーリン・カサブランカ殿。目撃者を連れて至急ニッパル国へ参られたし。対策会議を開くため貴殿にも出席いただきたい。』との事です!」
「あい分かった。準備する。シロウ!お主も行くぞ!」
「は、はい!…でも今若いのが抜けたら。」
ただでさえ家づくりや本業の鉱山や農業で人手不足だと言うのに、今抜けてしまったら村の復興が遅れてしまうじゃないか。
「なあに心配するでない!ここの村の男衆は他の村よりも屈強じゃよ。お主のようなヒョロガリが抜けてもなんともないでの。カッカ。」
「「その通りだ!」」
村の男が一斉に言う。これはこれで泣きそうになるな。
「まあそういう事だ。行ってこい。ヴァルドラグの拠点は王国だろ?下見はしとかねえとなぁ!」
父さんが俺の背中をバンバン叩く。
「痛たた。そうだね。うん。そうだ。…行ってくる!」
「シロウ。」
「兄さん…。」
振り返ると兄さんが悲しげな表情で立っていた。だが、その表情も一瞬ですぐにいつもの明るい兄さんになった。
「いってらっしゃい!村のことは気にしないで。また戻って来れるんだから。」
「うん!」
「…それではお二方の身支度が整い次第王国へ向かいます!村の入り口にてお待ちしております。」
そこから家に戻って身支度を整えて村の入り口へ向かう。入り口にはもうマーリン師匠がいた。
「P陣形じんけいを組め!…それではお二方、中の馬へお乗りください。」
「すっげえ…。」
隊長らしき人が号令を言うと、一糸乱れぬ動きで陣形を組み、8人が外で2人が内側に動いた。
そして、馬に初めて乗ったのだが不安定な感じがなんともいえない。
「これから、ニッパル王都へ向かう!全体進め!」
生まれ育った村がどんどん遠ざかっていく。寂しさが込み上げてくるが我慢だ。
それにしても王都か…どんな所だろう。
そうだ。それよりもまずは言わないとな。さっきは言いそびれちゃった。大きく息を吸って、
「行ってきます!」
うちの村はシンパラン教を崇拝しているため葬式はシンパラン教の方法で執り行われる。主神シンパランの下へ、安全に行けるように死者の灰を篝火かがりびの中へ入れる。
だが、肝心の死者の灰が無いのでどうしようか迷ったが、神父様が「この場合は死者の持っていた物を燃やして灰にします」とのことでそのように進んだ。
みな故人の持っていた物を持ってくる。そして、順番に火にくべていく。火はマーリン師匠が用意してくれた。とんでもなく熱い炎だ。
「ッ!待ってシエラの母さん!」
「シロウくん!?」
シエラの母さんの持つ物を見て思わず声をかけてしまった。それはしおりだった。しわくちゃになって今にも切れてしまいそうなユリの花びらの半分を押し花にしたしおりだった。
「これ…。なんで…。」
「これはね、娘が1番大事にしていた物なの。いつもこのしおりを大事そうに持ち歩いてね。一度ゴミだと思って捨てようとしたらすごく怒られてね…。」
シエラの母さんがしおりのエピソードを話してくれる。どれだけ彼女にとって大事だったのかを。
そのしおりは俺と一緒に作ったしおりだ。村の近くの草原で遊んでいる時に見つけたユリを半分にして2人でマーリン師匠に頼んで押し花にしてもらった。
「シエラ…。シエラとその時、約束したんです。」
「約束?」
「このしおりが使えなくなるまで2人で支えて合おうって。俺はその約束を破ったんです。いつもあいつに支えられているのに肝心な時に支えてやれなかった。」
そう俺は破った。彼女との約束を破ってしまった。だが、彼女はそれでも俺を支えてくれた。
それに報いなければ死以外の方法で。最大限の感謝を込めて。
シエラの母さんに謝罪をして、父さんの下へと戻る。父さんは母さんの大事にしていたかんざしを持っていた。その綺麗なかんざしは、父さんが母さんと結婚する前に王都で買ってくれたものだと母さんはいつも自慢していた。本当に仲のいい自慢の両親だ。
「シロウ。俺との約束、覚えてるか?お前が村に入ったら俺はお前を殴るという。」
「!うん。覚えてるよ。」
そう言うと父さんは俺のことを強く抱きしめた。
「お前は約束を破った。そして、俺もこうやってお前を殴らず抱きしめている。これでチャラだな。」
「…聞いたよ。みんなのために体張って頑張ってくれてたんだってね。シロウは本当に強くなったね…。」
「父さん…。兄さん…。」
涙がほろほろと出てきた。まだ、俺には残されていた。家族が大好きな父さんが、兄さんが。
そして、その人たちの愛情を一心に俺は受けている。いつもの父さんの温かな抱擁に包まれてそう思った。
********
葬儀が行われ、翌日から村の復興作業が始まった。あまりにも村がボロボロな為、各々寝るところがない。このままだと雨風に打たれて死んでしまう。
村のみんな総出で一つ一つ家を建てていく事となった。
-5日後–
簡易的な家が全家庭に作られたころ、馬に乗った10人の兵士が村を訪れた。
そいつらはニッパル国のグリーンソルジャーだった。マーリン師匠が送った電報を受け取り飛んで駆けつけたらしい。
「『マーリン・カサブランカ殿。目撃者を連れて至急ニッパル国へ参られたし。対策会議を開くため貴殿にも出席いただきたい。』との事です!」
「あい分かった。準備する。シロウ!お主も行くぞ!」
「は、はい!…でも今若いのが抜けたら。」
ただでさえ家づくりや本業の鉱山や農業で人手不足だと言うのに、今抜けてしまったら村の復興が遅れてしまうじゃないか。
「なあに心配するでない!ここの村の男衆は他の村よりも屈強じゃよ。お主のようなヒョロガリが抜けてもなんともないでの。カッカ。」
「「その通りだ!」」
村の男が一斉に言う。これはこれで泣きそうになるな。
「まあそういう事だ。行ってこい。ヴァルドラグの拠点は王国だろ?下見はしとかねえとなぁ!」
父さんが俺の背中をバンバン叩く。
「痛たた。そうだね。うん。そうだ。…行ってくる!」
「シロウ。」
「兄さん…。」
振り返ると兄さんが悲しげな表情で立っていた。だが、その表情も一瞬ですぐにいつもの明るい兄さんになった。
「いってらっしゃい!村のことは気にしないで。また戻って来れるんだから。」
「うん!」
「…それではお二方の身支度が整い次第王国へ向かいます!村の入り口にてお待ちしております。」
そこから家に戻って身支度を整えて村の入り口へ向かう。入り口にはもうマーリン師匠がいた。
「P陣形じんけいを組め!…それではお二方、中の馬へお乗りください。」
「すっげえ…。」
隊長らしき人が号令を言うと、一糸乱れぬ動きで陣形を組み、8人が外で2人が内側に動いた。
そして、馬に初めて乗ったのだが不安定な感じがなんともいえない。
「これから、ニッパル王都へ向かう!全体進め!」
生まれ育った村がどんどん遠ざかっていく。寂しさが込み上げてくるが我慢だ。
それにしても王都か…どんな所だろう。
そうだ。それよりもまずは言わないとな。さっきは言いそびれちゃった。大きく息を吸って、
「行ってきます!」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる