ヒレイスト物語

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第二章 別れ

覚醒

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わかっている。わかっているのに聞いてしまう。


「何で、何で攻撃した?僕たちはヴォルフに任せるんじゃなかったのか。
 それにさっきのは殺すつもりで放っただろう‼」


「そんな約束していましたっけ?
 まあ、確かにヴォルフに相手をさせるとは言いましたが、
 私が手を出さない、とは一言も言っていませんよ。
 それに気が変わりましてね。そうした方が面白いと思いまして・・・」


 タドは真顔でそう言い放った。


「予想通りでした。いいですね。
 やっと人間が争いを起こす理由がわかったような気がします。」


 何を言っている?


「こんなに殺すことに高揚がある何て知りませんでしたよ。」


 ふざけているのか?


「ふざけるな。」


 こんな奴にペルが殺された?


「んっ?何か言いました?」


「お前だけは・・・」


「聞こえませんよ。はっきりしゃべってください。」


「お前だけは絶対に許さない‼」


 腹の底に溜まっていたものが噴出した。


「いいですね。いいですよ。ビス様。」


「うるさい。黙れ。」


 シェーンに何か声をかけられているような気がするが耳に入ってこない。
 僕は右手をタドに翳し”何か”を放つ。


 ドンっ


「そんなことしても無駄ですよ。んっ?」


 タドの左腕が吹き飛んだ。なのに、タドは平気そうで痛む様子もなかった。


「苦しまずに死ねると思うなよ。」


「ふふふっ。いい。いいですよ。ビス様。あなたもこちら側の人間だ。」


「黙れと言ってるんだ。」


 僕はまた魔法を放つ。だが、今度は防がれてしまう。
 さっきはタドの言う通り油断していたから通ったらしい。
 魔法の打ち合いが始まる。


「楽しいですね。こんなに高揚したのは久しぶりです。
 もっと、もっと楽しみましょう。ビス様。」


「黙れ。黙れ。黙れ。その口を開くな‼」


 タドは余裕そうだった。僕は冷静ではなかった。
 魔力をどれだけ使ったのかわからない。
 もしかしたら、僕の中にある魔力は使いきっているかもしれない。

 ただ、それでもよかった。こいつを殺せるなら。こいつに魔法があたり始める。


「ほう、やりますね。」


 ただ、威力が弱いらしい。それなら多くあてるだけだ。僕は両手を構える。


「避けきれなくなってきましたね。いいですよ。ビス様。その調子です。」


 攻撃の手を止めない。こいつに攻撃する隙を与えない。タドに傷が増えていく。


「はあ。こんなこと。初めてです。死が迫ってくるこの感覚。最高です。」


 僕は力を溜める。
 こいつの存在自体を残したくないと思いフィロが使っていた魔法を思い出した。


 そしてその魔法を放つ。



「ドゥンケル・ルント」



 こいつは避けるつもりはないらしい。魔法を迎え入れている。
 死を受け入れるように。

 そしてなぜか煙につつまれていた。





 消えていなかった。残っている。
 寸前で相殺したみたいだ。それに雰囲気が変わっていた。


「どうやら、私はまだ死ねないみたいです。
 私にも役割というものがあったようです。先に行っていますよ。ビス。」


 そういうと、タドは闇の中に消えていった。


「ま、待て・・・お前はここで殺してやる‼」





 そこで僕の意識はなくなった。





 ―――――――――――――――


「・・ビ・・・・ビス、起きてビス。
 私あなたまで死んだら立ち直れない。だから、起きてよ。お願いだから。」


 シェーンが僕に乗りかかって、僕の頬を叩いていた。


「痛いよ。シェーン。止めてよ。」


 シェーンは固まった。


「シェ、シェーン、大丈夫?」


 何も言わず僕に抱き着いてくる。


「心配したんだから。私の言葉を聞いてくれないし、私見てるしかできなくて。
 もう戻ってきてくれないって思っちゃったんだから。バカ。」


「ごめん。僕、タドを倒すことに必死になっちゃってた。」


 僕の体に異変はない。多分魔力が足りたのだろう。
 ただ、もう今日は魔法を使えないだろう。


「そういえば、ディグニは?」


「タドがいなくなった瞬間、落ちてきたの。
 危機一髪のところでクラフトが受け止めてくれて無事だった。

 今は二人で逃げ遅れた人たちを助けにいっているわ。
 まだ、ヴォルフも少し残っているし。

 ただ、ほとんどの人はそこにいるから。
 そんなに時間はかからないと思うわ。」


 よかった。二人とも無事で。


「ツァール兄様もこっちに来て指揮を執っているわ。」


 終わったんだ。やっと。長い闘いが。犠牲を払って。もう、終わりだと思いたい。僕は辺りを見渡す。傷だらけの人々、荒れ果てた町。そして、大切な人の死体。


「くっ。」


 夢だと思いたかった。悪い夢だと。でも、紛れもない事実。そう痛感する。
 僕はもう目を逸らすことはできない。思考を止めることさえ許されない。
 現実を受け止め、進まないといけないのだ。

 そんな僕から出てきたものは涙でもなく、湧き上がる闘志でもなかった。
 僕から出てきたものは・・・大きな溜息だった。


「ビスのせいじゃないわよ。誰のせいでもない。
 悪いのは全部、あいつのせいよ。」


「そうだね。あいつが何もかも悪いんだよ。あいつを倒さなくちゃ。」




 僕はうまく隠せただろうか。
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