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休み
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「ただいま」
真田が部屋へと戻ったのは翌朝になってからの事だった。
足を擦り合わせて靴を脱ぎ、居間へ寝そべる。
「随分お疲れですね。飯は食べられましたか?」
「食べてないよ。お腹ぺこぺこさ」
「何か買ってきましょうか」
顔だけを熊井の方向に向ける。
「熊井君は?」
「いえ、自分もまだ」
「それなら外に行こう。隣に定食屋があった筈だ」
「…、分かりました」
芋虫のように体を揺らし、ぺたりと畳に手をついた。
よいしょ、と掛け声をかけて腰を上げる。
「着替えてくるから、少し待っていてね」
口に手を当てて欠伸をしながら部屋へと消えていった。
「へい、おまちどうさん」
腰の曲がった爺が定食を乗せた盆を運んでくる。
赤い器に入ったつみれ汁がとても美味そうだ。
「頂きます」
互いに手を合わせて箸を持った。
汁に口を付けると、やさしい味わいが胃に染みる。
「熊井君、今日は休みにしようと思うんだ」
「休み、ですか」
「そう。今までずっと付き添わせてしまっていたでしょう?少し気晴らしをしておいでよ」
はい、小遣いね。と封筒を差し出す。
受け取って中を覗くと、そのまま真田に押し返した。
「こんなに頂けません。食事も宿も先生持ちですから、これは貰いすぎです」
「良いんだよ、気にしないで。色街もあることだし、ぱっと遊んでおいで」
にやりと笑って熊井を見た。
「…身の回りの物を買わせて貰います。ありがとうございます」
渋々封筒を仕舞い込む。
真田はつまらなそうな顔をして食事を終えた。
「それじゃ、電話を掛けないといけないから、近くの喫茶店で原稿を書くことにするよ」
「電話、ですか」
「編集社に定期連絡をしないといけないんだ」
「そうですか。では自分は買い物を済ませたら宿に戻りますので」
何かあれば呼んでください、と言い、店の前で二手に別れた。
「―ええ、それなりに進んでいます。…はい。何かあれば、また―」
喫茶店でコーヒーを頼み、電話を借りる。
向こうの電話口ではまだまだ話足りない林田が何か言いかけていた。
短く挨拶をして、無理矢理電話を切った。
席へ戻り、昨日の夜を思い出しながら万年筆を動かす。
書いては捨て、また書いては捨てた。
丸められた紙屑がテーブルいっぱいになる頃。
ふと外を覗くと、幾らかの船を浮かべた真っ青な海が、太陽を浴びて光り輝いていた。
真田が部屋へと戻ったのは翌朝になってからの事だった。
足を擦り合わせて靴を脱ぎ、居間へ寝そべる。
「随分お疲れですね。飯は食べられましたか?」
「食べてないよ。お腹ぺこぺこさ」
「何か買ってきましょうか」
顔だけを熊井の方向に向ける。
「熊井君は?」
「いえ、自分もまだ」
「それなら外に行こう。隣に定食屋があった筈だ」
「…、分かりました」
芋虫のように体を揺らし、ぺたりと畳に手をついた。
よいしょ、と掛け声をかけて腰を上げる。
「着替えてくるから、少し待っていてね」
口に手を当てて欠伸をしながら部屋へと消えていった。
「へい、おまちどうさん」
腰の曲がった爺が定食を乗せた盆を運んでくる。
赤い器に入ったつみれ汁がとても美味そうだ。
「頂きます」
互いに手を合わせて箸を持った。
汁に口を付けると、やさしい味わいが胃に染みる。
「熊井君、今日は休みにしようと思うんだ」
「休み、ですか」
「そう。今までずっと付き添わせてしまっていたでしょう?少し気晴らしをしておいでよ」
はい、小遣いね。と封筒を差し出す。
受け取って中を覗くと、そのまま真田に押し返した。
「こんなに頂けません。食事も宿も先生持ちですから、これは貰いすぎです」
「良いんだよ、気にしないで。色街もあることだし、ぱっと遊んでおいで」
にやりと笑って熊井を見た。
「…身の回りの物を買わせて貰います。ありがとうございます」
渋々封筒を仕舞い込む。
真田はつまらなそうな顔をして食事を終えた。
「それじゃ、電話を掛けないといけないから、近くの喫茶店で原稿を書くことにするよ」
「電話、ですか」
「編集社に定期連絡をしないといけないんだ」
「そうですか。では自分は買い物を済ませたら宿に戻りますので」
何かあれば呼んでください、と言い、店の前で二手に別れた。
「―ええ、それなりに進んでいます。…はい。何かあれば、また―」
喫茶店でコーヒーを頼み、電話を借りる。
向こうの電話口ではまだまだ話足りない林田が何か言いかけていた。
短く挨拶をして、無理矢理電話を切った。
席へ戻り、昨日の夜を思い出しながら万年筆を動かす。
書いては捨て、また書いては捨てた。
丸められた紙屑がテーブルいっぱいになる頃。
ふと外を覗くと、幾らかの船を浮かべた真っ青な海が、太陽を浴びて光り輝いていた。
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