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淫紋
しおりを挟む仲間を引き連れて魔王城に乗り込んだが、あと一歩というところで死んでしまった。
やっとの思いで倒した魔王が、まさか第二形態を残していたなんて。
死ぬ直前の記憶に残っているのは、全身からウニウニぐねぐねと触手を生やした魔王の姿だ。ぬめる触手が魔力切れで動けなくなった僕の体を這い、防具を溶かして腹をつつく。
「な、何をするつもりだ!」
「はっはっは、大したことでは無いさ。第一形態の我を倒した褒美をやろうと思ってな」
「くっ…」
そう言うと、魔王は勢い良く触手を動かし始めた。下腹に強烈な痛みが走り、強く噛み締めた歯からギリギリと音が鳴る。
「では、さらばだ。勇者よ」
その言葉を最後に、僕は深い眠りに付いた。
「おはようございます、勇者様。お体はいかがですか?」
気が付くと、魔王城に一番近い町の教会にいた。いつも通り、最後に日記を書いた場所で復活したらしい。
目の前の人は神父様だろうか。優しそうな笑顔と白い祭司服が眩しい。
「ええ、何とか…。復活の呪文を唱えて頂いたんですね。ありがとうございます」
「どういたしまして。どうでしたか、初めての魔王戦は?」
「もう惨敗ですよ…。酷いもんです」
「まだまだチャンスはありますから、ゆっくりレベル上げをしてから挑まれると良いですよ」
神父様は棺桶に横たわっている僕に手を差し出した。その手に支えられながらゆっくりと体を起こす。
「はぁ…。レベル上げもそうですが、防具を買い直さないとならないのが辛いです。ミスリルの鎧、高かったのに」
「復活の呪文では装備の修復までは出来ませんからね。壊れたのは鎧だけです…か…」
神父様の目線が僕の腹に向けられた。優しそうな目が大きく見開かれ、体がわなわな震え出す。
そんなに酷い状態だろうかと自らの体に目をやった。
「こ、これは一体…?」
まっさらだったはずの僕の腹には奇妙な紋様が刻まれていた。ハートのような形をしたそれは毒々しい紫色をしている。明らかに呪いがかけられているではないか。
「し、神父様!」
「ええ。すぐに鑑定をして調べます」
目の前に手がかざされ、青白い光が発せられた。神父様の鑑定魔法は対象のあらゆる状態異常を見抜く力がある。
「何ということだ…これは、淫紋…!」
神父様が頭を抱えてへたり込んだ。あまりの取り乱しように驚きつつも答えを急かすと、何度か言い淀んだ後に口を開いた。
「魔王インキュバスの呪いがかかっています。体力、攻撃力、防御力がすべて1になる呪いです」
「そ、そんな…!」
これでは戦闘への復帰は絶望的だ。魔王に挑んだ時のレベルはおよそ70、攻撃力も防御力も500は越えていた。それでも敗北したというのに、今の僕に何が出来るというのか。
兎に角呪いを解かなければ。神父様の解呪の魔法ならきっと何とかなるだろう。
「残念ながら、これは私達がどうにか出来るものではありません。通常とは異なり、条件を付与することで強力な呪いを発動しているのです。解呪にはその条件を満たすしかありません」
「その条件というのは一体何ですか?」
神父様は益々言い辛そうに顔を伏せた。僕の勇者としての使命がかかっているのだからどんなことでも受け止めるつもりだ、と言うと頬を染め、意を決した様子で口を開いた。
「100人とセックスをすること、とあります…」
「…っ、セッ―?!」
火が吹き出ているのではないかと思うほど顔が熱くなった。まさか、とは思うが清廉潔白な神父様がそんな下品な冗談を言う筈がない。
「僕は姫様の婚約者なんですよ?魔王を倒したら結婚すると約束したのに…」
「しかし、このままでは勇者様の呪いは死ぬまで続くことでしょう」
「くそっ、一体どうすれば…」
その時、神父様が何かを閃いたように僕に手をかざした。再び鑑定魔法がかけられる。
「やはり…。この条件は100人とセックスをすること、とあります。100人の女とセックスをする、ではありません!」
神父様の言葉に、はっと顔を上げた。何ということだ。盲点だった。
「そうか!つまり…、男とセックスをすれば姦通にはならないということですね!」
「ええ。我々神父も神に仕える為に童貞を守りますが、そういった方法で欲望を発散させることは禁じられていません。呪いの条件も満たされるでしょう」
「あぁ、ありがとうございます!希望が見えました!早速試してみないと…」
僕は急いで立ち上がり、教会を後にした。さて、どこへ行ったものか。
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