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試作
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深夜二時。明日も朝から仕事だし、そろそろ寝ようと眼鏡を外す。
精密ドライバーをケースに仕舞い、散らばったネジをピンセットで拾い上げていく。最後に、組上がった細長い機械にシリコンカバーを取り付けた。
スイッチを押せば、細かく振動しながら先端をうねらせ、やや右を抉る動きを繰り返す。完璧な仕上がりだ。
明日、仕事が終わったら試験をしよう。
アラサー、独身、一人暮らし。恋人も友人もおらず、休日にやることといえばもっぱら趣味の機械製作だ。ところが最近はその趣味すらもこじらせつつある。
今作り上げているのは、自作の特製バイブだ。膣内の計測から始めて何度も試作を繰り返し、ようやく完成まで辿り着いた力作だった。
明日の期待に胸を膨らませ、布団に潜り込んだ。
翌日はもう仕事どころでは無くて、やるべき事をさっさとこなして帰宅した。
風呂場へと駆け込んで体を洗い、指で程々に慣らしてから特製バイブを突っ込む。
「ん…ん?」
振動を強めたり、前後に動かしてみたりと様々に使い方を工夫するが、しっくり来ない。刺激する場所は良いのだが、何かが一味足りないような。
不完全燃焼のままバイブを抜き取り、シャワーで洗い流してタオルに包んだ。丁寧に水気を取りながら思考を巡らせる。
私の膣は充分過ぎる程に計測、研究をしたし、バイブの方も狙い通りの動きをしている筈だ。やはり調査すべきは、あれだろうか。
「はぁ…。行くか」
熱を持つ体を持て余したまま、クローゼットから一張羅を取り出す。肩口から背中に掛けてレースをあしらった、通称エロ透けワンピースだ。
いつもより時間を掛けてメイクをし、ほんのりと香水を纏う。最後に緩く髪をまとめて完成だ。これなら機械オタクの女には見えまい。
小さなバッグにノートとペン、巻き尺を詰め込んで家を出た。
「お姉さん一人?お酒奢ろっか?」
体を突き上げるような重低音の中、バーカウンターで酒を飲みながら人混みを見ていると、ちゃらついた男が話しかけてきた。ちらりと目をやり全身をチェックする。身長、平均。体型、細身。
「ごめんなさい。私、背が高くてしっかりした体型の人を探してるの。貴方は少し、細すぎかな」
「あ、そ、そっか…、お邪魔しました…」
ヤバい女に話しかけてしまった、とでも思ったのだろう、男はそそくさと去っていった。
私にとっての理想のあれ、は平均よりもやや長めだ。その為には背が高く貧相でない男を探さねばならない。
しかしどんなに吟味しても外れを引く可能性があるのだから、世の中は世知辛い。丸出しで並んでくれていればどれだけ楽な事か。
「み、みんな…どこ行ったの…?」
人混みからふらふらと男が出てきて、カウンターに項垂れた。顔が反対側を向いた瞬間、じっと見つめてチェックをする。身長はかなり高そうだ。肉付きが良いとは言えないが、覗く腕はしっかりと引き締まっている。私はごくりと喉を鳴らし、席を立った。よし、やるぞ。
「お兄さん、大丈夫?どうしたの?」
上から顔を覗き込み、声を掛けた。男は一瞬びっくりした様子で目を見張り、頭を持ち上げる。
「友達と来てたんだけど…、気付いたら居なくなってたんだ。俺、こういう所初めてだから何していいか分からないのに」
「そっか。大変だったね。お茶、飲む?」
「あ、うん。ありがとう」
嬉しそうに微笑む男はどこか純情さが垣間見えて可愛らしい。待っててね、と言葉を置いて、一番遠くにいるバーテンダーに注文をしに行った。
「ロングアイランドアイスティー、ふたつ。ひとつは濃いめにして、レモンも多めにしてください」
グラスを受け取り、男の元へと戻った。濃く作られた方を手渡し、同時に口をつける。
「これ、酒?」
「ごめんね、アルコールしか無かったから、仕方なく。飲みやすいやつにしたんだけど」
「そうなんだ。初めて飲んだけど、さっぱりして美味しい」
味が気に入ったのか、かなりのペースで飲み進める男。他愛ない話をしながら、にやけそうになる顔を引き締めて見ていると、半分程グラスが空いた所で動きが緩慢になり始めた。
「あー…、お姉さん、ごめん。俺飲み過ぎちゃったかも…」
「大丈夫?お水飲んだ方が良いかもね。一旦外に出よっか」
ふらふらと立ち上がる男の腕を引き、クラブを出る。丁度通りかかったタクシーを停め、二人で乗り込んだ。
「…ん…、どこいくの…?」
「横になれる場所の方が楽かなって思ったんだけど、いい?」
「うん…、ありがと…」
それだけ言うと、男はこてんと頭を預けて寝息を立てはじめた。取り繕っていた顔を緩め、にんまりと笑う。
「三丁目のホテル街へお願いします」
タクシーが進み出す。私は心の中で大きくガッツポーズをした。
精密ドライバーをケースに仕舞い、散らばったネジをピンセットで拾い上げていく。最後に、組上がった細長い機械にシリコンカバーを取り付けた。
スイッチを押せば、細かく振動しながら先端をうねらせ、やや右を抉る動きを繰り返す。完璧な仕上がりだ。
明日、仕事が終わったら試験をしよう。
アラサー、独身、一人暮らし。恋人も友人もおらず、休日にやることといえばもっぱら趣味の機械製作だ。ところが最近はその趣味すらもこじらせつつある。
今作り上げているのは、自作の特製バイブだ。膣内の計測から始めて何度も試作を繰り返し、ようやく完成まで辿り着いた力作だった。
明日の期待に胸を膨らませ、布団に潜り込んだ。
翌日はもう仕事どころでは無くて、やるべき事をさっさとこなして帰宅した。
風呂場へと駆け込んで体を洗い、指で程々に慣らしてから特製バイブを突っ込む。
「ん…ん?」
振動を強めたり、前後に動かしてみたりと様々に使い方を工夫するが、しっくり来ない。刺激する場所は良いのだが、何かが一味足りないような。
不完全燃焼のままバイブを抜き取り、シャワーで洗い流してタオルに包んだ。丁寧に水気を取りながら思考を巡らせる。
私の膣は充分過ぎる程に計測、研究をしたし、バイブの方も狙い通りの動きをしている筈だ。やはり調査すべきは、あれだろうか。
「はぁ…。行くか」
熱を持つ体を持て余したまま、クローゼットから一張羅を取り出す。肩口から背中に掛けてレースをあしらった、通称エロ透けワンピースだ。
いつもより時間を掛けてメイクをし、ほんのりと香水を纏う。最後に緩く髪をまとめて完成だ。これなら機械オタクの女には見えまい。
小さなバッグにノートとペン、巻き尺を詰め込んで家を出た。
「お姉さん一人?お酒奢ろっか?」
体を突き上げるような重低音の中、バーカウンターで酒を飲みながら人混みを見ていると、ちゃらついた男が話しかけてきた。ちらりと目をやり全身をチェックする。身長、平均。体型、細身。
「ごめんなさい。私、背が高くてしっかりした体型の人を探してるの。貴方は少し、細すぎかな」
「あ、そ、そっか…、お邪魔しました…」
ヤバい女に話しかけてしまった、とでも思ったのだろう、男はそそくさと去っていった。
私にとっての理想のあれ、は平均よりもやや長めだ。その為には背が高く貧相でない男を探さねばならない。
しかしどんなに吟味しても外れを引く可能性があるのだから、世の中は世知辛い。丸出しで並んでくれていればどれだけ楽な事か。
「み、みんな…どこ行ったの…?」
人混みからふらふらと男が出てきて、カウンターに項垂れた。顔が反対側を向いた瞬間、じっと見つめてチェックをする。身長はかなり高そうだ。肉付きが良いとは言えないが、覗く腕はしっかりと引き締まっている。私はごくりと喉を鳴らし、席を立った。よし、やるぞ。
「お兄さん、大丈夫?どうしたの?」
上から顔を覗き込み、声を掛けた。男は一瞬びっくりした様子で目を見張り、頭を持ち上げる。
「友達と来てたんだけど…、気付いたら居なくなってたんだ。俺、こういう所初めてだから何していいか分からないのに」
「そっか。大変だったね。お茶、飲む?」
「あ、うん。ありがとう」
嬉しそうに微笑む男はどこか純情さが垣間見えて可愛らしい。待っててね、と言葉を置いて、一番遠くにいるバーテンダーに注文をしに行った。
「ロングアイランドアイスティー、ふたつ。ひとつは濃いめにして、レモンも多めにしてください」
グラスを受け取り、男の元へと戻った。濃く作られた方を手渡し、同時に口をつける。
「これ、酒?」
「ごめんね、アルコールしか無かったから、仕方なく。飲みやすいやつにしたんだけど」
「そうなんだ。初めて飲んだけど、さっぱりして美味しい」
味が気に入ったのか、かなりのペースで飲み進める男。他愛ない話をしながら、にやけそうになる顔を引き締めて見ていると、半分程グラスが空いた所で動きが緩慢になり始めた。
「あー…、お姉さん、ごめん。俺飲み過ぎちゃったかも…」
「大丈夫?お水飲んだ方が良いかもね。一旦外に出よっか」
ふらふらと立ち上がる男の腕を引き、クラブを出る。丁度通りかかったタクシーを停め、二人で乗り込んだ。
「…ん…、どこいくの…?」
「横になれる場所の方が楽かなって思ったんだけど、いい?」
「うん…、ありがと…」
それだけ言うと、男はこてんと頭を預けて寝息を立てはじめた。取り繕っていた顔を緩め、にんまりと笑う。
「三丁目のホテル街へお願いします」
タクシーが進み出す。私は心の中で大きくガッツポーズをした。
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