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焼失
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「ほら見てよ熊井君。この情けない文章。全然そそられないね」
両手でがしがしと頭を掻きながら、横にいる熊井に原稿用紙を放り出す。
艶かしく男女が交わる姿が描写され、いつも通りの出来に見えるのだが、真田にとっては塵同然のものらしい。
「君にあげるよ。ちり紙にでも使ってくれ」
机に突っ伏して灰皿に吸殻を押し付ける。
「あぁ、最後の一本だったのに」
「自分が買ってきます」
「ごめんね。これで何か好きなものも買うと良いよ」
少し余分に代金を渡し、原稿用紙を持って去っていく背中を見詰めた。
戸が閉まり、部屋が静寂に包まれる。
懐から小さなインク瓶を取り出すと、万年筆を浸して失敗作の裏に当てた。
するすると紙の上を滑らせる。
薄い桃色のインクは書かれたそばから乾いて、目を凝らしても見えない程に文字が消える。
幾らか文字を書き、万年筆を置いた。
「下らないな、本当に」
不機嫌そうに呟くと懐からマッチを取り出し、火をつけて原稿用紙の下に当てる。
焦げた匂いが漂って、薄墨色の文字が浮かび上がった。
―君をいとおしいと思う気持ちはあれども、伝えることはできぬし、かといって消し去ることも叶わなかった。この紙とおなじように、燃え尽きてしまえば良いと心底ねがっている。―
じりじりとマッチを近づけ、とうとう火が移る。
勢いよく燃え上がる紙を見詰め、灰皿へと捨てた。
両手でがしがしと頭を掻きながら、横にいる熊井に原稿用紙を放り出す。
艶かしく男女が交わる姿が描写され、いつも通りの出来に見えるのだが、真田にとっては塵同然のものらしい。
「君にあげるよ。ちり紙にでも使ってくれ」
机に突っ伏して灰皿に吸殻を押し付ける。
「あぁ、最後の一本だったのに」
「自分が買ってきます」
「ごめんね。これで何か好きなものも買うと良いよ」
少し余分に代金を渡し、原稿用紙を持って去っていく背中を見詰めた。
戸が閉まり、部屋が静寂に包まれる。
懐から小さなインク瓶を取り出すと、万年筆を浸して失敗作の裏に当てた。
するすると紙の上を滑らせる。
薄い桃色のインクは書かれたそばから乾いて、目を凝らしても見えない程に文字が消える。
幾らか文字を書き、万年筆を置いた。
「下らないな、本当に」
不機嫌そうに呟くと懐からマッチを取り出し、火をつけて原稿用紙の下に当てる。
焦げた匂いが漂って、薄墨色の文字が浮かび上がった。
―君をいとおしいと思う気持ちはあれども、伝えることはできぬし、かといって消し去ることも叶わなかった。この紙とおなじように、燃え尽きてしまえば良いと心底ねがっている。―
じりじりとマッチを近づけ、とうとう火が移る。
勢いよく燃え上がる紙を見詰め、灰皿へと捨てた。
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