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第四章 不変
勝敗
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「だんまりして、どうかしたか?」
「いや、別に。」
アシオンは振り返り元の位置へと戻っていった。その隙に俺は自分の手首を治す。そうしなければこのあと手合わせできない。一本取られたままで終わるわけにはいかない。そのあとはアシオンの攻撃を避けるのに徹した。同じ轍は踏まない。
「逃げてばっかりだな。」
アシオンに煽られたが、俺は気にしなかった。攻撃の隙を伺っていたのだ。だが、その隙は一向にやってこない。大剣は攻撃モーションが大きい分、振り切ったあとに隙ができると思ったのだが、それが全然ない。一歩踏み込んでしまえば、大剣の餌食になってしまいそうだった。
「オラオラ。そんなんじゃオレは倒せないぜ。」
アシオンは攻撃の手を緩めることはしなかった。俺はアシオンの強さを認める。だが、隙は誰にでもできるものだ。俺はアシオンの手の力が緩まる瞬間を見逃さなかった。
「おりゃああああ‼」
だが、トレーニングルームには俺の叫び声しか響いていなかった。俺は寸でのところで剣を止めたのだ。勝ちを確信して止めたわけではない。むしろその逆だった。
「なんだよ。気付いたか。」
アシオンはわざと隙を作ったようだった俺の腹にはアシオンの大剣が脇腹にあたっていた。もし、これが戦場であれば俺は死んでいただろう。
「完敗だ、強いな。アシオン。」
「ビスもな。ここまでやるとは思わなかったぜ。いい汗掻いたし今日はここまでだな。それに腹が減った。じゃあまた後でな。」
そう言うとアシオンは先にこの部屋を出て行ってしまった。これが敵ということであれば非常にまずいだろう。正直そうであって欲しくなかった。俺はそう願う。
一つ重大なことを忘れていたことを思い出す。そして案の定俺は空き部屋の前で正座をしていた。
「お前、途中で逃げ出したな。」
「いえ、そのつもりはなかったんですが。ちょっと休憩していただけです。」
「言い訳はいい。・・・はあ、やっぱりお客さんに仕事を手伝わせるのは性に合いません。」
ドイボさんは前の姿に戻っている。どこかに切り替えのスイッチがあるのかと思うぐらい切り替えが一瞬だった。
「午後はしっかりやりますから。」
「いえ、もういいです。・・・あっ。別に怒っているわけではないですよ。もうモルテさんがほとんど終わらせてくれましたのでやる仕事がないんです。」
いつの間に。さすがモルテというべきか。俺が言い出したことなのに、ほとんどをモルテにやらせるなんて申し訳ない気持ちで一杯になった。
「すみません。」
「別に謝らなくて大丈夫ですよ。ビスさんもよくやってくれました。なので、午後はゆっくりしてください。どうやらヘトヘトのようなので。」
俺が何をしていたのかもお見通しみたいだ。ここはお言葉に甘えよう。
「ありがとうございます。」
「じゃあ、お昼を部屋に届けますので待っていてください。」
そう言ってドイボさんは足早に去っていった。
「はあ、俺は何をしているのだろう。」
「いや、別に。」
アシオンは振り返り元の位置へと戻っていった。その隙に俺は自分の手首を治す。そうしなければこのあと手合わせできない。一本取られたままで終わるわけにはいかない。そのあとはアシオンの攻撃を避けるのに徹した。同じ轍は踏まない。
「逃げてばっかりだな。」
アシオンに煽られたが、俺は気にしなかった。攻撃の隙を伺っていたのだ。だが、その隙は一向にやってこない。大剣は攻撃モーションが大きい分、振り切ったあとに隙ができると思ったのだが、それが全然ない。一歩踏み込んでしまえば、大剣の餌食になってしまいそうだった。
「オラオラ。そんなんじゃオレは倒せないぜ。」
アシオンは攻撃の手を緩めることはしなかった。俺はアシオンの強さを認める。だが、隙は誰にでもできるものだ。俺はアシオンの手の力が緩まる瞬間を見逃さなかった。
「おりゃああああ‼」
だが、トレーニングルームには俺の叫び声しか響いていなかった。俺は寸でのところで剣を止めたのだ。勝ちを確信して止めたわけではない。むしろその逆だった。
「なんだよ。気付いたか。」
アシオンはわざと隙を作ったようだった俺の腹にはアシオンの大剣が脇腹にあたっていた。もし、これが戦場であれば俺は死んでいただろう。
「完敗だ、強いな。アシオン。」
「ビスもな。ここまでやるとは思わなかったぜ。いい汗掻いたし今日はここまでだな。それに腹が減った。じゃあまた後でな。」
そう言うとアシオンは先にこの部屋を出て行ってしまった。これが敵ということであれば非常にまずいだろう。正直そうであって欲しくなかった。俺はそう願う。
一つ重大なことを忘れていたことを思い出す。そして案の定俺は空き部屋の前で正座をしていた。
「お前、途中で逃げ出したな。」
「いえ、そのつもりはなかったんですが。ちょっと休憩していただけです。」
「言い訳はいい。・・・はあ、やっぱりお客さんに仕事を手伝わせるのは性に合いません。」
ドイボさんは前の姿に戻っている。どこかに切り替えのスイッチがあるのかと思うぐらい切り替えが一瞬だった。
「午後はしっかりやりますから。」
「いえ、もういいです。・・・あっ。別に怒っているわけではないですよ。もうモルテさんがほとんど終わらせてくれましたのでやる仕事がないんです。」
いつの間に。さすがモルテというべきか。俺が言い出したことなのに、ほとんどをモルテにやらせるなんて申し訳ない気持ちで一杯になった。
「すみません。」
「別に謝らなくて大丈夫ですよ。ビスさんもよくやってくれました。なので、午後はゆっくりしてください。どうやらヘトヘトのようなので。」
俺が何をしていたのかもお見通しみたいだ。ここはお言葉に甘えよう。
「ありがとうございます。」
「じゃあ、お昼を部屋に届けますので待っていてください。」
そう言ってドイボさんは足早に去っていった。
「はあ、俺は何をしているのだろう。」
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