官能小説家の執筆旅行

市樺チカ

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惚れる

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小さな木椅子に腰掛けて、目の前の背中を見つめる。
日に当たっていない、真っ白で華奢な背中だ。

「優しく頼むよ。熊井君は力が強そうだから」

手拭いに石鹸を擦り付け、上から下へとこすっていく。
出来るだけ力を抜いて、撫でるように洗った。

「うん、ありがとう。良い感じだ」

少しずつ場所をずらして行くと、真田が左へ頭を傾けた。
右肩へ手拭いを滑らせる。

「…肩がかなり凝っていますね」
「そうだね、職業病さ」
「難儀ですね。風呂を出たら少しお揉みします」
「それは助かるよ。さて、もういいかな」

礼を言って汲んだ湯を被る。

「じゃあ今度は君の番だ。後ろを向いて貰えるかな」
「いえ、自分は結構で…」
「遠慮しなくていいんだよ。ずっと荷物を持ってくれていたんだ。これくらいは大人しくやられてね」
「…有難うございます」

握っていた手拭いを奪い取り、石鹸を擦り付ける。
大人しく背を向ける熊井の肩をぺたりと手で触った。

「凄いね、筋肉の塊だ」

肩から腕にかけて、隆々とした部分を両手で何度も揉む。

「僕の家系は食べても肉にならなくてね。こう言う男らしい体というのに、昔から憧れていたんだ」
「腕っぷしが強いだけで、特に良い物ではありません。華奢な方が女にもてるでしょう」
「そうなのかな?皆自分に無いものを欲しがるね」

手を離し、手拭いで背を擦る。
少し強めだが丁度良い。

「これを入れる時は、血が出るものなのかな?」
「そうですね。血も出ますし、痛みもそれなりに」
「そうなんだ。何処が一番痛かった?」

熊井は自分の腕を眺める。
数年掛けて彫り進めた時の記憶を辿っていく。

「関節と、股ですね。血が良く巡る所や神経が集まる所は特に」
「成る程、それなら脇なんかも痛そうだね」
「仰る通りで。気を失う奴も居ました」
「それは大変だ。僕には無理そうだね」

笑いながら掛け湯で泡を流す。

「先生は白くて綺麗な体をされていますから、こんな風に汚すのは勿体無いですよ」
「ははっ、僕、口説かれているのかな?」

手拭いを軽く濯ぎ、熊井へと返す。

「さてさて、早く浸かって出るとしよう。いつまでも話していると熊井君に惚れてしまいそうだ」

悪戯な笑顔で言うと、目を丸くする熊井を置いて湯船へと戻っていった。
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