ヒレイスト物語

文字の大きさ
上 下
18 / 171
第一章 出会い

しおりを挟む
コツ、コツ、コツ。どれくらい意識をなくしていただろう。
 足跡で目が覚める。今度は最初から視界が拓けていた。
 目の前にいる人物は初めて見る人だ。


「はじめまして。早速で申し訳ありませんが
 あなたのことについて教えていただけますか。」


 返事を待たずに、牢屋の鍵をあけ俺を隣の部屋に連れ出す。
 昨日見たあの部屋に。もちろん抵抗した。
 だが、抵抗の代償にボディブローを食らう。


 口のなかに酸っぱさが広がってくる。
 痛さで息も苦しく立てなくなり、男に引きずられてしまう。


「ちゃんと立って自分で歩いてくださいよ。だらしないなぁ。」


 言葉に狂気じみたものを感じる。
 隣の部屋に着くと椅子に固定され目隠しをされる。
 目隠しをされる時その男は耳元で囁いた。


「安心してください。質問に答えてくれたら、何も起きませんから。」


 視界が閉ざされた。何も見えず何をされるか不安で仕方ない。


「一つ目の質問です。あなたはどこの誰ですか。」


 答えるつもりはない。仲間たちを裏切るわけにはいかない。
 一時の沈黙はすぐに打ち破られた。



「ぐあああああっ」


「ははははっ。いい声で鳴きますね。」


 右手の親指が焼けるように痛い。
 ポチャン、ポチャン。鉄の臭いがかすかにする。


「次の質問です。あなたはなんで王国の近くにいたんですか。」


 はあはあ。今度はゆっくりと焦らすようにじわじわ痛みを与えてくる。


「っっ!」


 今度は声をあげなかった。それがお気に召さなかったらしい。


「つまらないですね。声をあげてくださいよ。」


「次の質問です。仲間の数は?」


 ブチっ。


「目的は?」


 ブチっ。


「フィロ王子のことを知っていますか。」


 ブチっ。


「好きな食べ物は?」


 ブチっ。


 もう途中から質問して間髪いれずに痛みがやってくる。
 終いには、質問の途中で痛みが走ったり、
 どうでもいい質問が飛んできたりした。

 それを繰り返され両手の指先がすべて焼けたような痛みが
 走ったところで意識を飛ばした。




 コツ、コツ、コツ。




「おはようございます。良くなられましたか。一日経っちゃいましたよ。」


 嘘だ。だが、確かめる術がない。
 また、最初と同じ質問を繰り返され、至るところに痛みが走る。
 足の指。腹。腕。足。歯。だんだんと意識が飛ぶのが早くなっていく。


 そして意識が戻るたびに「おはようございます。~日経ちましたね。」
 と告げてくる。座っているだけで焼けるように痛い。少し動くと激痛が走る。







 コツ、コツ、コツ。



「おはようございます。もう二ヶ月経っちゃいましたよ。」


 もう二ヶ月経ってしまったらしい。


「質問です。あなたはどこの誰ですか。」


 歯が半分以上失われ、もうすでに抵抗する気力が失せていた。
 それと反比例して痛みが大きくなってきていた。


「ぐうわわわっ。もぉふぉ、ひゃめてくぇれぇ。はぁなうから、はぁなうから。」


 言葉も十分に発せない。


「なんてしゃべっているか、わかりませんよ。ちゃんとしゃべってくださいよ。」


 ブチっ。ブチっ。


「はぁたし、っ!あはぁ、っ!」


 情報を話そうとした時、カチっカチっという音が突然し始めた。
 そして若干辺りが明るくなる。徐々に音は大きく、光は強くなっていく。
 ドタドタドタという音も聞こえてくる。


 

 私が最後に聞いた言葉は

「扉から離れろ。今すぐに!」

 というまともな人の声であった。





 バァァァァン!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...