官能小説家の執筆旅行

市樺チカ

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港町

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波音と共に潮風が吹いて、真田の帽子を飛ばす。
暫く後ろを歩く熊井がぱしりと受け取って、軽く払って差し出した。

「あまり近くに行かれると、波に攫われます」
「あぁ、ありがとう。海を見るのは子供の時以来でね」

海が太陽の光を反射し、真田の横顔を明るく照らす。
風に靡く髪がきらきら光った。

「宿に荷物を置いたら、昼飯がてら散策に行こうね」
「はい」

熊井は眩しさに目を細めると、先を行く真田の後を追った。



「ではその部屋を一部屋、とりあえず五日間お願いするよ。飯はその辺で済ますから、用意しなくて大丈夫」

宿の受付に伝えると、荷物を部屋へ運ぶよう頼んでから再び外へ出た。


「まずは文房具屋に行こうか。インクが終わってしまったんだ」

舶来品の面白いものがあれば尚良いね、と笑いながら歩を進める。


「あそこの店はどうだろう?」
「行ってみましょう」

煉瓦作りの古い建物を改装したと思しき店内は、様々な国から集まってきた雑貨が所狭しと詰め込まれている。

「ありました。ここの一角がインクのようです」

壁一面に木枠が渡され、それぞれの枠の中に変わった色合いのインク瓶が飾られている。

「黒、桃色、空色…ああ、これは面白いね。港の夜、という名前だって」

興奮気味に瓶を取り出す。
濃紺に種々の宝石を粉にしたものを加えているらしい。
試し書きをさせてもらうと、光を反射して淡く光る姿がとても美しい。

「これとこれ、あとそこの色を貰うよ」
「はい毎度。ありがとうございます」

赤いスカーフを巻いたお洒落な店主から瓶を受け取り、熊井へ預ける。

「さ、次は昼飯だね」

ほくほく顔の真田。
その足取りは軽い。

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