官能小説家の執筆旅行

市樺チカ

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出発

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「そうか、あの店の娘が…」

神妙な面持ちで熊井を見る。
太郎と勇治郎、二人で暴れる漁師共を殴って回った日を思い出していた。


「旭楼のゆうぎりという女が一枚噛んでいるようです」

ちらりと真田を見る。

「ほう、成る程。それでこの色男を連れてきたのか。厄介な女に当たっちまったな」

頭を下げる真田に、太郎は苦笑して茶を勧めた。

「あそこはうちの縄張りだ。もちろん楼主ともそれなりのやり取りがある。俺から掛け合ってみよう」

ぱしりと自分の膝を叩き、腰を上げた。

「一晩で見つけてやる。お前らはゆっくり休んで待っていると良い」
「有難うございます。太郎親分」

宜しくお願いします、と頭を下げて、屋敷を後にする。

途中でふみの家に寄り、親父に事情を説明して宿に戻った。



翌朝早く、太郎の子分が三人、宿へとやってきた。
真田と熊井、二人並んで話を聞く。

「早くから動かしてすまないな」
「いえ、親分の兄弟分の為ですから。それで例の娘ですが―。旭楼別館の仕置部屋にいるようです」

真田は頭を捻った。

「別館?そんな所が…」
「色町の外れにありやす。太い客だけが入れる特別な場所のようで」

熊井は眉根を寄せて子分達を見た。

「そうか。鉄と一緒に居るのか?」
「ひょろっとした男が一人と、少女が一人ついているとか。流石に名前までは分かりやせんで、面目無い」

子分の一人が頭を下げる。
熊井は首を振り、懐から心付けを出して手渡した。

「良く調べてくれた。手間を掛けたな」
「とんでもありやせん。何かあれば手伝うように親分から言われてます。近くに居ますんで、必要なら声を掛けてください」

ぺこりと頭を下げ、子分達は足早に姿を消した。

「よし、では行こうか」

真田が腰を上げ、上着を掴む。
それを見た熊井は、真田の肩に手を置いた。

「先生、ここまでで大丈夫です。荒事になるかもしれませんから、自分だけで向かいます」
「…何を言っているんだい、熊井君。今更待つだけなんて酷だよ。邪魔にならないように約束するから」

真っ直ぐな眼が熊井を見つめる。

「それに、もしふみちゃんに万が一の事があった場合…、証人は多いに越した事はないだろう」

考えたくはないけれど、と呟いて肩に置かれた手に自分の手を重ね、やさしく払う。

「さぁ、早く行こう」
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