39 / 39
旅へ
しおりを挟む
喫茶店の座席に向かい合って座り、林田に原稿を差し出した。
普段なら緊張で息が詰まる思いをする所だが、真田は堂々と林田を見つめていた。
「…成る程。―おぉ、いいっすねー」
独り言を呟きながら物凄い速度で紙が捲られていく。
半分程まで来たところで、ばっ、と顔を上げた。
「真田先生、素晴らしい出来ですねー!特に冒頭の、女やくざの刺青の描写が実に艶かしくて…。これは売れますよー」
輝く瞳で真田の手を握り、ぶんぶん振り回す。
「有難うございます。いやぁ、自信作だったものだから、安心しました」
「余程良い旅路だったみたいですねー。これなら次回作も期待できそうだ」
林田は銀縁の眼鏡を外し、ミルクがどっぷり入ったコーヒーを一息に飲み干した。
「林田君、これからの事なんだけれども―」
「はい、どうしました?」
原稿を仕舞い込もうとしていた手が止まる。
「また旅に出ようと思っているんです。そこで書いた物を、こうして林田君の所に持ってくる、という形にしたいかな…と」
例えば半年毎とか、と言いながら林田に目をやると、握っていた原稿をばさりと落として固まっている。
「―っ、また!なんで僕の担当は皆そうなるんすか!確かに勧めたのは僕だけど、引き籠りがちな先生なら大丈夫だと思ったのに―」
頭を抱えて机に突っ伏す林田。
子供の様な姿に、思わず吹き出した。
「家に籠っていては、こんな良い物は書けなかっただろうと思います。―勿論、定期的に連絡するようにするし、居場所は常に知らせますよ」
ね、と首を傾げて林田を見ると、嘆息して顔を上げた。
「分かりました…。真田先生の事だから、姿を眩ますなんて事にはならないでしょうしねー」
絶対定期連絡を忘れないでくださいよ、と言い原稿をかき集めて去って行く。
背中を丸めて歩く林田を見送り、腰を上げた。
「熊井君、お待たせ」
店前で待っていた熊井に声を掛ける。
「お疲れ様です。早かったですね」
「いや、これでも時間が掛かった方だよ。また旅に出るって言ったらとても驚かれてしまってね」
連れ立って駅の方へと歩を進める。
「次はね、今回の話の続編を書くことにしたんだ」
「続編、ですか…」
真田がぴたりと足を止め、熊井の耳元に唇を寄せる。
「だからこれからも、どんどん新しい熊井君を見せてね」
真田はにこりと笑って前を向き、再び歩き出した。
暫く固まっていた熊井も慌てて後を追う。
二人の進む先を祝福するように、ふわりと暖かい風が吹いた。
春の訪れは、もう直ぐだ。
普段なら緊張で息が詰まる思いをする所だが、真田は堂々と林田を見つめていた。
「…成る程。―おぉ、いいっすねー」
独り言を呟きながら物凄い速度で紙が捲られていく。
半分程まで来たところで、ばっ、と顔を上げた。
「真田先生、素晴らしい出来ですねー!特に冒頭の、女やくざの刺青の描写が実に艶かしくて…。これは売れますよー」
輝く瞳で真田の手を握り、ぶんぶん振り回す。
「有難うございます。いやぁ、自信作だったものだから、安心しました」
「余程良い旅路だったみたいですねー。これなら次回作も期待できそうだ」
林田は銀縁の眼鏡を外し、ミルクがどっぷり入ったコーヒーを一息に飲み干した。
「林田君、これからの事なんだけれども―」
「はい、どうしました?」
原稿を仕舞い込もうとしていた手が止まる。
「また旅に出ようと思っているんです。そこで書いた物を、こうして林田君の所に持ってくる、という形にしたいかな…と」
例えば半年毎とか、と言いながら林田に目をやると、握っていた原稿をばさりと落として固まっている。
「―っ、また!なんで僕の担当は皆そうなるんすか!確かに勧めたのは僕だけど、引き籠りがちな先生なら大丈夫だと思ったのに―」
頭を抱えて机に突っ伏す林田。
子供の様な姿に、思わず吹き出した。
「家に籠っていては、こんな良い物は書けなかっただろうと思います。―勿論、定期的に連絡するようにするし、居場所は常に知らせますよ」
ね、と首を傾げて林田を見ると、嘆息して顔を上げた。
「分かりました…。真田先生の事だから、姿を眩ますなんて事にはならないでしょうしねー」
絶対定期連絡を忘れないでくださいよ、と言い原稿をかき集めて去って行く。
背中を丸めて歩く林田を見送り、腰を上げた。
「熊井君、お待たせ」
店前で待っていた熊井に声を掛ける。
「お疲れ様です。早かったですね」
「いや、これでも時間が掛かった方だよ。また旅に出るって言ったらとても驚かれてしまってね」
連れ立って駅の方へと歩を進める。
「次はね、今回の話の続編を書くことにしたんだ」
「続編、ですか…」
真田がぴたりと足を止め、熊井の耳元に唇を寄せる。
「だからこれからも、どんどん新しい熊井君を見せてね」
真田はにこりと笑って前を向き、再び歩き出した。
暫く固まっていた熊井も慌てて後を追う。
二人の進む先を祝福するように、ふわりと暖かい風が吹いた。
春の訪れは、もう直ぐだ。
0
お気に入りに追加
59
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
堕ちる犬
四ノ瀬 了
BL
非合法組織に潜入捜査をしていた若手警察官である主人公が、組織に正体を暴かれ人権を無視した厳しい制裁を受ける話。
※凌辱、輪姦、監禁、スカ、モブ、嘔吐、暴力、拷問、流血、猟奇、洗脳、羞恥、卑罵語、緊縛、獣姦、野外、人体改造、刺青、NTR、フェチズムなどの要素を含みます。ほぼ全話R18描写有り。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【変態医師×ヤクザ】高飛びしたニューヨークで出会いからメスイキ調教までノンストップで行われるえげつない行為
ハヤイもち
BL
外国人医師(美人系変態紳士)×ヤクザ(童顔だがひげを生やして眉間のシワで強面作っている)
あらすじ
高飛びしたヤクザが協力者である外国人医師に初めて会って、ハートフルぼっこで騙されて、ペットになる話。
無理やり、ひどいことはしない(暴力はなし)。快楽堕ち。
受け:名前 マサ
ヤクザ。組でへまをやらかして高飛びした。強面、顰め面。常に眉間にしわを寄せている。ひげ。25歳。
攻め:名前 リンク
サイコパス。ペットを探している。産婦人科医。紳士的で美しい見た目をしている。35歳。変態。
※隠語、モロ語。
※♡喘ぎ入ります。
※メスイキ、調教、潮吹き。
※攻めが受けをペット扱いしています。
上記が苦手な方、嫌悪感抱く方は回れ右でお願いします。
苦情は受け付けませんので、自己責任で閲覧お願いします。
そしてこちらpixivで投稿した作品になります。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16692560
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる