ヒレイスト物語

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第二章 別れ

幕間

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 自室から玉座に戻る途中ヴァイセと雑談をしていた。
 行く先々で部下たちがお辞儀をしてくる。そして軽く挨拶を交わす。


「魔王様、おはようございます。ヴァイセ様も」


「ああ、おはよう。」



「そういえばあの件はどうなっている。」


 ヴァイセは首を傾げた。


「あの件とは何ですか?」


「ほらあの、なんだ。チャイルとの件だよ。
 この間喧嘩をして愚痴ってきたではないか。」


 その時もいや、それ以上の形相で私の部屋にやってきた。


「あー。あの件ですか。もう仲直りしましたよ。
 チャイルが謝ってきてくれたんです。
 それにこれをプレゼントしてくれたんです。」


 そういうと、必死に背伸びをして首元をアピールしてくる。
 どうやらネックレスをプレゼントされたらしい。


「お前は単純でいいな。」


「何か言いましたか?何か馬鹿にされたような気がしました。」


 別に馬鹿にしていないのだが、むしろそれが羨ましいとすら思ってしまう。


「お前らは仲がいいなと言ったんだ。」


 ヴァイセは体をくねらせる。


「なんだ。そういったんですね。それ程でもないですよ。」


「んっ、んっ。」


 咳払いをすると、何かわかったのかくねくねするのを止めた。


「それより、喧嘩するたび私の部屋に飛び込んでくるのはやめてくれないか。
 いつもいつも心臓に悪い。他に話す相手はいないのか?」


「申し訳ありません。その、話せる相手が魔王様しかいないんです。
 断じて、仲いいものがいないわけではないんですよ。

 ただ、私はこの見た目ですから、
 弱みを見せて舐められるわけにはいかないんですよ。」


 ヴァイセにも思うところがあるのだろう。


「はあ、まあ今度からは時間を考えてくれよ。
 毎回夜中に叩き起こされてはこちらの身が持たない。」


「はい、承知しました。」


 目を輝かせて言っていた。


「そうだ、魔王様はいい相手いないんですか。」


 まずい。変な話題になってしまった。どう切り抜けようか。


「いないよ。それに私はそういうことはいいんだよ。」


「そういうわけにはいきませんよ。魔王様が良くても周りが気になります。」


「そう言われてもな。私はそういうことに疎いんだ。
 それに今考えている暇はないだろう。」


 これで切り抜けられるだろうか。


「ダメです。考えてください。」


 ダメだった。


「それにチャイルに疑われるです。
 その、私たちの関係を。それが私たちの喧嘩の大抵の理由だったりするんです。」


 これはいい。この策でいこう。


「私たちの関係ってどんな関係だ?」


「言わなくてもわかるでしょう。」


「うーん。いくら考えてもわからない。教えてくれ。それも具体的に。」


 ヴァイセは言いづらそうにする。


「もう、魔王様わかって言ってますよね。
 あの、その・・・・・・手を繋いだりとか?」



 恥ずかしそうに言葉を発した。
 どれだけ初心なんだよ、と思ってしまう。
 笑いが漏れてしまう。


「ぷっ。そうか、手を繋いでいる関係か。
 それはまずいな。そう思われないように善処するよ。」


 というか、その一端はヴァイセにあるのではと思ったが飲み込む。


「お、お願いしますね。」


 ちょうどよくチャイルが現れる。


「お疲れ様です。魔王様。」


「おお、チャイルか。元気そうで何よりだ。」


「お仕事ですか?」


「ああ、そんなとこだ。ああ、それと、」


 私はチャイルの耳に顔を近づける。


「私とヴァイセはお前が思うような関係ではない。
 それと、ヴァイセのこと悲しませるなよ。そんな事したら、わかるよな?」


 語気を強めて言う。


「は、はい。承知しました。」


「それじゃ、チャイルも仕事に励むように。」



 チャイルから離れてから、ヴァイセに話かける。


「直接言ってやったから大丈夫だろう。」


「いや、何を伝えたのか分かりませんが、
 チャイルの様子を見ると、他のところを問い詰められそうです。」


 その言葉を聞いて確かにと思ってしまう。済まないヴァイセ。


「そんなことはないと思うぞ。」


 溜息をついている。


「はあ、そういうことにしておきます。」


 よし、これで切り抜けられた。


「そうだ、幹部たちはもう集まっているのか?」


「ええ、他の者に伝えるようにいっていましたので、
すでに集まっていると思います。
ただ、あの方たちはマイペースなところもありますので、絶対とは言えません。」


 癖もの揃いだからな、当たり前だ。


「まあ、集まっていなかったら、それはそれでいい。
別に問題はない。来ていなかったらあとで伝えておいてくれ。」


「承知しました。」




 玉座の前に着いた。扉を開けると、珍しく全員集まっていた。
 そして私が来たのがわかると、全員片膝を付いた。玉座に目を据えて言う。


「珍しいな。お前たちが全員揃っているなんて。」


 幹部の中の一人が言う。いつもこないやつが。


「本当ですね。こんな珍しいことがあるんですね。」


 こいつを除いてここにいる全員が思っただろう。


「お前が言うな‼」と。


 私は椅子に座る。隣にはヴァイセが立っている。




「さあ、始めよう。侵入者を排除するための会議を。」
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